ドワンゴとカラーが日本アニメーションの可能性を探るために進める共同企画「日本アニメ(ーター)見本市」の作品群を紹介する番組「日本アニメ(ーター)見本市-同トレス-」の第5回放送が、12月8日にニコニコ生放送にて放送された。
番組には、12月5日に「日本アニメ(ーター)見本市」の公式サイトにて公開された第5弾作品『安彦良和・板野一郎原撮集』を構成・編集した庵野秀明氏と、監修を担当したアニメ特撮評論家の氷川竜介氏が出演。 本作は、『機動戦士ガンダム』の原画を撮影した映像と完成品を比較するという"原撮集"という、これまで発表されてきた「日本アニメ(ーター)見本市」作品とはテイストの異なる内容となっている。
制作のきっかけは「氷川さんが言い出しっぺ」と庵野氏が切り出す。「安彦良和さんの原画がすばらしい」という2人の世間話が盛り上がり、そこから庵野氏自身が編集した書籍『安彦良和アニメーション原画集「機動戦士ガンダム」』が発行され、今回の原撮集はその映像版だという。番組では、『機動戦士ガンダム』本放送当時に発売された、安彦氏が表紙を手がけた『アニメージュ』なども公開され、安彦氏にまつわる思い出話が語られていった。
「安彦良和さんのアニメーターとしての原点であるガンダムの原画、その魅力を今のファンに伝えたかったのです」と熱く語る氷川氏。「これは10年以上前から思っていたことですが、安彦氏の線のままで動いたものって誰も見たことがないんじゃないかと。トレスされていない、机の上で描かれた安彦原画がそのまま動いている映像を見たかったのです」と熱弁すると、庵野氏も「漫画家、イラストレーターとしての安彦良和さんの絵は充分に評価されているけど、アニメーターとしての安彦良和さんは世にあまり出てないのでなんとかして出したいと」と補足。さらに「アニメーションは動いてなんぼ。止め絵で安彦さんの絵を見る機会はまだあるけど、原画が動いているところはなかなかない。動いているところを出しておきたかったのです」と、原撮集制作のきっかけを力説した。本企画は5月頃から本格的にスタートしたが、原画を発掘して復元する作業には苦労が伴い、氷川氏は前田真宏監督から"アニメ考古学"と言われたという。
そして、庵野氏の師匠のひとりとしても知られるアニメーター・板野一郎氏の話題に移り、庵野氏から「最初に会ったときに見た板野さんの原画がこれまたすばらしくて、この人と仕事をしたいと思いました」という当時のエピソードが語られた。本来、アニメ制作が終わってフィルムになると原画は破棄されてしまうらしく、「今回、現存する板野さんの原画は全部入れられた」と庵野氏はうれしそう。「原画集の作業中、別作品のカット袋に入れたガンダムの原画が捨てられかけたことがあったんです。制作の人がたまたま見つけて、『これ、ガンダムじゃないですか!』って(笑)」という出来事もあったという。
板野氏の魅力は「フォルムとタイミングで魅せる人なんです」という庵野氏。「モビルスーツの動きなどは安彦さんをトレスしてるところがあるけど、爆発のフォルムはほぼ無視している。安彦さんもすごくいいんだけど、板野さんの爆発はさらに洗練されているんです」と絶賛。「最初の師匠が板野さんでよかったと思います。がんばっているんだけど、なかなかあの境地には達しない。超えようと思ったけど、超えられない人ですね」と板野氏への想いを口にした。
また、番組では原撮集で使われた原画の現物を披露しながら、作画技法といった専門的な話も。「富野(由悠季)さんのコンテを安彦さんが描くことでさらに素晴らしいものになるんです」と語る庵野氏は、「『ガンダム』が成功したのは安彦さんと板野さん、2人の存在が大きいと思います」と両氏の功績を称えた。ほかにも、これまで原画集に収録されていなかった貴重な原画も登場し、視聴者を驚かせた。
アニメ特撮研究家の氷川氏が注目ポイントを紹介する「氷川の二度見」のコーナーでは、"安全フレーム"をテーマについて講釈。安全フレームとは、本来の撮影フレームのさらに内側にあるひとまわり小さく四隅が丸いフレームのことを言い、当時は曲面のブラウン管TV受像器が主流で、映る範囲がまちまちだったため、どのTVでも共通に映る範囲として"安全フレーム"が設定されていたという。
