退職しても傷病手当金が支給される場合がある

今後のキャリアを考えて、又は、一身上の都合などで退職を考える場合、「年内一杯で退社」というのは区切りとしてちょうどいいかもしれない。もし、体調不良が原因で退職となるのであれば、必ず知っておきたいことがある。そこで、ファイナンシャルプランナーの竹下さくらさんに、「傷病手当金」の話をうかがってみた。

傷病手当金とは、病気やケガのために働くことができない方の収入を補償する健康保険の制度で、一定要件を満たせば退職後も受け取ることができる。制度をしっかり理解して、もらい損ねのないようにしたい。

給料の2/3を最長1年6カ月保障

まずは傷病手当金そのものについて確認しておこう。傷病手当金は、病気やケガのために働くことができず、会社を休んだ日が連続して3日間あった上で、4日目以降、休んだ日に対して支給される。必ずしも入院している必要はなく、仕事ができない水準であれば、自宅療養であってもOKだ。

もらえる金額は、例えば標準報酬月額が36万円の人であれば、1日8,000円(標準報酬日額は月額を30日で割った1万2,000円で、傷病手当金はその2/3相当額)。この金額を最長で1年6カ月もらえるので、かなりの大金になる。そもそも「お給料」とは、正確には標準報酬日額のこと。標準報酬日額はルールに基づいた細かい計算が必要なので、会社の担当窓口に問い合わせをしてみよう。

有休休暇にすると傷病手当金はもらえない

傷病手当金の対象となる人は、「全国健康保険協会(協会けんぽ)」又は「健康保険組合」に加入している事業所に務めている人。よくある誤解としては、「会社員だったら、傷病手当金がもらえる」というもの。会社員でも社会保険料を納めない形態で働いている人は、残念ながら対象にならない。会社がお金を払うのではなく、健康保険からの給付制度だからだ。

また、収入補償を目的とした制度なので、休んだ期間について事業主から傷病手当金の額より多い報酬の支給を受けた場合にも支給されない。例えば、仕事を休んで療養していたとしても、有休休暇を当てている場合は対象とならないのだ。

退職後に傷病手当金を受け取れる要件

傷病手当金の制度の大まかな仕組みを理解したところで、「退職後に傷病手当金を受け取る要件」について竹下さんに整理していただいた。簡単に説明すると、以下の3つに集約できる。

1)退社の当日までに1年以上継続して(健康保険の)被保険者の資格を有していること
2)傷病手当金の給付要件を満たしていること
3)在職中、退職日、退職後のいずれも、病気やケガにより業務に従事できないこと

2)に関して、退職日を含まない前日までに休職した日が通算4日以上あること、または、在職中から給付を受けているか受けられる状態にあることが必須となる。なお、在職中に給与等の支払いがあったため支給停止になっていた場合は、“受けられる状態”に該当する。

退社の挨拶には注意!

「とりわけ気をつけていただきたいのは、要件の3です」と竹下さん。体調不良でずっと休んで退職することにした人が、「最後くらいはきちんと挨拶しよう」と出社すると、傷病手当金をフイにしてしまう可能性があるからだ。

なぜなら、傷病手当金の支給要件のひとつ、「退職日に業務に従事できないこと」がある。挨拶や私物の整理、担当者との面談だけであったとしても、退職日当日に出勤の事実があると「業務に従事できる」とみなされてしまうこともある。

このように、傷病手当金の支給要件はかなり複雑でシビア。本当はもらえたはずの手当てを見逃さないよう、退職前に申請先(病気が発症した時点で加入していた健康保険)に、要件などをしっかりと確かめておくようにしよう。

プロフィール : 竹下 さくら

CFP(R)、1級ファイナンシャル・プランニング技能士。千葉商科大学大学院(会計ファイナンス研究科)客員教授。損害保険会社の火災新種業務部、生命保険会社の引受診査部門を経て、FPとして独立。現在は主に個人のコンサルティングを行う傍ら、講師・執筆活動を行っている。近著に、『最新版 ローン以前の住宅購入の常識』(講談社)、『「認知症マネー」まるわかりガイド』(共著)、『「介護が必要かな」と思ったときにまず読む本』(日本経済新聞出版社)、『世界一シンプルな保険選び』(日本文芸社)、『絶対トクする!住宅ローンの借り方・返し方2013』(エクスナレッジムック)などがある。

筆者プロフィール : 楢戸 ひかる(ならと ひかる)

1969年生まれ 大手商社勤務を経てフリーライターへ。中学生と小学生の男児3人を育てる主婦でもある。家事生活をブログ「家事マニア」にて毎週火曜日に更新中。