旅の楽しみのひとつとして、列車で食べる駅弁を挙げる人も多いはず。蓋をあけると出てくる、その土地その土地の特徴を感じるおかずには、いつだってワクワクさせられてしまう。そんな駅弁のルーツを求めて、栃木県の県庁所在地、宇都宮を訪れた。
最初の駅弁は握り飯2個とたくあん
昔は、駅の立ち売りが弁当を売るための呼びこみの声も、旅の風物詩のひとつだった。そんな駅弁のルーツは諸説あるが、最もよく知られているのが栃木県の宇都宮駅説だ。宇都宮駅が開業したのは明治18年(1885)の7月15日のこと。日本初の鉄道路線、新橋駅~横浜駅間が開通してから13年後のことである。当時は国鉄ではなく、日本初の私鉄、日本鉄道の駅だった。
そんな開業当初に、宇都宮の旅館「白木屋」が駅で弁当を売ったのが最初だと言われている。その時の弁当の内容は、ゴマを振りかけた握り飯2個と、たくあんを竹の皮で包んだだけというシンプルなものだった。山高帽にマント姿の紳士も、はかまに学生帽の書生さんも、ハイカラな婦女子も、栃木の山々や関東平野の農村などを見ながら、握り飯をおいしそうに口にしたことだろう。
駅弁の発祥についてはこの他にも、大阪の梅田駅説や兵庫の神戸駅説などもあり、どれが本当かは確定できない。しかし、これら伝統のある駅で売られた弁当が、日本の旅を豊かにしてきたことには変わりはない。
明治時代の復刻駅弁も登場
歴史のある宇都宮の駅弁だが、現在はどんなお弁当が食べられるのだろう? 気になったので、宇都宮駅に駅弁を提供する老舗弁当店の「松廼家(まつのや)」に、人気のお弁当についてうかがった。
松廼家は明治26年(1893)に創業。以来長い間、宇都宮駅で駅弁を販売している。駅構内に販売店を持つほか、宇都宮駅から徒歩約30秒のところに玄氣亭という店舗を持ち、古代米カレー(550円)なども提供している。創業当初は握り飯などシンプルな弁当が多かったが、今では日光ゆばやかんぴょう、とちぎ霧降高原牛、北筑波産こしひかりなど、地の幸をふんだんにもりこんだバラエティ豊かな味を提供している。
「栃木県は、日光、那須など有名観光地の多い県。また、宇都宮は大谷石、ギョウザ、ジャズ、そして駅弁発祥の地として知られています。そうした名物にちなんだお弁当も登場するんですよ」とのこと。以前は駅弁発祥の地にちなんだ、明治の弁当の復刻版が登場したこともあり好評を博した。
ちなみにその弁当は今後発売の予定はないが、現在でも発売されている「汽車弁当」シリーズは、当時の弁当を模して作られているものだという。
栃木が誇るブランド牛の駅弁がNo1
そんな松廼屋で、予約、指名買いの多い「お客様高支持の弁当ランキング」を発表しよう。
1位 とちぎ霧降高原牛めし(1,000円)
既存の焼き肉弁当を、とちぎ霧降高原牛、干瓢(かんぴょう)、日光湯波という栃木を代表する名産品を使ってリニューアルしてから、人気急上昇。あっさり味のたれがお肉の風味を損ねず、最後まで飽きさせない仕上がりに。加熱容器入りは1,100円。
2位 玄氣いなり(500円)
ワンコインで買えるお手頃さもうれしいヘルシー弁当。玄米なのに柔らかいので、お子様やお年寄りにも人気だとか。大豆を炊き込んだ玄米御飯には、他にひじき、ごま、干瓢も混ぜ込んである。お手軽だけれど満足度高し。
3位 下野山菜弁当(700円)
かつては鶏肉を入れていたそうだが、お肉が入っていないお弁当が欲しいとの声から、グルテンミート(小麦たんぱく)に替えたところ、コレステロールが気になる中高年や、肉が苦手な人から人気に。
4位 大人の休日倶楽部(800円)
“駅弁発祥の地”にこだわったお弁当。宇都宮駅創業当時を思い起こさせる、素朴さが人気の模様。箱の中から竹皮で包んだおにぎりが2個登場。米は栃木の北筑波産コシヒカリ、そして、いっこく野州どり(栃木県足利市の生産農家に育てられた鶏)を使用している。
5位 よくばりスタミナ弁当(1,000円)
各人気弁当のいいとこ取りをしているお弁当。鶏肉、豚肉、まぐろの3品がメインとなっている贅沢(ぜいたく)な一品で、バラエティにとんだ味が楽しめる。ボリューム満点だが、意外にも女性に人気があるのだとか。
宇都宮駅へは東京の新宿からJR湘南新宿ラインで1時間47分。そして、東北新幹線や山形新幹線も走り、那須塩原などの県内有数の観光地や東北への旅の拠点にも便利な駅なのなのだ。他県へ訪れる際にも、こちらを経由して駅弁を楽しむプランをたててみてはいかがだろうか?