2014年度から始まる幼児教育の無償化。第3子から幼稚園の保育料が無償になるもので、対象を一部に絞った限定的な試みだが、早期教育への注目は今後もますます高まるだろう。

半数の親が習い事の有益性に半信半疑

実際に、早期教育への保護者の関心が高いという調査結果もある。幼児期における子供の遊び方や子育てに関する情報発信、啓発活動などを行う研究プロジェクト『プレイフルラーニング~幼児の「遊びと学び」プロジェクト』が3~6歳の子供を持つ全国の1,032人の保護者を対象に行った意識調査によると、「子供の将来に不安がある」と回答したのは61.4%。さらに、67.2%が「幼児の早期教育に興味がある」と答えている(2013年12月7日~8日の期間にインターネット上で実施)。

現在、お子様の将来に関して不安はありますか

お子様に対して、将来のために早期教育を受けさせることに興味はありますか

習い事やお稽古事は将来どの程度役に立つと思いますか

しかしながら、現在している習い事に関して45.1%と約半数が「将来役に立つかどうかわからない」と答え、半信半疑ながらも子供をお稽古事に通わせていることが明らかになった。

早期教育は開始時期ではなく、親の関わり方が重要

お茶の水女子大学の内田伸子名誉教授

子供の発達的観点から見た場合、早期教育は子供にとって効果的なのだろうか。言語発達や認知発達の研究に長年従事し、子供向け番組や教材の考案・開発、監修などに多数関わってきたお茶の水女子大学の内田伸子名誉教授は次のように話す。

「重要なのは子供の発達段階に合わせた遊び方をしていくこと。そして早期教育というのは一概に時期ではなく、やり方や親の関わり方が重要です。大切なのは、"強制型"のしつけではなく、"共有型"のしつけです」。

強制型のしつけと共有型のしつけについて、内田名誉教授の解説は次の通りだ。「親の養育態度は子供の意欲や探究心を育てるうえで大きな影響を持っています。調査結果では、親のしつけスタイルは2つのタイプに分かれ、共有型しつけと強制型しつけがみられます。共有型しつけとは、子供の主体性や自主性を大切に子供との触れ合いを大事にする親の養育態度ですが、共有型しつけを受けた子供は、意欲や探究心が旺盛で、小学校に入学した後も学習意欲が高く、学力テストの成績も高いのです。一方、禁止や命令、悪いことをしたら罰を与えるのは当然と考えて子供に接する強制型しつけを受けた子供は、自尊感情が低く、学ぶ意欲や探究心も育ちません。いつも親の顔色を見ながら、指示を待って行動する態度が身についてしまうのです」。

十文字学園女子大学人間生活学部幼児教育学科の大宮明子准教授

その上で幼児期に最も大事なのは"遊び"。十文字学園女子大学人間生活学部幼児教育学科の大宮明子准教授は、「大人と子供では"遊び"の概念が違う。やっていて楽しいことというのは共通項ですが、大人の場合は仕事の息抜きなどの余暇的なもの。でも、子供の場合は純粋に楽しいことを意味し、"遊び"の結果として、考える力や思いやりの心など様々な能力を身につけていきます」。また、内田名誉教授も「やっていて楽しいということが子供の自発性を育み、学習へのその後の自発的な意欲につながっていきます」と、幼児期における遊びの重要性を強調する。

「ほめる・はげます・広げる」の大切さ

それでは具体的に、親は何を意識して子供と関わり、子供にどのような遊び道具や教材を選ぶべきであろうか。専門家の立場からのアドバイスは次の通りだ。

「子育ての基本は3H。『ほめる・はげます・広げる』。広げるというのは思考や世界を広げること。それゆえ、おもちゃや教材選びに関してもこれがいいという決まったものはない。ただ、限定的な遊び方ではなく、広がりを持った遊び方ができるものがいいですね」(内田名誉教授)。

「子供自身が好きになるもの、夢中になるものを選んであげましょう。1歳を過ぎれば子供の好みもわかります。子供が何に興味があるのかをよく見ることが大切です」(大宮准教授)。

高い潜在能力を持つ幼児期の子供たち。その能力を伸ばすには、親の側にも柔軟な思考が求められる。しかし、それは難しいことではなく、子供自身が興味のある"遊び"という体験を思う存分させることである。また、子供にとっての遊びとは仕事や勉強をしないことではなく「自発的で主体的な活動」を指しており、そして何よりそうした体験を親子で共有することがカギのようだ。