漫画原作の実写化には、必ずといっていいほど逆風が吹く。決まって議論されるのが配役。原作に熱心なファンがついているから当然のことではあるが、映画『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(8月1日・9月13日公開)で"志々雄真実役が藤原竜也"と発表された時、どれだけの人が賛否に分かれたのか。『デスノート』では夜神月、『カイジ』では伊藤開司。志々雄を演じ終えた今、藤原自身は漫画原作のキャラクターでは「もうやることはない」と捉えている。それは、なぜか。藤原が、自身をそこまで言わしめた"志々雄真実"を語り尽くした。

藤原竜也
1982年5月15日生まれ。埼玉県出身。1997年に蜷川幸雄演出の舞台『身毒丸』のロンドン公演で主演デビュー。深作欣二監督作『バトル・ロワイアル』(00年)で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。主な出演映画は『DEATH NOTE デスノート』シリーズ(06年)、『カイジ』シリーズ(09・11)、『藁の楯 わらのたて』(13)、『神様のカルテ2』(14)、『サンブンノイチ』(14)、『MONSTERZ モンスターズ』(14)など。
撮影:大塚素久(SYASYA)

――6月の完成披露イベントで、佐藤健さんは本作を「日本映画の歴史が変わる」と表現しました。それを聞いてどのように思われましたか?

僕は現場にいる時から「後戻りできない」と感じていました。お金もすごくかかっていますから(製作費30億円以上)。「できない」じゃなくて「やっちゃえ」しかない。だから、今振り返ってみてもすごい現場だったなと。きっと全員が「志々雄をできるのか?」と感じていたと思うんですよ。

何度も衣装合わせを重ねたり、話し合ったり。現場に行って何もしないで帰ることもありましたし、準備が整わなくてスタートできないこともありました。みんな手探りで賭けをしながら、突っ走っていた。でも、観終わって思うのは、世界に通じる、今まで誰も撮ったことがないような作品。アクションも谷垣健治さんのもとやらせてもらいましたし…本当にすごい現場でしたよ。

――今までそんな現場はなかったんですか?

まず…「2度と着るか」という志々雄のスーツ。それを朝着ると無言になり、機嫌が悪くなります(笑)。音も聞こえない上に視界も悪い、ご飯も食べられない、トイレにもいけない、しゃべりたくない、いろんな人にベタベタ触られる。もうね、最悪な状況なんですよ(笑)。それで早朝から深夜までやるんです。それは、たまったもんじゃない!

ただ、ほかの俳優さんに比べたらプラスアルファな一面もあります。仮面をつけたら違う自分になれるというか。ビジュアルをみんなに作ってもらえれば、あと僕は現場に行くだけ。それは救われた部分だったと思います。1つ自分に負荷を与えることは、志々雄が抱いていた明治政府に対する怒りにも通じるのかなと。でも、本当に大変です。これは着てみた人にしか分からない(笑)。

――これだけ大変な役柄ですが、オファーが来た時の心境は?

いけるのかいけないのか分からないということと、ビジュアル的にどこまでのものができあがるんだろうなということ。あとは完成された座組に入っていくというのは、ある種の転校生じゃないけれども、妙な不安と緊張を抱えながら入っていかなければならない感じでした。でも、健くんも大友(啓史)監督も志々雄を迎え入れてくれて。それはありがたかったですね。アクションシーンも大変でしたよ。

――確かに激しかったですね。

クランクインの数カ月前から、何十人ものアクションチームに付き合ってもらって。大立ち回りです。志々雄の存在感を意識して動きを考えたり。今回、谷垣健治さんと初めて組んだんです。谷垣さんの手法が、今後の映画界を席巻していくんじゃないかなと思います。谷垣さんのアクション部なくして、『るろうに剣心』は語れません。

キャラクターに関しては、デザインや衣装の澤田石(和寛)さん、特殊メイクの小此木(謙一郎)さんをはじめ、皆さんが"志々雄真実"というキャラクターを作ってくれました。その一流たちの仕事ぶりはすごかったです。

アクションも大変だったんですけど、全スタッフの志々雄に対する気遣いや思いがすごく強かった。15分くらい空いたりしても「ちょっと脱ぎますか?」とか言ってくれたり。そういう言葉は本当に救われました(笑)。あらためて、1人で物は作れないと実感させられた現場でした。