――『スラムダンク』では、全101話、およそ2年半の付き合いになったわけですが、そのあたりの印象で変わったところはありましたか?

草尾「1話から101話までまったく変わらなかったですね(笑)。ただ、海南大付属との試合で、痛恨のパスミスをして負けてしまったときに、初めて自分の行動や言動で仲間に迷惑がかかること、自分のせいでいろいろな人の夢が閉ざされてしまうことを知るわけですが、そこで彼はドロップアウトしてしまうのではなく、その責任をとって坊主になる。その時、やはり花道はこういうヤツだったんだ、ただわけもわからずに暴れていただけではなく、何かうまく掴めず、うまくハマることができなくていらついていたんだなって。それ以降、ただ単に流川に勝ちたいという思いが、流川にバスケで勝ちたいと思うようになる。花道の思いが、より純粋にひとつの方向に向かって流れていくきっかけになったと思うんですよ。このシーンで、花道の絶対に負けないという気持ちは、より純粋さを増していったと思うんですけど、基本的な部分は一話からずっと変わっていないと思います」

――花道を演じる上で難しいと思ったところはありますか?

草尾「僕自身、バスケの経験がまったくないので、リアルなバスケットボールでの息遣いとか声の出し方とか、そのあたりはまったく想像でやるしかなかったのですが、そこであえてリアルさを追求すべきなのか、これはアニメだし、求められているものはそこじゃないと割り切るべきなのか、そのどちらに振ろうかってすごく悩んでいたんですけど、自分以上に流川役の緑川君がそれについて悩んでいたので、そこは彼に任せようって(笑)」

――実際、花道自身もバスケは素人ですからね

草尾「そうなんですよ。だから『フンフンフンディフェンス』とかわけのわからないことをやるんですけど、漫画だと成り立っているのに、声が入ることによってウソっぽく聴こえたら僕らは負けだと思っているので、漫画に書かれている『フンフンフン』という書き文字を、どうやって声で表現したら、観ている人にも納得してもらえるのか? そういうことを考えていました。文字で入ってくる情報と音声で入ってくる情報は違いますから」

――原作を知っている人に違和感を感じさせないというのはかなり難しいですね

草尾「原作を読んでいた人が、『おお、アニメのほうがすごい』って思ってくれたらうれしいですね。そこに初めて、漫画をアニメ化した意味が生まれると思うんですよ。そういう意味ではライバルは原作だし、原作を超えたいと思っています。絶対に超えられないんですけどね(笑)。絶対に超えられないんですけど、観ている方が原作とはまた違った魅力、アニメならではの魅力を感じてくれて、『アニメ版も大好きです』と言ってもらうためにはどうすればいいか、僕自身は、そのあたりを絶えず考えて演技をしています」

――特に花道は、ギャグから真剣なところまで、非常に振り幅のあるキャラクターなので、かなり難しい役だったのではないでしょうか?

草尾「本当に二重人格みたいなところがありますからね。すごく怒っていたはずなのに、振り向いた瞬間にギャグを言う。どういう精神状態だったら、こんなセリフが出てくるんだろうって。だから、基本的には三枚目というか、ちょっとひょうきんなところがベースになったんだと思います。放送が始まってから、原作者の井上先生との対談みたいな企画があったんですけど、その時に先生が『アニメのスラムダンクを観て、あらためて花道ってバカなんだなって思いました』って仰ったんですよ。自分はまったくそんな意識はなかったんですけど、自分なりにメリハリをつけた演技の中でも、ギャグの部分は井上先生に届いたんだなって(笑)。なので、それ以降はさらに三枚目の部分とかひょうきんな部分が加速して……ただ、ウソにならないように、コメディになり過ぎないように、あくまでもリアルな範疇の中でどこまで崩せるかということを意識していましたし、演じる上での醍醐味にもなってました」