空前の大ヒットとなった『あまちゃん』と『半沢直樹』。ともにすごかったのは、メディアをさわがせた視聴率だけではない。終了してなお絶賛の声がやまず、寂しさを埋めるためにロケ地を訪れるファンが続出。関連本やグッズのバカ売れも含め、いずれも「国民的ドラマ」と言われるゆえんだろう。

そもそも毎日放送される1話15分の朝ドラと、週に一度放送される1話60分のドラマでは、脚本・演出も視聴者層も、全くの別物。ただ、ともに「録画を含めた実質視聴率50%超」と言われるほどの作品だけに、ヒットにつながる共通点は必ずあるはず……。すなわち、現時点での"ヒットドラマの法則"を探る。

【ヒットの法則1 主人公の強烈なイメージ縛り】

半沢直樹のキャラクターイメージは“強さ”。それを強調するために、劇中の大半を険しい顔で乗り切り、何度となく真正面から顔のアップを撮られていた。また、ごくたまに家で妻に見せる穏やかな顔はアクセントとなり、強さを引き立てていた。 一方、天野アキのキャラクターイメージは、“明るさ”。それを強調するために、劇中の大半を笑顔で過ごし、さまざまなアングルから顔のアップが撮られていた。また、ごくたまに見せる不安げな表情はアクセントとなり、明るさを引き立てていた。 2人に共通しているのは、キャラクターイメージの“強さ”と“明るさ”を徹底的に押し出し、際立たせるための工夫がなされていたこと。とかくドラマの主人公にはさまざまな表情をさせたがるものだが、両作は喜怒哀楽をバランスよく見せたり、成長した姿を見せたりするよりも、「半沢はほとんど怒っている」「アキはほとんど笑っている」とキャラクターイメージを一本化し、推し出すことでシンクロしていたのだ。 余談だが、半沢とアキには、「上司に敬語を使わず、口ごたえをする」という共通点もある。

【ヒットの法則2 視聴者を飽きさせない2部構成】

『半沢直樹』は大阪西支店編と東京本社編、『あまちゃん』は北三陸編と東京編。それぞれ2部構成にすることで、舞台設定や登場人物たちを入れ替え、新鮮な空気を吹き込んだ。 この背景には、「近年増えた1話完結ドラマでは物足りないが、1テーマで全話を描こうとすると間延びしてしまう」という連ドラのジレンマがある。両作品は、1つのテーマを追いかけつつ2部構成にすることで、視聴者を飽きさせることがなかった。 また、「舞台設定のリアリティにこだわりすぎるよりも、視聴者を楽しませるためのエンタメ度を重視しよう」という姿勢も共通していた。「アレッ?」と多少疑問を抱くことがあっても、テンポのいい場面展開で楽しませてしまうため、多少のハテナは気にならなかったのだ。

【ヒットの法則3 徹底して“引き算”した演出】

どの放送局も視聴率の安定を狙って、「三角関係などの恋愛、複数のトラウマ、アイドル出演、物語に関係のない挿入歌」などさまざまな要素を足したがるのだが、両作品はその逆。『半沢直樹』は、「勧善懲悪」をメインテーマに据えて、シリアスなシーンに注力。『あまちゃん』は、「人と地域の再生」をメインテーマに据えて、明るさと笑いに注力した。 また、『半沢直樹』は、シリアスなシーンを分断しがちな主題歌を省くことで物語に集中させて、「続きを早く見たい」という感情を呼び起こし、『あまちゃん』は、明るさと笑いを損ねるトラウマの描写を省くことで、「元気になった」という実感を呼び起こさせた。

【ヒットの法則4 理想の夫婦や親子がいる】

何せ「2人1人が見ていた」計算なのだから、性別年代を問わず支持されたことと、家族そろって見ている人が多かったのは間違いない。 家族そろって見られた理由は、「ドラマの中に理想の夫婦関係や親子関係があった」から。『半沢直樹』は、夫に「常に優しく、時に厳しく、時に甘える」妻を描き、その他の妻も銀行員の夫を支える良妻賢母だった。一方、『あまちゃん』は、アキの母・春子が実質的な夫役。口が悪くマイペースな春子を支える夫・正宗が実質的な良妻賢母で、いまどきのバランスが取れた夫婦だった。 また、家族関係に目を向けると、両作品とも「親のリベンジを果たす」という形で絆の強さを表現。『半沢直樹』は、大和田常務に裏切られた父の無念を晴らそうとし、『あまちゃん』は、太巻に裏切られアイドルの夢を断たれた母の無念を晴らすべく、太巻の元で歌手デビューを果たした。

