宝達志水町オリジナル「やわらぎオムライス」(スープ・サラダ付き750円)は、「オムライスの郷」で提供されているが、レシピは公開されている

石川県宝達志水町(ほうだつしみずちょう)では、2011年から「オムライスの郷プロジェクト」が始動した。能登半島の付け根の小さな町で、なぜオムライスなのか? その理由は、今から約80年前の大阪での出来事、そして、地元の方たちのオムライスに対する熱い思いにあるという。

優しさから生まれたオムライスの味を広めたい

町内にある桜の名所「やわらぎの郷」に建つ北橋茂男氏の銅像

洋食の定番・オムライスは、日本生まれだということをご存じだろうか。大正14年(1925)、大阪にある洋食店「北極星」(当時は「パンヤの食堂」)の先代シェフ・北橋茂男(きたはししげお)氏が、胃の具合が悪い常連さんのため、いつもの「オムレツ+白いご飯」の代わりに考案したのが始まり。オムライスはお客さんへの優しさから生まれたメニューなのだ。

そんな北橋茂男氏、実は宝達志水町出身であった。ということで、北橋氏のおもてなしの気持ちが生んだオムライスを、町の食堂でより多くの人に食べてもらいという願いから実行委員会が立ち上げられ、「オムライスの郷プロジェクト」がスタートした。

様々な取り組みの1つとして、昨年、北橋氏の長男で北極星現社長 北橋茂登志氏の協力を得て、「宝達志水町オリジナルオムライス」が誕生した。これは、チンゲンサイや生しいたけ、宝達くずなど町の特産品を使って作るもので、「やわらぎオムライス」と名付けられ、役場に隣接する「コミュニティカフェ オムライスの郷」で食べることができる。

オムライスの歴史を感じる老舗食堂

また、町内にある14の飲食店では、米や野菜など地元の食材を取り入れたオリジナルのオムライスを提供している。その中のひとつつ「志お食堂」に足を運んでみた。昔ながらの食堂の雰囲気が漂う店内では、カツカレーや鍋焼きうどん、ざるそばなど安くておいしい料理が楽しめる。

開店から約45年。地元で愛される「志お食堂」。参加店舗はこののぼり旗が目印

注目のオムライスは、醤油ベースの焼きめしのようなご飯が特徴。定番の「オムライス」(550円)と「ポークソテーオムライス」(味噌汁付き1,000円)の2種類を提供している。ポークソテーオムライスは、バター醤油とニンニクで香り高く焼き上げた豚ロースが添えられ、ボリューム満点。食べごたえのある一品に仕上がっている。

志お食堂の「ポークソテーオムライス」。ガッツリ食べたい人にオススメ

店主の本西浩一さんによると、定番のオムライスは先代の時代からあって元々人気メニューだったが、プロジェクトが始まってからは、オムライス目当てに遠方から訪れるお客さんが増えたという。ちなみに、先代は北極星で修業をしたおじさんが出した店に勤めたあと、志お食堂を開店させたそうで、実は北極星と古いつながりがあるのだとか。オムライスの歴史を感じながら食べると、更においしくいただけそうだ。

居酒屋・焼肉屋・お寿司屋さんのオムライス!?

ほかにも、各店の個性をいかしたユニークなオムライスが提供されている。

「居酒屋 味好(あじよし)」は、町の特産品であるいちじくを隠し味にしたソースをかけた「オムライス」(650円)に加えて、焼きそばをくるんだ「オムそば」(600円)、キャベツやソーセージ、チーズを巻いた「オムキャベツ」(480円) を提供。中でもオムキャベツは、お酒にピッタリのおつまみメニューとして人気を集めているという。

味好の「オムキャベツ」。たっぷりのキャベツと卵の相性が抜群

ハートフル千里浜の「とろとろ角煮のオムライス」。お肉も卵もとろとろ~

「千里浜なぎさ温泉 ハートフル千里浜」は、ケチャップライスの上に半熟オムレツとじっくり煮込んだ豚の角煮をのせて、上から角煮のタレを使ったソースをかけた「とろとろ角煮のオムライス」(スープ付き750円)を提供。板前さんが生み出した創作メニューで和食の技が光る。日帰り温泉、宿泊施設もあるので、ドライブ、観光の途中に是非立ち寄ってみよう。

「焼肉旬彩 牛太郎(ぎゅうたろう)」では、プロジェクトに合わせて2つのメニューを開発。「石焼ビビンバオムライス」(サラダ等付き750円)は、キムチやゼンマイ、もやしなどの混ぜご飯を自家製の焼肉のタレで味付け。「肉巻きオムライス」(980円)は、ごはんを和牛で巻いて卵で包んだ一品。焼肉店ならではのオムライスが楽しめると好評だ。

様々なお店が参加しているが、何とお寿司屋さんのオムライスも! 「かっぱ鮨」は、マグロ、イクラ、キュウリなどを薄焼き卵で巻いた海鮮オムライス「おむまき」(780円)を考案。お寿司らしく醤油をつけても、オムライスらしくケチャップをつけてもOK。ちなみに、祭りシーズンなど忙しい時期には対応できない場合があるため、予約しておいた方が確実だ。

牛太郎の「石焼ビビンバオムライス」。熱々で召し上がれ

お寿司屋さんも! かっぱ鮨の「おむまき」は新感覚

このように、オムライスの生みの親の出身地では、地元の人たちの愛ある協力により、プロジェクトが着々と進んでいる。

各店では、オムライス目当てに訪れる人や県外からやって来る人など、新しいお客さんが増えたという。常連さんたちからも好評で、町の盛り上げに大きく貢献しているようだ。今後も、実行委員会では、飲食店等でのオムライスの提供に加えて、イベントの参加や調理講習会などを通じて、プロジェクトのPRとオムライスの魅力発信に努めていくという。

ちなみに、能登半島へ向かう道路「のと里山海道」は、以前は有料だったが今春から無料化され、宝達志水町へよりアクセスしやすくなっている。和倉温泉や輪島など能登方面へ出かける際には、優しさあふれるオムライスを是非とも楽しんでいただきたい。