昨年は「アナと雪の女王」の世界的大ヒットで、多くの人が"3DCGアニメ"のリアルさ、美しさを体感したことと思います。スペイン人のラウル・カルバハル・ソリアノさんは地元セビリアで2Dアニメーターとしてキャリアをスタートし、マドリードの大きな会社に転職後、さらに日本企業で職を得て、2011年に来日。会社に属してはいますが、アニメーターという職業はプロジェクトごとに採用されるフリーランスに近い立場。会社を渡り歩くことも少なくありません。インタビューしたのは、日本で4つめの会社に入社する直前でした。アニメーターという仕事について、文化の違う2つの国で働くことについて、お話をうかがいました。

Raul Carvajal Soriano(ラウル・カルバハル・ソリアノ)さん/35歳/スペイン・セビリア出身/日本滞在歴4年/3DCGアニメーター

■これまでのキャリアの経緯は?

アニメが好きになったきっかけは、テレビで観た「ドラゴンボール」。高校時代には地元セビリアのマンガ教室に通い、漫画家になりたい一心で勉強しました。1997年には、あるマンガコンテストで優勝した経験もあります。ただ、バルセロナで行われた表彰式に出席して、マンガ業界の編集者たちと会ってみると、なんかいやな感じがしたんです(笑)。そこで、漫画家からアニメーターへと、夢を方向転換させました。マンガ教室と同じところで今度はアニメを学び、そこで教えていたアニメ会社の人に引き抜かれ、5年間働きました。ところが会社が倒産してしまって、なんとなくアニメにも距離を置いてみたくなり、いっときタトゥーデザイナーをしていました。

そんな頃、元同僚に「こんなのがある」と紹介されたのが、3DCGアニメの教室でした。なにか新しい世界が広がる希望が見えてきて、タトゥーデザイナーをしながら3DCGアニメを勉強し、その後、そこの先生の会社に就職しました。「もっと大きな仕事」をしたくてマドリードに出て、今度はそこで日本のアニメーション制作会社で働いていた同僚がいて、通訳もつけてもらえるから外国人でも仕事ができると聞きました。「よし次は日本だ!」とその会社、ポリゴン・ピクチュアズに履歴書を送ったところ採用されたんです。それから4年は日本でトランスフォーマーから「聖闘士星矢」まで、様々なキャラクターを手がけてきましたが、今年から4社目の会社で新しい仕事が始まります。

仕事中のラウルさん

■現在のお給料は以前のお給料と比べてどうですか?

スペインでは20~30代の平均月収の2倍くらいをもらっていました。初めて日本でもらった給料はその2割増しくらいで、今は2倍くらいになりましたよ。

■今の仕事で気に入っているところ、満足を感じる瞬間は?

キャラクターが自分の力で動きだし、命を吹き込まれるのを見ると嬉しくなります。現実にはない世界を作り上げられるのも、アニメの楽しいところです。

■逆に今の仕事で大変なこと、嫌な点は?

2Dアニメから始めた私は、「アニメーターは芸術家」という自負があります。2Dアニメーターは手描きのスケッチでキャラクターを起こし、人間らしい動きをさせるために、ときには自分たちで動き、自分たちで演じながら細かい表現をしていきます。ところが、3DCGアニメになると、すべての作業がコンピューターでできてしまいます。極端に言えば、感性はなくても、テクニックがあればできるのです。2Dアニメで必要だったことは、3DCGアニメにほんの少ししか受け継がれませんでした。ただ、3DCGだからできることもあるので、作り手としては嬉しい面もあり、複雑な思いはしています。

■ちなみに、今日のお昼ごはんは?

新しい会社には来週から行くので、今日はまだお正月からの休みが続いています。家族でよく来る下北沢のカフェでサンドイッチのセット(1,000円)を食べました。妻も僕もモルタデッラハムのコトレットと卵のタルタルソースが入ったサンドイッチがお気に入りです。

家族で下北沢のお気に入りのカフェでランチ。ボリュームたっぷりのサンドイッチが気に入っている

■日本でカルチャーショックを受けたことがありますか?

来日したのが2011年1月で、直後に東日本大震災に遇いました。初めての体験でとても怖かったです。会社から3時間歩いて、帰ってきましたよ。でもそれ以外は交通網も発展していて、スペインでは考えられないような遠くから出勤できたり、コンビニやスーパーが遅くまであいていて、ほしいものがすぐ手に入ったり、つくづく先進国だなと思います。役所の手続きも早いですね。妻がスペインでビザをとるときには、申し込みするだけで1週間かかり、結局とれたのは8カ月後でした。日本では5日間で私のビザがとれました!

■日本人のイメージは? あるいは、理解し難いところなどありますか?

日本人と仕事をしていると、何か決めなければいけないときに言いづらいことをはっきり言ってくれないことがよくあります。スペインやヨーロッパでは、気づいたらすぐにダメ出しして、問題解決に努めます。日本ではその場でダメ出しはしないのに、こっそり私のいないところで直したりするのです。無駄な時間を省くためにも、直接言ってくれればいいのに…と思います。でも、日本人は約束事をきちんと守ってくれるし、プロ意識も高いです。いい仕事をしたときに、すごく褒めてくれるのも嬉しいし、励みになります。

■休日の過ごし方を教えてください。

日本人の妻とセビリアで知り合い、結婚して8年になりますが、昨年やっと子供ができたので、休日は150%、彼にべったりです。おしめも替えるし、お風呂も入れて、寝かしつけるのも私です。あとは友達と家族と話したり、散歩をしたりして時間を過ごします。好きなことを仕事にしてしまったので、休日にはできるだけアニメのことを考えないようにしています。妻と映画を観ていてCGが使われている場面になると、「あのキャラクターの動きがちょっとおかしい」などと言って、話の筋とまったく違うコメントをして呆れられます(笑)

■将来の仕事や生活の展望は?

自分で温めているアニメのプロジェクトがあるので、それを実現するために自分で会社を立ち上げるか、支援してくれる会社を探したいです。欧米では表現を制限されることが多いのですが、日本は寛容です。自分の作品を自由に表現できるから、ぜひ日本で夢を実現させたいです。

休日は生まれたばかりの慶(けい)くんと妻の友子さんと過ごす。ラウルさん、慶くんを食べてしまいそうなくらいの可愛がりようだ