熱戦続く甲子園大会。テレビ中継を見ていると、いつもバックネット裏の同じ場所でラガーシャツを着て観戦している人がいることに気づかないだろうか。あの人は何者なのか? なぜいつも同じ席で観戦できるのだろうか? 甲子園バックネット裏の不思議なおじさんの謎を解明していこう。
実は東京都豊島区在住
高校野球の甲子園大会期間中、バックネット裏最前列のいつも同じ場所で観戦しているラガーシャツのおじさんは、本名を善養寺隆一さん(48歳)という。いつも甲子園にいるから大阪や神戸の人かと思いきや、実は東京都豊島区巣鴨在住。甲子園大会中だけ甲子園にやって来て、球場の「8号門」という入り口の前で、連日野宿をして観戦しているのだ。
逆にいえば、野宿をして並ばないと、バックネット裏最前列といういい席を毎試合確保することはできない、ということでもある。普段は家業の印刷業を手伝いながら、春のセンバツと夏の甲子園の期間は仕事を一切入れず、大会期間中ずっと野宿をしながら観戦する毎日を過ごす。1999年のセンバツからこの観戦スタイルを続け、連続観戦記録は優に1200試合以上。最近では甲子園にやってきたファン、そして出場を果たした球児や監督からもサインを求められるほど、甲子園大会にはなくてはならない存在になっている。
保有ラガーシャツは100枚!?
毎試合、同じ場所で観戦すること以外にもう1つ、善養寺さんの観戦スタイルが注目を集める理由がある。それは、常にラガーシャツを着て観戦していること。「ラガーシャツをいつも着ているおじさん」から転じて「ラガーさん」という愛称が生まれた。
ラガーシャツをいつも着るようになったのは13年前から。甲子園球場の目の前にあるスーパーで売っているのをたまたま購入したところ、丈夫で汗の乾きも速いことが気にいった。それ以降、野球観戦以外の普段の生活でも常にラガーシャツを着るようになったという。
集めたラガーシャツは50着を超え、本人いわく「100着くらいあるのでは?」と正確な数は確認できないほど。数えきれない理由は、自分で買うだけでなく、全国のファンからラガーシャツをプレゼントされるようになったから。近年の大会では、試合ごとにラガーシャツを着替え、そのシャツの色を記録し続ける「ラガーさん観察」のファンまで生まれたほど。甲子園大会中は「#ラガーさん」のハッシュタグでTwitterが大いに盛り上がる。
昨年の大会では、ラガーさんのシャツの色を夏休みの自由研究のテーマにした小学生まで現れた。その小学生は見事、地元の発表会で表彰を受け、ラガーさんとは今でも交流が続いているという。
誰にも邪魔されない自分だけの世界
いくら高校野球が好きとはいえ、なぜこんな応援スタイルを続けることができるのか? 今年、出版した自叙伝『甲子園のラガーさん』(オークラ出版)の中で、その理由を次のように語る。
《最前列の席から見る高校野球は、アルプス席や外野席から見るのとでは、世界が全く違います。打球の音や、投球がミットに吸い込まれる音、監督の声や、選手の叫び声なども聞こえてきます。甲子園特有の風も、グラウンドにいる選手と同じレベルで体感できます》
《ネット越しから見る甲子園の景色は最高です。金網に顔をつけて、ワイヤーとワイヤーの隙間から甲子園をのぞいて見ると、目の前には、誰にも邪魔されない自分だけの世界が広がります。目の前に広がる、甲子園球場の景色すべてが自分のものになるのです。あの素晴らしさ、爽快感は、言葉ではいい表せません》
そんなラガーさんが甲子園観戦とともに大切にしているのは、同じ観戦仲間との交流だ。大会期間中は、ラガーさん同様に甲子園球場の8号門前で野宿する「甲子園8号門クラブ」のメンバーとの熱い野球談義で夜を明かす。ほとんどのメンバーとは甲子園球場以外で会うことはなく、大会が終わると来春のセンバツ大会での再会を誓い合い、「良いお年を」とあいさつを交わして別れるという。
「第100回記念大会」でも最前列で!
今大会は、台風の影響で史上初となる「開幕から2日間順延」という異常事態が起き、先頭で並んでいたラガーさんはさらに2日間も並び続けなければならなかった。体力的には疲れても、久しぶりに会う観戦仲間たちとの近況報告をゆっくりすることができたと喜ぶ姿があった。
今後も体力が続く限りこの観戦スタイルを続けたいと語るラガーさん。当面の目標は、4年後、2018年夏に迎える「第100回記念大会」でも最前列で甲子園大会を観戦すること。その目標を見据えながら、今日もラガーさんは甲子園バックネット裏最前列の席から球児たちに声援を送る。
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