物理学者のスティーヴン・ホーキング博士が新たな視点で宇宙理論を検証するシリーズ「ホーキング博士のよくわかる宇宙」が、ドキュメンタリーチャンネル「ディスカバリーチャンネル」で放送されている。28日17:00からの放送では、博士が「タイムトラベル」の実現性を解説する。
「変人」と思われないように、タイムトラベルの話題を避けていたというホーキング博士。しかし、検証を重ねていく中である結論にたどり着く。可能性として考えられるのは、ワームホールの利用、ブラックホールの利用、超高速移動の3つの説。中でも博士は「超高速移動」を有力視している。
SF映画でもよく目にしてきたタイムトンネル。物理学者たちは自然法則に反さないようなタイムトンネルを追求し、その存在を「ワームホール」と命名した。時間と空間を貫くこの小さなトンネルは、10の33乗分の1センチという極小サイズで原子よりも小さな「量子の泡」の中に存在し、常に生まれては消えてを繰り返している。これを、人間や宇宙船が通れるほどの大きさに拡張すると、2つの離れた場所や異なる時間を行き来できることになる。
科学の進歩によってワームホールの拡張が可能になったと仮定すると、実現を阻む2つの難点が浮かび上がる。1つは、過去へのタイムトラベルで起こる矛盾「タイム・パラドックス」。博士は因果律(原因の後に結果が生じる法則)が破綻すると、宇宙全体が混乱に陥り、「何らかの抑止力が働くはず」と見ている。ある科学者がワームホールの拡張に成功したとする。そのワームホールがつながっているのは、1分前の過去。彼は拳銃で1分前の自分自身に発砲するが、撃たれた1分前の自分は拳銃の組み立てが終わっていない状況だった。では彼を撃ったのは誰か。過去へのタイムトラベルはそんな矛盾をはらんでいる。2つ目に挙げられる「フィードバック」とは、ワームホールを大きく広げると中に自然放射線が入り込み、繰り返し増幅されてしまう現象のことで、結果、ワームホールは破壊される。「ワームホールはきっと存在しますし、いずれ拡大もできるかもしれません」という博士だが、これらの理由から「過去にタイムトラベルをすることは不可能」だと考えている。
次に「ブラックホールを利用する」という説。100年以上前にアインシュタインが提唱した「質量が大きくなるほど時間は遅く流れる」という理論は、衛星の時間の差異からも事実だということが証明される。宇宙のGPS衛星に付いている時計は、1日におよそ3億分の1秒ずつ速くなっている。この不思議な現象は、地球の質量が深く関係している。地球から2万6,000光年の場所にある、銀河系で最も重い物質「超大質量ブラックホール」。自分自身の重力で押しつぶされた、太陽の400万倍の質量を持つこの天体は、いわば天然のタイムマシンとも言える。
直径4,800万キロの巨大な周回軌道に乗った宇宙船。遠く離れた地球では、1周16分に見える周回速度が、船内での時間は8分しか経過しない。宇宙船がブラックホールを5年間周回している間に、地球では10年が経過。地球に戻ると、周りの人々は乗務員より5歳年をとっていることになる。つまり、それは未来の地球。しかし、博士は「現実的とは言えない」と主張する。身の危険に加え、地球から離れていることからさほど遠い未来に行くことができないためだ。
そして、最も有力視している超高速移動は「驚くほど単純」だという。スピードの限界は、光の速さである秒速30万キロ。地球を1周するレールをその速さで走ることができる列車があるとすれば、1秒間に地球を7周することができる。そして、極限まで光の速さに近づくと、車内の時間の流れはスローモーションに。これは、光の速さを超えさせないための「自然法則」によるもの。理論上では、列車に乗って車中で1週間過ごすと、下車した時には100年が経過していることになるという。
番組の最後、ホーキング博士はこんな言葉を残している。「私たちは今回の旅を通じてさまざまな宇宙の不思議を知りました。時間の進むスピードは場所によって違うこと。信じられないほど巨大なブラックホールが時間と空間をゆがめること。小さなワームホールはあらゆる場所にあること…。この先 私たちに必要なのは技術の開発です。そうすれば物理法則の知識を生かして時間を旅することが可能になるでしょう」