――初学者はどんな勉強からスタートすべきなのでしょうか。
まずは、中国語の音のイメージをどれだけ多く頭の中に注入できるか。それが大事になってきます。言語学では、会話という動作をコップの中に水を注ぐことにたとえます。音をたくさん聞くことは、コップの中に水(=音のイメージ)をどんどん溜めていることになります。そしてそれはいつかあふれますね。そのあふれる状態、こぼれる状態が発話です。つまり、学習する言語の音のイメージが溜まれれば話せるようになるのです。実は、英語の場合だとこの音のイメージがたまらなくても発話すれば通じてしまうのですが、中国語は「音」の言語ですから、音のイメージがしっかりたまらないうちに発話してもまず通じません。

WEICの内山雄輝社長

子どもが母国語を習得するのを想像してください。生まれてから3歳くらいまでを「サイレントピリオド」と言うのですが、その間は周囲の大人が話す言語を聞きながら、母語の音のイメージをずっと蓄積しています。そして3歳をすぎたくらいで、それまでに蓄積した音のイメージがたまり、あふれてきます。そこからどんどん言葉を発するようになるのです。

カタカナ中国語が学習の「障害」になる?

――なるほど。初期段階の発話練習は必要がないということですね。まずは「音」だと。
その通りです。中国語の音のイメージがまだできていないうちに発話しようとすると、中国語を日本語の音のイメージに照らし合わせ、日本語にある音の中から似たものを組み合わせて発音してしまいます。それでは中国人には通じない。日本人がカタカナ中国語で「ありがとう」のつもりで「シェイシェイ(謝謝)」というと、その音は「シェイシェイ(誰誰? )」に近く、中国人に通じていないことがよくあります。。初期段階で発話練習することは間違った発音を定着させることになり、長い目で中国語学習を考えた時に「障害」にもなりかねません。ですから、中国語スクールなどに通うにしても、まずは音のイメージを十分蓄積してからがいい。目安としては中国語検定4級、B-TECC(中国語コミュニケーション能力検定試験)の400点レベルまたはHSK2~3級レベル(第二外国語で中国語を学ぶ大学生2年生レベル相当)。英語でいうと中学卒業程度のレベルです。それくらいからであれば、会話能力を鍛える為のスクール通いも意味のあるものになるでしょう。

――そのレベルまでいくにはどうするかが問題ですよね。
そうですね。まったく0から中国語を始めるなら、発話までの隙間を埋める学習を安価に、効率的に行えることが必要なのです。効率よく学習するためにはきちんとステップを踏むこと。「子どもが言葉を覚えるように習得できる」ことを意識した中国語学習を提供できないかと思って作ったのが「超速中国語」なのです。

第一目標は中国語検定4級! 「推測できる」が大きな意味を持つ

――せっかく中国語を勉強するなら、仕事に生かせるレベルを目指したいものですが、第一目標にすべきレベルというのはありますか。
まずは中国語検定4級、あるいはHSK3級、B-TECC(※)の400点レベルということになるでしょう。例えば中国に出張したときに、中国語レベルがゼロだと、周りの中国人の話していることが「チュンチュンチュンチュン」といった感じにしか聞こえません。商談の場でも、中国人の性格もあって、中国人と通訳の間だけでどんどん交渉が進んでしまい、日本人が「え、え、え、どうなった? 」といった事態に陥ってしまう。

でも、中国語検定4級レベルの力がつけば、全部「チュンチュン」じゃなくて、ある程度音が拾えるようになります。通訳はもちろん必要ですが「ああなるほどこんな話をしているのか」と話の内容が少しわかるようになる。そうなれば、交渉の場での自分の存在感が増します。それに「自分はこういうものです」と自己紹介したり、街中で「これちょっと安くしてよ」と値切ることだってできます。中国人とコミュニケーションを取ろうという姿勢を示すことができるのです。逆にいえば、このレベルがないまま中国に行ったら確実にビジネスは失敗すると考えた方がいいでしょう。

――その次に目標を立てるとしたら、どのレベルになりますか。
会話が6、7割聞きとれるレベルです。TECCでいえば5~600点レベルくらいですね。HSKでは4~5級。このレベルに到達すれば、通訳の誤訳を指摘できるようになります。100%はわからないけど、間違っていることはわかる。だから通訳に「ツンツン」して「違うね、それ通訳し直して」と言うことができる。交渉の場に緊張感が生まれます。このレベルの中国語ができれば、ビジネスを展開する上で大きな武器になりますね。

ビジネスの基礎は語学から始まる

――中国ビジネスはなかなかうまくいかないという声も聞きますが……。
アメリカ市場で本気で仕事をするときに、英語がまったく理解できない人材を送りこむ会社はありませんよね。ところがそれが中国となると、中国語力ゼロでも行かせてしまう。「中国人にだまされた」とか、「中国ビジネスがうまくいかないのは、中国の体制が古いから」とか、いろいろ聞きますが、中国のことを何も知らない状態のまま中国で物を売ろうとしたり、彼らを働かせようとしたりしているわけですから、うまくいくわけはありません。中国語ができるというのは、僕は基本且つ重要なビジネススキルだと考えています。中国語検定4級、あるいはB-TECCの400点レベルの中国語力がないということは、中国でビジネスするための「一般常識レベル」がないのと同じだと、私は考えています。

後編では内山社長の学習理論をもとに開発され、多くの企業に導入されている「超速中国語」の具体的な内容についてお聞きしていきます。

※「使える中国語力」を測定するTECC(中国語コミュニケーション能力検定)の中国語初学者向けバージョン。0~1000点のスコア制