日本発の人気ゲームシリーズ『ソニック・ザ・ヘッジホッグ 』が、米国ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントと日本のCGスタジオ マーザ・アニメーションプラネットによって映画化されることが発表された。映画『ワイルド・スピード』シリーズをはじめ、映画『アイ・アム・レジェンド』や『トータル・リコール』などを手がけたNeal H. Moritzをプロデューサーに迎えつつも、日本のCGスタジオが主体となり、グローバル市場に向けた映画を製作することは異例ともいうべき挑戦だ。この企画に挑む、同社の代表取締役社長の前田雅尚氏とディベロップメント マネージャー・プロデューサー 伊藤武志氏に話を聞いた。

マーザ・アニメーションプラネット 代表取締役社長の前田雅尚氏
セガ・エンタープライゼス(現、セガ)入社後、国内渉外部、ソフトパブリッシング部コンシューマ事業部、AM海外事業部を経て、SEGA of America, Inc.のチェアマン兼COOとなる。その後2013年7月よりマーザ・アニメーションプラネット 代表取締役社長に就任。現在は同社初のオリジナルフルCG長編映画の公開に向け、日々陣頭指揮を取っている

――『ソニック・ザ・ヘッジホッグ 』がハリウッドのメジャースタジオ と連動し、製作されることが巷で話題になっています。まずは、今回の企画の経緯を教えてください。

前田雅尚氏(以下、前田氏):ソニック・ザ・ヘッジホッグというキャラクターは、プログラムやキャラクターデザインを含め、すべて日本が生み出したものなんです。しかし、結果として海外で大ヒットを記録した。どれくらい人気があるかというと、とある調査によると、今でもアメリカ・ヨーロッパでは9割以上の認知度を誇るというんです。知らない人がほぼいないわけですよ。そういった理由からも、このキャラクターを主人公にした映画を製作するのであれば、グローバル市場に向けたものでなくてはならないと思っていました。

伊藤武志氏(以下、伊藤氏):ゲームと違って、映画ビジネスで一番恐いのは莫大な予算をかけて製作したにも関わらず作品が配給されないこと。映画館で上映されず、そのままDVD販売になってしまうことは絶対に避けたいことです。そういった意味で、今回、製作発表の段階で、ハリウッド有数のメジャースタジオである米国ソニー・ピクチャーズ エンタテインメントとタッグを組むことができたのは非常にメリットが大きいですね。作品が完成すれば配給されることがほぼ決定したわけですから、安心して製作に専念できます。

――ハリウッド映画と同じように、グローバル市場に向けて製作する映画を日本のCGスタジオがメインとなって製作するのは大きなチャレンジですね。

前田氏:もし、セガのCGアニメーション開発部門を原点としたCGスタジオであるMARZAという会社が作られていなければ、ハリウッドのスタジオにソニックのライセンスを渡して映画を作っていたかもしれませんね。

伊藤氏:そうですね。毎年ハリウッドから映画化の打診はあったそうなのですが、うちの会社の開発チームの起源は、元々セガのゲーム映像制作チームにあります。主にソニックの映像を作ってきたメンバーなので、我々にはソニックと一緒に成長してきたという自負があるんです。なので、ソニックを用いたコンテンツは大切にしたいという想いが強く、映画化するなら我々の手でと考えていました。

前田氏:セガは、これまで数多くのゲームタイトルを発表しており、そのなかでも、ソニックは世界的な大ヒットを記録した。そういった側面からももう一度ソニックに力を入れてやっていこうよと。その一環で、テレビアニメーション版のソニックも制作されました。そして、今回、映画にチャレンジする。これは順当な流れだったのではないかと考えています。

2013年公開の映画『キャプテンハーロック』(東映アニメーション製作)ではCG制作を担当
(C)LEIJI MATSUMOTO / CAPTAIN HARLOCK Film Partners

ゲームのプロモーション用作品としてMARZAが手がけた初のショートムービー『SONIC NIGHT OF THE WEREHOG ~ソニック&チップ 恐怖の館~』
(C)SEGA (C)2008 Sega Sammy Visual Entertainment Inc.
※イメージは、今回映画化される作品とは異なります