氷川氏は「安彦さんのカットは撮影フレームと安全フレームの両方でレイアウトが成り立っている。その職人技に注目してほしいです」と力説し、「通常は安全フレームを映像として見る機会はないため、今回の原撮集ならではの見どころとなっています」と語る。すると庵野氏も「『エヴァ』のアスカのパンチラ(TVシリーズ第八話)は安全フレームの外だったんです。危ないものは安全フレームの外に。安全フレームの正しい使い方です(笑)」と、安全フレームのエピソードを披露した。
番組の最後には、庵野氏と氷川氏に対してさまざまな質問が投げかけられた。「お二人の出会いは?」という質問に対して氷川氏は、「『マクロス劇場版』の直後だから、84年の業界の飲み会でしたね」と回答。お互いの印象について尋ねると、氷川氏は「もちろん、すごいアニメーターとしてですよ」と答え、庵野氏は「ヤマト・アソシエイション(氷川氏主宰の『宇宙戦艦ヤマト』ファンクラブ)のすごい人」と返答した。その上で庵野氏はアニメの歴史の重大さに触れ、「未来を探るにしても、まず過去を知っておかないと。今回、この原撮集を作ったのもそういうことがあるんです」と今作の制作意図を明かし、「作品の歴史もあれば、人の歴史もあるので。未来しか見ずに古いものを何でも切り捨てていくのは、あまりよくない観念」とし、「昔のものでも良いものはあるし、今のものでも悪いものはあります」と持論を述べた。
続いて、「クリエイターになるのに大切なことは?」という質問に対して、両氏は「センスと観察力」と回答。「その中でバランスが取れる人と、何かに特化する人と、そこに個性が出ます。ほかに経験値も必要」と庵野氏は語る。「人間は想像力もあるけど、その前に経験とか観察とか何かきっかけがないとそこに至らない。一部の天才を除いて、イメージにはきっかけが必要なんです」と作品作りに大切なことを明かしてくれた。
最後に「庵野氏にとってアニメとは?」と投げかけると、庵野氏は「想像(イマジネーション)と技術(テクノロジー)」と回答。「イメージを作品にするには技術がいるんですよ。想像と技術、アニメには両方必要なんです」とコメントした。さらに「アニメは第三者が見ないと作品として成り立っていないので」と切り出して、日本アニメ(ーター)見本市第3回作品『ME!ME!ME!』が、日本よりも米国での視聴数が多いことを明かした。「やはりアニメは世界に通用するな」と実感したといい、「この企画については商売抜きでやっているので、それ以外の結果を残したい」と意気込みを語った。
また、12月12日には第6弾作品『西荻窪駅徒歩20分2LDK敷礼2ヶ月ペット不可』が「日本アニメ(ーター)見本市」の公式サイトで公開。監督を務めた前田真宏氏、原案・キャラクターデザインの本田雄氏、エンディングテーマを担当したSotte Bosseをゲストに招き、『西荻窪駅徒歩20分2LDK敷礼2ヶ月ペット不可』の上映や作品に込めた思いや制作秘話などを解説する特別番組「日本アニメ(ーター)見本 市-同トレス-」第6回が、動画サービス「ニコニコ生放送」にて12月15日22:00から生中継される。
■「日本アニメ(ーター)見本市-同トレス-」第6回概要
放送日時:12月15日22:00~23:00(予定)
出演者:前田真宏氏、本田雄氏、Sotte Bosse、氷川竜介氏(アニメ特撮研究家)、山田幸美氏(MC)
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「日本アニメ(ーター)見本市」は、『新世紀ヱヴァンゲリオン』などで知られる庵野秀明監督が代表を務めるアニメ製作会社・スタジオカラーとニコニコ動画を運営するドワンゴが共同で行う短編映像シリーズ企画。若い才能に"挑戦の場"を提供するべく立案されたもので、さまざまなアニメーターたちが決められた予算と時間の中でオムニバスアニメーション作品を自由に創作し、毎週金曜日に1話ずつ公開していく。作品は公式サイトおよび公式スマートフォンアプリにて無料で視聴できる。
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