【ヒットの法則5 現代問題への辛辣なアンチテーゼ】

両作品とも現代の諸問題を真っ向から扱い、主人公に立ち向かわせることで、アンチテーゼを提示していた。 『半沢直樹』は、企業コンプライアンス、理不尽な人事、上司のパワハラに、半沢が徹底抗戦。一方、『あまちゃん』は、田舎軽視の風潮、現代アイドル、被災地や被災者への接し方に、アキが「それがどうした?」という自然体で対応。いずれも「ここがこうだから悪い」「だからこうあるべきだ」などの説教くさい方法ではなく、半沢は悪を倒すだけ、アキは気にしないというだけの方法だった。無理矢理答えを出そうとするのではなく、単純明快な見せ方にすることで、かえって辛辣さは際立ったのではないか。

【ヒットの法則6 舞台系脇役たちの秒殺芸】

例を挙げるまでもなく、両作品ともかつてないほど脇役が充実していた。ともに舞台出身の俳優をズラリ揃え、顔面を中心にした濃い演技で視聴者の心をガッチリ。もともと脇役は、短い出演時間で自分の存在意義を印象づけなければいけないため、ここまでキャラが心に刻み込まれるのは極めて異例。両作品とも、「名前やセリフ、表情や仕草まで覚えている」脇役が多いのは、ミュージカル大作から小劇場まで、さまざまな板の上で鍛えられた舞台役者ならではの“秒殺芸”によるものだろう。 「もしミズタクの恋愛ドラマがあったら……」「もし前髪クネ男のサクセス物語があったら……」「もしオネエ黒崎の金融庁ドラマがあったら……」「もし小木曽次長の家族ドラマがあったら……」なんて勝手にスピンオフを考える人が多いのはその証拠だ。

【ヒットの法則7 決めゼリフ連発と進化】

ご存知の通り、両作品ともキャッチーな決めゼリフがあった。幼稚園からオフィスまでさまざまな会話の場で飛び交っている『半沢直樹』の「倍返しだ」と、『あまちゃん』の「じぇ」は、流行語大賞間違いなし。その分かりやすさに加え、劇中で「10倍返しだ」「100倍返しだ」、「じぇじぇ」「じぇじぇじぇ」と進化を遂げるなど、過去の流行語にはない汎用度が高いのも魅力の1つ。当然、SNSなどネット上でも頻繁に使われ、「このフレーズをきっかけに半沢やアキを知り、ドラマを見はじめた」という人も多いという。 ちなみに、ドラマタイトルが人名であることも同じ(『あまちゃん』は主に「海女」「甘えん坊」の意味だが、名字が天野であり、自己紹介で「海女の天野アキです」と名乗るため人名タイトルの一部と認識)。ちなみに人名タイトルは、「覚えやすく、話題にしやすく、主人公に親しみを抱きやすい」というメリットがある。

【ヒットの法則8 固定ファンの多い枠】

TBSの日曜劇場は57年、NHKの朝ドラは52年の歴史を持つ、日本の放送業界で最も長い歴史を持つドラマ枠。長年、放送を楽しんできた中高年層の固定ファンが多く、日曜21時は在宅率が高い時間帯であり、朝ドラは1日に複数回放送されることで、その人気を保ち続けてきた。 ここ数年でも、日曜劇場は『JIN-仁』『とんび』、朝ドラは『カーネーション』『梅ちゃん先生』などコンスタントにヒットを連発。今回の2作はそんなベースの上に、10・20代の若年層や、多忙なサラリーマンなど新たなファン層にまで拡大したことが、記録的なヒットにつながった。次作の『安堂ロイド』と『ごちそうさん』のヒットは、「その広がったターゲットをそのままつかまえておくことができるか?」が焦点になりそうだ。 また、半沢直樹役の堺雅人は『リーガルハイ』で主演を務めるが、今年復活したばかりで固定ファンが少なく、裏番組にライバルドラマがある水曜22時枠であり、その行方が注目されている。

最後に、ラストシーンに含みを持たせたのも小さな共通点の1つ。『半沢直樹』は大活躍から一転、出向の辞令を受けた衝撃のシーンで終わり、『あまちゃん』はアキのミサンガが1本切れずに残り、トンネルの向こう側に歩くことで、その先の物語を予感させた。 『半沢直樹』は、連ドラでおなじみのクリフハンガーという手法だけに、続編は100%間違いないが、『あまちゃん』は五分五分か。キャストのスケジュール確保が難しいことから、朝ドラではなく、夜の連ドラかスペシャルドラマ止まりになるかもしれない。

続編にも期待したいが、作品を問わず堺雅人と能年玲奈にはぜひ共演してもらいたい。ともに「何もしなくても笑い顔」のようなルックスであり、父子、兄妹、師弟関係など何でもいけそうだ。

木村隆志
コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ評論家、タレントインタビュアー。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴する重度のウォッチャー。雑誌やウェブにコラムを提供するほか、取材歴1000人超のタレント専門インタビュアーでもある。著書は『トップ・インタビュアーの聴き技84』など。