新作アイスが世に出るまで、約1年

--生産に入るまでのプロセスを簡単に教えていただけたら

井上さん「まずは製品コンセプト。マーケティング部から『こういったものをつくりたい』という依頼書が出て来ます。それにしたがって配合を考えます。実現するために、どういった原料をどれだけ入れたらいいのか。またそのためにクオリティの高い原料を各メーカーさんからご提案いただきます。もちろん味も良くないといけないし、限られたコストの中で考えて試作の繰り返しですね。ある程度いいものができたら、メンバーと食べて、マーケティング部に試作品の評価を依頼します」

--原料を仕入れるのにはどういうやりとりをするのですか?

井上さん「原料メーカーさんがあるんですよ。いろいろなメーカーさんがあって、クオリティの高いところにお願いして組み合わせています。いい素材を持ってくるというのも仕事のひとつです」

--この原料だったらこのメーカーさん! などあるんですね

井上さん「そうですそうです。ただ『これは絶対用意してくれ』といっても、『海外の原料で、すぐには用意できません』ということや、量がないので使えないということもあります」

--開発部でOKが出た試作をマーケティング部に持って行くと、また要望があるのですか?

井上さん「そうですね、マーケティング部の求める味とすり合わせることになります。『もっと味を濃くしよう』とか『後味をすっきりさせよう』などのフィードバックをもとに最終的にブラッシュアップしていきます。法規法律に違反してもだめですし」

--違反する場合というのは?

井上さん「『アイス』には、いろいろな決まりごとがあるんですよ。例えば、イチゴの詳細なイラストや写真を使うためには5%以上のイチゴ果汁や果肉が入っていないとだめです。細かく規定がありまして、脂肪分や乳固形分の割合によって『アイスクリーム』『アイスミルク』『ラクトアイス』と、商品上の種類別表記も違ってきます。味の面、法律の面、製品コンセプト、いろいろなこと考えながら作っていきます」

--いろいろクリアしたうえで、生産の方に行くんですね

井上さん「そうですね。工場へ行ってどうやって生産するか…われわれが手作りするレベルと、工場の機械で製造するレベルというのは規模や作業が違ってきますから。テストして、これで風味的にも製造的にも問題なしとわかって、初めて製品として成立します」

--実際に世に出るまではどれくらいの時間がかかるのですか?

井上さん「商品によってまちまちですが、大変なものはやはり時間が掛かります。平均すると約1年はかかっています」

味覚を鍛える研修が存在する

--研究所で試作する際には、アイスを作る機械があるんですか?

井上さん「いっぱいありますよ(笑)」

--家でもピノを作れるんですか?

井上さん「あんなに大きい機械は家にはないですが、持って帰ったらできるかもしれません。アイスのできたてはすごくおいしいですよ! 製品は冷凍下で固い状態になってしまうと思いますが、できてすぐの柔らかい状態は本当においしいです」

--できたてに近い形で食べるには、少しおいた方がいいのかも…

井上さん「そうですね、ちょっと溶かして」

--細かな味の違いは入社してわかるようになるものですか?

井上さん「全社的にトレーニングをしているんですよ。社内の制度ですが、『風味パネルマイスター制度』といって、甘味や塩味などの『基本5味』を配合した水が並んでいて、利き酒のように『これは○○です』といったテストをします。一般の人ではわからないレベルのものもあります」

--社内で『あいつは舌がすごい!』と言われるような人はいるんですか?

井上さん「いますね。一定基準をクリアした人は『風味パネルマイスター』という称号が与えられます」

--アイスの開発でうれしいのはどんなところですか?

井上さん「1番良いのは、アイスが嫌いな人がほとんどいないところです。それはやってて楽しいですね。自分の製品の評判は気になるので、WEBの評価サイトも見るようにしています。いいコメントだとうれしいし、辛辣(しんらつ)だと今回足りなかったのかな、と反省します…」

--今まで関わったなかで、1番好きな味はなんですか?

井上さん「最新の『ピノ 香り広がる抹茶』ですね!」

井上さんおすすめの『ピノ 香り広がる抹茶』

--香りが広がるような工夫がしてあるんですか?

井上さん「そうですね、チョココーティングの部分に宇治茶葉を使っています。製品そのものから香り立つようなアイスにするには…と考えて、チョコがとけたときに口の中から香りが感じられるようなものがいいなと考えたんです」

--今後つくりたいものはありますか?

井上さん「もっと、高齢者の方に好まれるものとか、健康や美容方面に合致していくものも良いのではないかと思っていますね。ピノは高齢者や女性が一口で食べやすい製品なので、いい切り口になるのではないかと思います」

--ありがとうございました!