――これまで、日本のCGスタジオが主導となって、グローバル市場に向けた作品を製作したという話はあまり聞いたことがありません。

伊藤氏:ほぼ、ないですよね。弊社と国内の他のCGスタジオを比較したときに、ターゲットが最初から違うんです。我々は最初からグローバル市場向けの作品を製作していますから。それは、弊社のベースがゲーム会社にあるということが大きく関係しているかもしれません。映画の場合は、日本市場のみを対象として製作されることが多いですが、ゲームの場合は元々グローバル市場に向けて作っていますから。そういった点からも、弊社としては映画をグローバル市場に向けて製作するという判断は、当たり前の感覚だったかもしれません。

――ハリウッド映画のCGアニメーション作品を見慣れている観客からすると、日本で製作されたCGアニメーションのタッチの違いに驚くのではないでしょうか。

前田氏:そうですね。なので、どちらかといえば、ハリウッド作品のテイストを意識して製作していますね。完全にそうはしていないつもりですけどね。

伊藤氏:これは不思議な現象なんですが、以前製作したソニックのショートフィルムを日本人に見せると「ハリウッドっぽいものを作ったね」って言われるんですが、ハリウッドのクリエイターに見せると「凄く日本らしい作品に仕上がっていて良いね」と言われるんです。なので、日本人が製作すれば、そこには良くも悪くも日本人らしいタッチが自ずと出てくるものなんです。それが結果的にハリウッドで製作される作品との差別化につながっているので、良いことなんですけどね。

――なるほど。具体的にはどういったところに違いが出やすいのですか?

伊藤氏:一番多く言われるのはディテールの細やかさですよね。ライティングのつけ方ひとつとってみても全然違うように感じるみたいです。

前田氏:グローバル市場に向けた作品を日本で作るときに一番の問題になるのはストーリーなんです。日本人が作ったストーリーは難解で、グローバル市場にあまり向いてないんですよ。なので、今回はロサンゼルスのMARZA ANIMATION PLANET USA INC.のクリエイターたちと連動しつつ、ストーリーの骨格はハリウッドテイストに、そしてそこに日本のテイストを加えていく形でストーリーを組み立てていっています。

マーザ・アニメーションプラネット ディベロップメント マネージャー・プロデューサー 伊藤武志氏
セガ・エンタープライゼス(現、セガ)入社後、VE研究開発部を発足。2009年に分社化し、セガサミービジュアル・エンタテインメントを設立。その後マーザ・アニメーションプラネットに社名変更した同社のディベロップメントデパートメントマネージャーに就任。現在は「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」の劇場映画プロデュースをはじめ、数々の長編映画の企画開発に取り組んでいる

――日本人が作る"ストーリー"について詳しく教えて下さい。

前田氏:日本の作品の場合、勧善懲悪だったり、明確な起承転結を避ける傾向があるんです。ジブリ作品を想像してもらうと分かりやすいかもしれませんが、要するに、日本の作品は、よりストーリーが深い。それに比べ、向こうのストーリーはシンプルに起承転結を描いているものが多い気がするんです。なので、日本的なストーリーで作品を仕上げてしまうと、テーマがいくらユニバーサルなものであっても、海外の観客には伝わりづらくなってしまうんです。

伊藤氏:日本人が日本人のために作った作品の場合、海外ではストーリーが難解であると思われてしまうんです。当たり前に通じるだろうと思っていたニュアンスが海外では通じなかったり。アート作品としては素晴らしいんですが、エンタテインメント作品としては国境を超えることが難しいのが現実なんです。そういった意味でも日本のクリエイション技術とハリウッドのストーリー制作のスキルをもった人たちが融合することは非常に重要になってくるんです。

――今後、MARZAとして、どのような作品を生み出していきたいか、その野望を教えて下さい。

前田氏:観客が腹を抱えて笑って、映画館を出たら忘れてしまうような映画ではなく、意味のある映画が作りたいんです。ゲームは本当に素晴らしいメディアだと思うんですけど、ゲームで感激して涙を流すことはあまりないですよね。自分の生き方を変えてしまうようなものも少ないと思います。けれど、小説や映画ならそれが有り得るわけです。世の中に伝えたいメッセージが、ストーリーのなかに上手に溶け込んでいるとそれだけ強いメッセージとなって発信されるわけです。MARZAでは、そういうものを作りたいですね。

伊藤氏:もし、ハリウッド映画がなかったら、僕らはアメリカのことをこんな良く思っていないと思うんですよ。それと同じように、我々の生み出す映画を通じて、世界中の人を喜ばせて、感動させて、元気づけることができれば、世界中の人が日本のことをもっと好きになってくれるだろうなと思うんです。ハリウッド映画がアメリカにもたらした影響と同じようなこと我々のスタジオを通じて、果たせたらいいなと思います。