"朝カレー"を食べようと、対岸のマレーシア・ジョホールバルに

「第3の矢」が大こけして、早くも暗雲が垂れ込みはじめたアベノミクス。企業が最も期待していたのが法人税の減税だが、これも盛り込まれることはなかった。そんな日本を脱出する企業が増えていると聞く。向かう先として注目を集めているのが法人税率17%のシンガポールだ。

シンガポールの顔、ラッフルズホテル

シンガポールに朝早く到着したので"朝カレー"を食べようと、対岸の町であるマレーシアのジョホールバルに向かった。シンガポールでの移動はタクシーを使ったとしても、概ね10シンガポールドル(770円程度)以下だが、地下鉄もMRT東西線と環状線であるMRT南北線が走っている。地下鉄は、Suicaなどと同じ仕組みのチャージ式のカードを使うのが便利だ。

地下鉄東西線でブギス駅まで向かい、徒歩でクィーンズストリートのバスターミナルへ。ジョホールバル行きのバスに乗り込むと、寒いくらいエアコンが効いている。朝6時台だけに昼間に比べて乗客は多くはないが、それでも座席の3分の1強は埋まっていた。こんな時間にバスに乗って国境越えをするなんて、シンガポールで朝まで働いたマレーシア人の労働者ということだろうか。

ジョホール水道にかかる橋のそばには大きなパイプラインも通っているのが見える。シンガポールはマレーシアから水の供給を受けていると聞いたことがあるので、もしかするとそれかもしれない。

ジョホール水道を走るパイプライン

ジョホールセントラルのターミナルに着くと、前回のイスカンダル計画のレポートでも書いた、マンション販売のブースに誇らしげに貼られていた「SOLD OUT」というシールを見ることができた。これも好調なシンガポール経済の恩恵なのだろう。

ジョホールバルの「SOLD OUT」したマンション販売

なんとも奇妙な建物「マリーナベイサンズ」、日本人としては敗北感

シンガポールの新名所といえば、「マリーナベイサンズ」。湾曲した3つのビルの上に巨大な船が乗っているというなんとも奇妙な建物である。この建物の建設には最初日本のゼネコンに打診があったというが、「設計上、難しい」と断りを入れたため、韓国のゼネコンが受注したという。こうしたチャレンジ精神にも、このところの韓国企業の強さの一側面を見ることができる。

マリーナベイサンズ

大きく腕曲している

今やリスクは取らないというのが日本企業の定石ともいえるだろう。「難しくて危険かもしれないけれど、やってみよう! やればいいじゃないか!」。そんな姿勢があてはまるのは"原発再稼働"くらいというのは大きな皮肉だ。結局、ビルの上に船を乗せる技術は韓国のゼネコンにはなく、日本のゼネコンが手がけたという話も聞いた。どうせやるなら最初からやれよと言いたくなる。

マーライオン

マリーナベイサンズの中には、ホテル、ブランドショップ、レストラン、そしてカジノまで入っている。好き嫌いは別にして、ここまでやるシンガポール人のパワー、発想を見せつけられると、日本人としては敗北感を持ってしまう。「一人当たりGDP」でも抜かれるのも仕方がない。日本人的な発想からすれば、このような豪奢な建物は、悪趣味という印象を受けるかもしれない。だが、悪趣味であっても徹底的に突き進めば、悪趣味だという嫌悪感よりも、「よくここまでやったな~」という感嘆の気持ちのほうが大きくなる。前述の敗北感というのは、こんなところから生まれてくる。

金融街

夜には噴水とライトのショーがある

「マリーナベイサンズ」、運営するのはあの「ラスベガス」のサンズグループ

リスクをとらないという話ともつながってくるが、いまの日本は何に関してもそこそこ、中途半端なのだ。もちろん、日本人からすれば、何事も中庸でまったりとした環境は居心地がいい。だがそんな発想からは、「ここまでやる!?」といわれるような成果物は、生まれてこないだろう。

例えば、サムスンのスマートフォン、GALAXY。初期モデルを見たときにも「ここまでやるか!?」と驚いた。何で「ここまでやる!?」と驚かされたといえば、商品の入った箱、充電ケーブルは、iPhoneのそれとそっくりで、外形もやはり似通っているように感じたからだ。だが、それがいまや、世界でiPhoneを凌駕する存在になっている。何を徹底したかというと、「真似」を徹底したのだ。ただ、真似された側のiPhoneでも、アップストアからアプリケーションを購入させるというモデルは、NTTドコモのiモードと似ている。良いものを巧く取り入れて真似ていくことでも、進化は生まれるのだ。

真似という点では、マリーナベイサンズもそうだ。これを運営するのは、ラスベガスのサンズグループ。マリーナベイサンズは、ラスベガス仕込みなのである。それを知ると多くの人が、合点が行くのではないだろうか。「ここまでやるか!?」と呆れてしまう元祖ともいえるのがラスベガスだからだ。ニューヨークの摩天楼、自由の女神、パリのエッフェル塔、ヴェニス、スフィンクス、ピラミッド……。パクリのオンパレードである。ラスベガスで日中にこれらを見ると、世界の7不思議ならぬ、呆然の7乗という感じだが、夜になってくると不思議な輝きを帯びてくる。

もともと砂漠で何もなかった場所に一大観光地に成り上がったラスベガス。淡路島ほどの大きさでさしたる産業もなかったシンガポールが、世界に冠たる経済大国になった姿と重なる。成功した理由は「徹底したから」に他ならない。ここまで書いておいて、話をひっくり返すようで恐縮だが、今の日本が悩ましいのは、「何を徹底すればよいのか?」が見つからないからだろう。

次回は、マリーナベイサンズの全貌を紹介する。