ここ最近、名古屋のカレーうどんを「ひょっとして名物かも!」「名古屋のカレーうどんはうまい!」とプッシュする風が吹いている。名古屋っ子の筆者としては、確かにカレーうどんがうまいというのは分からんでもない。というのも味噌煮込みにしろ、あんかけスパにしろ、そろって名古屋めしの味は濃くてドロリとしている。
そんな事情を考えると、名古屋でカレーうどんがガラパゴス進化していたとしても不思議もないのだ。今回はそんな「名古屋のカレーうどんがうまい」という話を検証するべく、人気店を訪問してみた。
名古屋のスタンダード的な存在「若鯱家」
カレーうどんを名古屋名物のステージにまで上げた立て役者は、名古屋で知らない人はいないほど有名な「若鯱家」というカレーうどん専門店のチェーンだ。この店は関東にも進出しているので、全国的な知名度も高い。
ちまたで「名古屋風カレーうどん」と言われるモデルは、実質上この若鯱家がデファクトスタンダードだと思って間違いないだろう。というわけで、アピタ名古屋北店へ飛び込んでみた。若鯱家が作り上げた名古屋風カレーうどんがここにある。
スープはいわゆる片栗粉でとろみをつけたような南蛮風ではない。カレーライスのルゥのようなドロリとしたスープなのだ。とろみではなく、どろみ。そしてそのドロリスープを受け止めるのは極太麺。ここに注目。とにかく太いのだ! 幅1センチ近くあるのではという太さ。コシは意外とない。その割にもっちりしてる訳でもない。ゆでたうどん粉をそのまま食べてるような、妙な錯覚に陥る。不思議なもので、この麺がドロリなスープにマッチする。
それにしても、若鯱家が出てきたからカレーうどんが名古屋の名物になったのか?と思った人、実は事情が違うのだ。名古屋は(若鯱家が有名になる前から)「カレーうどんが突出してうまい」と言われていた土地柄なのだ。「若鯱家以外にもカレーうどんのうまい店はいっぱいある」と豪語できるところが、名物のゆえん。ではどんなカレーうどんの名店があるのか? 名古屋っ子に人気の「清平」という店のカレーうどんを紹介しよう。
噛み応え満点の細麺に絡みつくカレー
この店、ランチ時になると味を求めて多くの客が訪れる。カレーうどんは、客の半分くらいはオーダーするほどの人気メニューだ。メニューを見ると、630円とリーズナブル。ん? 横についてるこのおしぼりみたいなのは何? あ! 前掛けだ!
丁寧にも汁はね防止用に、お手製の前掛けが付いているのだ。このハンドメイドさがナイス。スープはいわゆる名古屋風の「ドロリッチ」。片栗粉のとろみは感じられない。どこまでもドロドロドロドロ。この沼から麺を救出してみると、麺は意外なことに細麺。ここで既に名古屋風のセオリーから逸脱している。しかし食べてみると、異常なほどにコシがある自家製麺だった。
コシがあり過ぎて、噛(か)み切るのが大変だ。そしてドロリッチスープが麺にまとわりついて麺を引き上げるのにそれなりのパワーを要する。具材はカレーうどん全国共通のネギと油揚げそして豚肉。ちなみに関東は豚肉、関西は牛肉らしいが、名古屋は普通、豚肉である。
肉はかなり長時間煮こまれているようで、時雨煮のようなホロホロ感がある。何よりもまずボリュームが多い。体感的には麺は他店の倍近くあるんじゃないのか? 2代目店主の小塩清貴さんによると、「量は多いってよく言われますけど、測ったことないんですよ~ハハハ」って。え? このアバウトさに一瞬驚く。
「うちは個人店だから、カレーうどん専用にダシを取れないんです。どのうどんもダシは共通。カレー粉を、そのダシに合うようにブレンドしてるんですよ」。なるほど、カレーうどんはカレーにばかり目がいくけれど、実は主役はダシなのだ。
そのダシはカツオ、ムロアジ、ソウダカツオと一般的な名古屋風。加えて名古屋では珍しい昆布も入る。「名古屋は関東風と関西風のごちゃまぜな部分がありますからね」。現物を見せてくれたので、ずらりテーブルに並べてもらった。
うむむ。確かにこの素材から出すダシは最強かもしれない。ここに溜まり醤油やみりん、そして独自ブレンドした「カレー玉」を加え、行列のできる名店「清平」のドロリッチスープは完成するのだ。
●Information
清平
名古屋市西区上名古屋3-13-30
名古屋ならではのダシや麺へのこだわりと、カレーうどんが本来もつうまみ、この2つの絶妙なハーモニー。確かに「若鯱屋」にしろ「清平」にしろ、この2つのバランスは完璧といっていい。「名古屋のカレーうどんがうまいぞ」といううわさの背景には、絶妙なる名古屋テイストの隠し味があるようだ。