高橋大輔選手(右)との2ショット

トリノ、バンクーバー、ソチと3度の五輪に出場し、長年にわたって男子フィギュアスケート界をひっぱってきた高橋大輔選手。今シーズンは競技会には出場せず休養することを宣言しており、心身ともにリフレッシュを図っているのではないでしょうか。

踏めば踏むほど加速するステップ

高橋選手の魅力は、華麗なステップにあります。ステップは、ターンやトゥステップなどを組み合わせて行うものですが、「音楽と足の動きが合っているか」「ターンは正確か」「エッジが深く傾けられているか」などが評価のポイントになっています。

ターンとは片足で方向転換をする動きのことでして、選手は方向転換時に氷に図形(figure)を描きます。ご存じの方も多いかと思いますが、フィギュアスケートの起源は、ジャンプをしたり踊ったりすることではなく、氷に図形を描くこととされています。この図形はエッジのインサイド(内側)・アウトサイド(外側)を正しく使わないと間違った図形になり、評価(レベル)が下がる要因にもなります。

高橋選手はこのターンをする際、スピードを落とすことなく正しいエッジで図形を描くことができます。またトゥステップなどと組み合わせた際には、ステップを踏めば踏むほどに加速をしていくため、ステップに対して高評価が得られやすいというわけです。

身体の中から音楽が奏でられているかのような演技

また高橋選手の魅力はステップだけではなく、表現力もすばらしいものだと言えます。過去に高橋選手が競技会で使用した曲には、「マンボメドレー」のような激しい曲調や「月光」のようなしっとりとした曲調など、さまざまなものがありました。ただ、どの曲も表現がすばらしいものでした。

高橋選手の演技は、まるで「身体の内側」から音楽が奏でられているようです。無音の状態にしても、高橋選手がどのような曲調で滑っているのかが、見ている人に伝わるような演技だなと私は感じています。

高く、安定した演技構成点

フィギュアスケートの採点は、「技術点」と「演技構成点」の2つに分けて行われます。演技構成点は

・スケートの質

・技と技のつなぎのフットワーク

・身体の動きや感情の表現

・振り付け

・音楽の解釈

以上5つから成り立ちますが、高橋選手はこの5項目の評価がいつも高い評価になっています。

技術点は、その日のジャンプなどの調子によって点数にばらつきが出ることも多々あります。ですが、演技構成点は調子の波が出ることが少なく、評価はおおむね一定のものになっています。そのため、たとえジャンプなどの技でミスが出たとしても、演技構成点で高い評価を得ることができれば、ミスをカバーすることができるともいえます。

私の現役時は、高橋選手と一緒のチームで練習をさせてもらっていましたが、高橋選手は、練習の時から表情や身体の動かし方にこだわって練習をしていたのが印象的でした。今シーズンを終えてどのような結論になるかは分かりませんが、また会場中の視線がくぎ付けになるような演技が見られることを楽しみにしています。

筆者プロフィール: 澤田亜紀(さわだ あき)

1988年10月7日、大阪府大阪市生まれ。関西大学文学部卒業。5歳でスケートを始め、ジュニアGP大会では、優勝1回を含め、6度表彰台に立った。また2004年の全日本選手権4位、2007年の四大陸選手権4位という成績を残している。2011年に現役を引退し、現在は母校・関西大学を拠点に、コーチとして活動している。