白を攻めていく黒

先ほどの白石に黒が攻撃を仕かけた。白に攻撃しながら、さらにあらかじめ打っておいた右上隅の黒石と連携して陣地を広げていくという、まさに一石二鳥の一手だ。

主導権争いが始まる

黒の攻撃に対して、白は十手目をこの場所に打った。ここまでの流れを考えると、この手の意図はもうおわかりだろう。右下の黒に攻撃をしかけながら、白石を増やして右辺に陣形を作ろうとしている。これもまた、一手に様々な意味を持たせた手である。序盤フェイズではこのようにお互いが相手の戦略に応じて臨機応変に作戦を変更しつつ、「一手の価値を高める」ことで主導権を握る争いが繰り広げられるのだ。

そして、石同士が接近したこの右辺から、いよいよ戦いが勃発していくことになる。

小沢氏、痛恨のミス。

黒の狙い

少し進んだ局面だ。右辺の白は数も増え、ちょっとした一個小隊としてまとまりが出てきた。石は集まったりつながったりすることで力を増していく。右辺の白はこれでかなりしっかりしてきたが……代わりに黒も右上と右下を本格的に陣地として固めつつある。左辺の白はまだ3つの石でふんわり囲まれた状態なので、白はここから陣地を確定させていかなければならない。

ここで白番の小沢氏が打った手が、意外なものだった。

解説の武宮正樹九段も驚いた一手

これは通常の対局ではなかなか出ない一手だ。

これくらいが普通の手

通常であれば、このように、白の陣地を増やしながら黒の陣地を減らす手を誰もが考えるところである。冒頭で述べたように、囲碁では隅、辺、中央の順に陣地を獲得する効率が変わる。よって、隅の次には辺を取りにいくのが一般的なのだ。

小沢氏の狙いは?

しかし、小沢氏はあえてこの位置に打った。その狙いは後ほど明らかになる。

ようやく小沢氏の狙いが見えてきた

白の壁が、黒の進撃を阻んでいる

さらに戦いが進んだこの場面をご覧いただきたい。何となく左から中央にかけて、白石が大きく囲んでいるように見えないだろうか。そう、実は小沢氏の狙いは中央だったのだ。囲碁では古来より隅や辺で陣地を獲得していくのが定番の戦法だが、現代ではあえて隅や辺にこだわらず、中央を大きな壁で囲んでごっそり取りに行くという戦略が新たに生まれている。そのスケールの大きさから、こうした打ち方を「宇宙流」と呼ぶこともある。

さあ、ここで小沢氏とZenそれぞれの戦略が明らかになった。小沢氏は上下に築いた城壁を利用して中央に白地を造ろうとしている。壁の建設が完了すれば、巨大な小沢王国が誕生する。そうなってはさすがのZenも分が悪い。小沢氏が壁を作り終える前に、Zenは壁を破り侵入する必要があるのだ。侵入したZenを小沢氏が駆逐できるかどうかが、この勝負の明暗を分ける。

――と思われた局面だったが、しかし実際にはそのように進むことはなかった。……続きを読む