動物研究家のパンク町田さん

インド人の少年とベンガルトラが、ほかの動物たちとともに漂流した冒険映画「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」が公開されたのも記憶に新しいところ。もし、あなたが危険な動物と1対1で出くわしたとしたらどうしますか?

クマのように出会う可能性の高い動物の話から、ライオンなどの遭遇率の低い動物の話まで、作家にして動物研究家のパンク町田さんにおうかがいしました。

野生動物と仲良くなれるのか?

――パンク町田さんは、昆虫から猛獣まであらゆる生物に興味を持ち、世界中を飛び回っては野生動物の生態を探る動物のスペシャリスト。そこでお尋ねしたいのですが、もし野生動物と1対1になったら……仲良くなれますか?

「それは、難しいですね。映画のように人間に飼われていたならばまた話は別ですが、野生動物の場合は向こうだって人間が怖いですからね。警戒もするし、やられる前にやってやろうって感じです。

そもそもこの地球上において、人間に対して警戒心のない動物って絶滅しちゃっているんですよ、残念ですが。警戒心の強い動物だけが絶滅をまぬがれて生き残っているんです。そりゃそうですよね。警戒心がなくちゃ、あっと言う間に人間やほかの動物の餌食ですから」

――そうそう簡単には仲良く漂流なんてできそうもないですね。では、もし森や山で野生動物に出くわしてしまった場合、どうしたらいいんでしょう?

「まずはクマについて。よくクマに会ったときは寝たふりをしろと言いますが、それこそ危険ですよ。熊って春先に冬眠して起きてくると、冬の間に雪の下で凍ったシカの死骸なんかを食べるんですけど、そんなクマの目の前で死んだふりでもしようものならば『おお、エサがあるぞ』って思われちゃいますよ。

とにかくクマに出会ったら目をそらさず、そして大声をあげたり大きな音を出しながら、少しずつ距離をとっていく。30~50mくらい距離がとれれば、追ってくることはまずありません。

次にイノシシと出会ったら、とにかく周囲に板がないかを探す! その板をイノシシに対して斜めにして構え、闘牛士のような動きでイノシシをかわすんです。

板がない場合も、ヤツはまっすぐに走る習性があるので、とにかくかわす。また、イノシシは豚の仲間なので、高いところに登ることができません。ですから、近くに高いところを見つけて登れば安全です。

毒蛇に遭遇した場合、まむしなんかは簡単です。棒で頭を押さえて、ちりとりに入れて捨てちゃえばいいんです。ハブは少し厄介で、あのするどい牙があるので、マムシ退治よりも長い棒が必要です。

ただ、あの牙って意外に弱いんですよ。けして鋼の強さじゃないので、棒を口に入れて折っちゃえばいいんです。そうやって牙を折ってから捨てた方が、ほかの人にとっても安全です。ちなみに、その歯はやがて生えてくるので、心を傷める必要ないですよ」

猛獣に遭遇したときの注意点

――とにかく危険な生き物に出会っても、慌てず、弱みを見せず、相手の習性を知って冷静に対応することが肝心ということですね。それでは、もし歩いていてばったりカバに出会ったらどうしましょう?

「カバは見た目と違って動きがとても速くて、そばに寄るのは危険です。時速60kmくらいで走りますから、ぶつかったら車との交通事故の衝撃があります。

ただしカバは小回りがきかないので、まっすぐに走ってくるのさえかわせばOK。周囲を数回ぐるぐると回れば、カバは人間の動きについてこられません。そして背後に回ったときに逃げればいいんです」

――なるほど、こちらのフットワークを生かせばいいってことですね。

「早いといえば、ワニも早いんですよ。以前、ニューギニアに行ったときのことなんですが、低いフェンスが張り巡らされているエリアがあったんですよ。何の気なしにそのフェンスを越えて歩いていたら、もよおしてきてしまいまして……。

まあ、大自然の中なので、ちょっと土が盛り上がったところで用を足していたら、向こうからすごい勢いでワニが走ってきて! 明らかにこっちを狙っているんです。もう慌てて走って、フェンスを高跳びのベリーロールのようにして飛び越えて、命からがら逃げました。ワニって少しの高さのフェンスでも乗り越えられないんですよ。

ちなみに後からわかったのですが、そのフェンスの中はワニの棲み家で、私が用を足してしまったところは、どうも産卵所だったようで……。そりゃワニも怒りますよね。このときの教訓としては、海外に行ってフェンスを見たら、何かしら意味があると思うべし、ということでしょうか」

――それはすごい体験でしたね。では、うっかり散歩中にライオンに会ったらどうしましょう?

「私、アフリカでライオンのすぐそばを通ったことがあるんですけど、猫のおしっこのような臭いがしました。日ごろから猫のおしっこのような臭いを感じたら注意してください。

そしてライオンでもトラでもチーターでも、猛獣類に出会ったら目線を外しちゃダメです。その途端に襲ってきます。目線を外さないと襲いづらいもんなんです。目線を外さずにゆっくりと後ずさりするのがコツです。

チーターなんて簡単で、後ろに回り込んで股間に足をいれて動きを封じて、ヘッドロックすればOKです」

――目線を外さずに……ですね。自信ないですけど、がんばってみます。最後に総合的にもうひとつためになるお話をお願いします。

「これは私の体験談からなのですが、私はあるときアフリカで、とある沼につかって歩いていたことがありました。岸を見たら原住民が手を振っているので、こっちもニコニコしながら"お~い"みたいにフレンドリーな感じで手を振り返したんですね。

ところが後から聞いたら、その沼はどう猛なワニが住む沼。原住民はそれを知っていて"引き返せ!"って手を振っていたのです。野生動物のいるような場所に旅行した際には、とにかく地元の人の注意を事前によく聞くこと。何より情報収集が大切です」

人生いつ、どこで危険が待っているかわからない。今日からしっかり、動物の習性を調べて安全に逃げる方法を確認してみたいところ。そしてその習性を知ることで、動物の王国を汚さず、共存することもしっかりと考えたいですね。

パンク町田
1968年中野区生まれ。史上最強のアニマリスト。昆虫から鳥類、爬虫類、猛獣まで扱うことができる。鷹狩にも造詣が深く鷹道考究会理事、日本流鷹匠術鷹匠頭、日本鷹匠協会鷹匠、日本鷹狩協会鷹師を兼任。犬の訓練士でもある。日本使役犬協会主催、Japanese bandog club主催。また千葉県旭市に動物研究施設「アルティメット・アニマル・シティー」を開設している。著書は『買ってはいけない○禁ペット』(どうぶつ出版)、『猛禽類の医・食・住』(ジュリアン)など。月刊「ペットショップライフ」にて「パンク町田の生体のことならオレに聞け!」などを連載中。
アルティメット・アニマル・シティー

(OFFICE-SANGA 平野智美)