投げられなくても、野手としてケガが深刻だった時は代打として出場した。その代打の1打席にかける集中力、殺気は高校生の域を超越していた

過去のプロ野球選手には誰もおらず、メジャーリーグではベーブ・ルースしか達成していない「二桁勝利&二桁本塁打」やプロ野球最速の162キロ計測……。プロ2年目で脅威の進化を見せている大谷翔平(日本ハム)はなぜ、これほどまでに順調な成長曲線を描くのだろうか?

高校時代から大谷を追いかける『野球太郎』で掲載した記事や、編集部員が過去に行ったインタビューからその理由を検証してみたい。

大谷の成長を助けた「怪物」の前例

怪物は突然生まれるわけではない。大谷翔平は、高校球界ではすでに1年時からうわさになっていた。

大谷にとって幸運だったのは、入学した花巻東に「怪物」の前例があったことだ。同校の3学年上には「岩手の怪物左腕」と呼ばれた菊池雄星(現西武)がいた。

そのため、「どうすれば希有(けう)な才能をそのまま伸ばすことができるか」「注目されてもつぶされないようにするにはどうしたらよいのか」「ケガを防ぐにはどうすればいいか」などといった貴重な知見が、同校には蓄積されていたのだ。

特に大谷の場合は、花巻東高校入学後、身長が190センチを超えてもまだ骨が成長していたため、佐々木洋監督は勝利よりも育成を優先。「投手としての成長のピークは22~23歳くらい。ケガをさせたら大変だ」という信念のもと、甲子園がかかった試合でも大谷が万全ではなければ投げさせず、地道な下半身トレーニングを徹底させた。

ちなみにこの「成長期」というワードは、二刀流に挑戦する理由の1つにもなっている。周囲から沸き起こる「ピッチャーの体とバッターの体は違う」という意見をどう思うか、大谷自身に質問をした際に次のように答えている。

「僕の体はまだ、そんなことを言える基準に達していないと思います。まずは野球選手として、アスリートとしての基本的な体、しっかりと動く体を作ろうというテーマでやっています」。

ダルビッシュや藤波らのモノマネに見る「具現化力」

まだまだ「成長期」だという大谷の体。一方で、体が成長することで今までのプレー感覚が崩れたり、ケガをしたり、力を発揮できなくなったりする選手はプロの世界でも多い。ところが、そんな危惧は大谷には当てはまらない。

「(プロ2年目の)キャンプの最初の頃はやっぱり感覚のズレはありました。でも(感覚を)合わせればいいだけなので、はい。体が変わればフォームも変わってきますし、現状で止まるよりはいいかなと思います」。

この「合わせればいいだけ」という順応能力の高さも、大谷の非凡さのひとつといえる。

「大谷は視覚の情報を確実に体で表現することができる」とは、花巻東時代の小菅智美コンディショニングコーチの言葉。実際、ダルビッシュ有(レンジャーズ)や藤浪晋太郎(阪神)のモノマネも得意だという。イメージを具現化できる能力のおかげで、体が成長し、変化を続ける中でも、その力をしっかりとボールに伝えることができるのだ。

高校時代から今も変わらず「歴史に名を残す選手になりたい」と語る大谷。これからどんな「大谷伝説」が新たに生まれてくるのか楽しみだ

二刀流だからこその相乗効果とは

今季の大谷がすさまじかったのは、160キロ前後のボールを試合中に何球も投じていたことだ。過去に160キロを投げた投手のそれは、いわば「瞬間最大風速」のようなもの。先発でコンスタントに160キロ超のボールを投げる選手は存在しなかった。

また、スピードボールは大抵、高めに浮いてしまいがち。だが、しっかりと低めを意識した投球を徹底したからこそ、二桁勝利に結びついたのではないだろうか。この「低めの重要性」に気づけたのは、「二刀流に挑戦しているからこそ」と取材で明かしてくれたことがある。

「プロで打席に入るようになって、対戦ピッチャーの低めのストレートが伸びるということを感じました。高校のときなら、低めから沈んでボール球になるようなストレートが、そこから伸びてきてストライクになったこともありました。そこがプロとアマチュアとで大きく違っていたので、プロはすごいなと思いました」。

基本的に交流戦でしかプロの球を体感できないパ・リーグのほかの投手とは異なり、大谷は日常的にプロの球を打席で経験している。だかこそ、一流の低めの直球の威力やその有効性に気づけ、「投手・大谷」に役立てることができたというわけだ。

さらに、刻一刻と変わっていく状況の変化を、投手と打者で経験できていることの相乗効果も語ってくれた。

「バッティングはカウントだったり、相手ピッチャーのタイプだったり、状況によって変わってきます。そこに対応するための精神的な心構えを持つことを経験できているので、その点では自分がピッチャーをやるときに精神的に優位に立てるのかなと思います。逆にバッターをやっているときも『ピッチャーはこう来るかな? 』と予測が立てられますし。まずは技術より、そこが一番大きいです」。

まだ20歳の大谷翔平。佐々木洋監督の「22~23歳が成長のピーク」という見立てが正しいとすれば、われわれはこの先、さらに進化した大谷の姿を見ることができるということだ。来季以降が早くも待ち遠しくてたまらない。

週刊野球太郎

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