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猫には肛門の左右に肛門嚢と呼ばれる袋がついています。肛門嚢の中には肛門腺があり、強い臭いを発する液体を分泌します。肛門腺の分泌物の匂いは個体ごとに違うので、猫同士のコミュニケーションに使われます。

肛門嚢が破裂すると肛門が3つあるように見える

肛門腺自体は猫の正常な構造ですが、肛門嚢の中に膿がたまったり、肛門嚢の出口(開口部)が詰まると肛門嚢が破裂します。左右の肛門嚢が破裂すると、あたかも肛門が3つあるようにみえます。

肛門腺しぼり

肛門腺の分泌物の性状は猫により個体差があります。分泌物がサラサラであれば自然に排出されますが、ドロドロしている猫は定期的に分泌物を出してあげないと詰まることがあります。肛門腺の分泌物を出してあげることを動物病院では「肛門腺しぼり」と呼ぶことが多いです。

肛門腺しぼりが必要な猫

全ての猫に肛門腺しぼりをする必要はありません。長年猫を飼っていても、肛門腺しぼりなんてしたことがないという方もいるでしょう。

(図0)破裂した肛門腺(画像クリックでモザイクなしのものを閲覧できます)

下記の症状が見られる場合は、その猫は肛門腺しぼりが必要といえるでしょう。

1. 過去に肛門腺破裂をおこしたことがある猫(再発率が高いので)
2. 肛門腺の分泌物が泥状で将来肛門腺破裂が起こる可能性が高い猫
3. 肛門腺の分泌物が溜まるとお尻を床こすりつけたり(お尻歩き)、過剰に舐める猫
4. 肛門腺の分泌物が溜まると排便時に痛みやしぶりがある猫

肛門腺しぼりのやり方

図1 (画像クリックでモザイクなしのものを閲覧できます)

(1)肛門嚢と開口部のイメージを掴む

肛門嚢は実際には見えませんが肛門を時計の中心として、4時、8時方向にあります(図1)。肛門嚢に溜まった分泌物は導管を通って肛門の脇(開口部)から排出されます。

図2 (画像クリックでモザイクなしのものを閲覧できます)

よく見ると肛門の近い位置に肛門嚢の出口(開口部)が見えます(図2赤○)。毛が長い猫や、開口部が肛門の内側に入っている猫では見つからないこともあります。実際に開口部を確認できなくても肛門嚢と開口部のイメージが掴めていれば肛門腺しぼりはできます。

図3 (画像クリックでモザイクなしのものを閲覧できます)

(2)肛門嚢を指で圧迫

親指と人差し指を使って肛門嚢にたまった分泌物を押し出します。肛門嚢から開口部に向かってしぼり出すように圧迫します(図3)。このときに写真の黄色矢印のように少し押し込みながらしぼるとうまくいきます(図4)。

図4 しぼっている姿を横から撮影(画像クリックでモザイクなしのものを閲覧できます)

コツや注意

(1)肛門の周りを触ることは猫が最も嫌うことの1つです。肛門腺をしぼるときは、誰かにおさえてもらいながら行いましょう。強く抵抗する場合は無理をせずかかりつけの動物病院に相談して下さい。

(2)肛門腺の分泌物は非常に臭いが強いです。写真では見やすいように素手で行っていますが、ゴム手袋を装着したり、あるいはティッシュ越しに行うことをお勧めします。しぼった後は肛門周囲を軽く拭いてあげてください。

(3)肛門腺の分泌物が既に固くなっている場合、無理にしぼると肛門嚢が破裂します。肛門の周囲に固いものが触れるときはかかりつけの動物病院に相談して下さい。

肛門腺 Q and A

――肛門腺しぼりをやらないと肛門嚢疾患(肛門嚢炎や肛門嚢破裂)になってしまうのでしょうか?

上にも書きましたが肛門腺しぼりをやらないと必ず肛門嚢疾患になるわけではありません。むしろ多くの猫は自然と分泌物は開口部から排出されます。一部の分泌物が泥状の猫や、膿が溜まりやすい猫は人間が出してあげないと肛門嚢疾患になることがあります。

――どの年齢の猫に必要なのでしょうか?

肛門嚢破裂はあらゆる年代の猫で発生します。そして再発率の高い疾患ですので、一度肛門嚢が破裂した猫は定期的にしぼってあげましょう。

――自宅で素人が行っても大丈夫なのでしょうか?

やはり無理に行うと、肛門嚢が破裂する可能性はあります。そして猫が抵抗して飼い主、猫ともに怪我をする可能性もあります。猫は一度嫌な思いをすると覚えているので二度とおしりを触らせなくなってしまうかもしれません。最初は何回か動物病院で獣医師の指導下で行い、コツがわかったら自分でやるようにする方が安全でしょう。

――どのくらいの頻度でやればいいでしょうか?

肛門腺の分泌物が溜まるスピードは猫によって個体差があります。目安は月に1回程、それでも肛門嚢破裂を繰り返すようであればもっと短期間でしぼる必要があります。

――肛門腺をしぼる以外に予防法はないのですか?

高線維食のフードを与えると、糞便が大きくなり排便のときに肛門が拡大されるので、肛門嚢から分泌物が出ると言われています。また、肛門嚢に膿が溜まっている場合は、温湿布の使用が有効なことがあるようです。しかし猫でどのぐらい予防効果があるかは明らかになっておらず、確実な予防には定期的な肛門腺しぼりをおすすめします。

肛門嚢の疾患は非常に頑固なことがあり、再発を繰り返す場合は手術で肛門嚢を摘出することもあります。多くの猫は問題になることはありませんが、肛門腺分泌物が泥状の場合や、膿が入りやすい場合は注意が必要です。一度愛猫の肛門腺分泌物の性状をチェックしてみてはいかがでしょうか。

■著者プロフィール
山本宗伸
職業は獣医師。猫の病院「Syu Syu CAT Clinic」で副院長として診療にあたっています。医学的な部分はもちろん、それ以外の猫に関する疑問にもわかりやすくお答えします。猫にまつわる身近な謎を掘り下げる猫ブログ「nekopedia」も時々更新。