会社員にとって、「働きやすさ」はほとんど職場の人間関係が良好かどうかで決まる。特に、上司との関係を良好に保つことは重要だ。上司に気に入られれば仕事はずっとやりやすくなる。一方で、上司に疎まれるとどんなに優秀な人でも仕事はやりづらい。仕事上の知識を増やしたり仕事に役立つスキルを習得することも重要だが、それ以上に上司の攻略は重要だ。この点を疎かにすると、会社員生活は一気につらいものになる。
そうは言っても、上司に気に入られるのは簡単なことではない。上司と一言で言っても、タイプは様々で人によって攻略法が異なるからだ。単に仕事で結果を出しさえすれば認めてくれるサッパリした上司もいれば、徹底的にヨイショして持ち上げることで態度が柔らかになるちょっと困った上司もいる。上司とのつきあい方についての悩みは尽きない。
今回紹介する宝島SUGOI文庫『正しい太鼓のもち方』(トキオ・ナレッジ/宝島社/2015年1月/680円+税)は、そんな上司とのつきあい方についてひとつの解決法を教えてくれる。もしかしたらタイトルを見て、「俺は上司にゴマをすって生きるような人生はゴメンだ」と思った人もいるかもしれないが、ちょっと待って欲しい。タイトルこそ『正しい太鼓のもち方』になっているが、本書には太鼓もちをするつもりでない人にとっても結構役立つことが書いてある。ゴマをするつもりがなくても、上司とのつきあい方に悩んでいるなら読む価値は十分にあると言える。
上司への媚び方を正面から伝授
上司とのつきあい方を扱ったビジネス書は多数あるが、「いかに上司に媚びへつらうか」だけにフォーカスした本はおそらく本書だけだろう。本書では「憧れを伝える太鼓のもち方」「感謝を伝える太鼓のもち方」といったシチュエーション別に、上司に媚びるためのフレーズが全部で35個紹介されている。各フレーズの項目では、どのようなタイミングで言うべきか、特にどのようなタイプの上司に効果的かといったような詳細な説明がついており非常に実践的だ。
社交辞令の難しいところは、使用すべきタイミングやシチュエーションを正しく判断しないと、容易に嫌味や悪ふざけに転化してしまうところだ。本書では、そのような社交辞令の微妙なニュアンスについても事細かに説明されている。たとえば、上司に憧れを伝えるフレーズとして、「芸能人以外でサインがほしいと思った人、◯◯さん(上司の名前)が初めてです」といったものが紹介されているが、注意点として「あまりのすごさにギャップがある場合は悪ふざけにとらえられる」「言うなら本気で書いてもらうつもりで行くべき」といったことも同時に挙げられている。このようなコミュニケーションにおける微妙なニュアンスや空気感について、本書から学べるものは少なくないだろう。
上司の詳細な分類と分析
本書のもうひとつの特徴は、上司のタイプが事細かに分類・分析されていることだ。マニュアル上司、無責任上司、ワンマン上司、七光り上司、エセインテリ上司などなど、本書で紹介されている上司のタイプは30種類を超える。これだけあれば、今の自分の上司も、どこかのタイプにあてはめることができるだろう。
どんなに困った相手でも、タイプにあてはめて考えると対処法はある程度システマティックに決めることができる。「こういうタイプの上司に苦労してるのは、自分だけじゃないんだなぁ」と知るだけでも、だいぶ気が楽になるだろう。
特徴的なのは、すべての上司について「学ぶところは、こんなとこ」という項目がついていることだ。どんなにポンコツで人格に問題がある上司であっても、何かしら学べるところはある(本当にどうしようもない相手でも、反面教師として学ぶことはできる)。この項目は、上司との関係を前向きに捉える上で、きっと役に立つはずだ。
コミュニケーションの参考書として
本書を読んでいると、本書で扱われている内容があてはまるのは実は会社だけではないということに気づく。困った上司への対処法はそのまま困った友人や親戚への対処法としても使えるし、本書で紹介される社交辞令をプライベートに応用して使うことも可能だろう。そういう意味では、本書はコミュニケーション全般についての参考書としても機能しそうだ。
もちろん、純粋に楽しみのために読むのもいいだろう。各項目はそんなに長くないので気軽に読めるし、イラストがポップで面白いのでパラパラと眺めているだけでも楽しめる。会社の人間関係に疲れた時に、息抜きとして読んでみるのもいいかもしれない。ぜひ、本書の自分なりの活用方法を見出していただきたい。
日野瑛太郎
ブロガー、ソフトウェアエンジニア。経営者と従業員の両方を経験したことで日本の労働の矛盾に気づき、「脱社畜ブログ」を開設。現在も日本人の働き方に関する意見を発信し続けている。著書に『脱社畜の働き方』(技術評論社)、『あ、「やりがい」とかいらないんで、とりあえず残業代ください。』(東洋経済新報社)がある。