――さて映画の内容に入る前に、まずはタイトルについてお伺いします

細田監督「今回の映画は、狼男の子どもを育てる女性が主人公のお話ですが、この"狼男の子ども"というのを一言で表せないかとずっと考えていたんですよ。狼少年じゃないし、狼少女でもない。狼少年というと狼男の子どもではなく、嘘つきのことですし、狼少女だったら狼に育てられた人間の女の子のことです。それだと意味が全然変わってしまう。だから、狼男の子どもであることをどうしたら誤解なく伝えることができるかということを考えた結果、『おおかみこども』という造語ができあがりました。作ってみたらえらく可愛らしいじゃないですか。しかもひらがなにしたもんだから余計に。なので、そのままタイトルにしてみたという感じですね」

――表記をすべてひらがなにした理由は?

細田監督「今回の作品は、『私が好きになった人は、"おおかみおとこ"でした。』という一言から始まっていて、そこから、主人公の花が生まれて、ストーリーが組みあがっていったわけですが、最初にその言葉を書いたときに"ひらがな"で書いてしまったんですよ。もっと具体的にいうと、うちのパソコンが漢字に変換してくれなかった。普通だったら、『狼男』とか『オオカミ男』になるんだと思うんですけど、なぜか全部ひらがなのままで『おおかみおとこ』。偶然なんですけど、『おおかみおとこ』と『狼男』では字面から受けるイメージが全然ちがうじゃないですか。全部ひらがなだと、ものすごく優しくて、思い遣りのある感じがしますよね? 全部をひらがなにすることで、これまでとは違った狼男像ができあがり、そこからさらに広がる物語があるんじゃないかなって」

――『おおかみこどもの雨と雪』は、監督ご自身が小説を書いたり主題歌の作詞をなさったりするなど、作品への入り込み方がこれまで以上に深い作品になっていますが、そのあたりはいかがでしょうか?

細田監督「まさか自分が、母親を描く映画を作るとは、今まで思ってもみませんでした。しかし、いざ作るということになったときに、心に浮かぶモデルというのは、亡くなった母や祖母だったりするんですね。ですから作りながら、昔のことを相当思い出しました。たとえば、あのときはひどいことを言ってしまったなあ、とか、親の期待に添えなかったなあ、とか。母の幸せに自分は貢献できたんだろうか、とか、後悔することばっかりで……。そんな思いで作っているので、脚本や小説や作詞は、今までのように人に頼むわけにはいかないな、と思いました。全部自分自身で責任を背負わなければ、この作品に対して不誠実になると考えたんです」

――監督の作品では、いわゆる声優の方でなく、俳優、女優として活動なさっている方がキャスティングされることが多いですよね

細田監督「特に意識しているわけではなく、あくまでもオーディションをやって、キャラクターのイメージの合う方にお願いした結果ですね。声優さん、俳優さん、舞台俳優さん、子役……と、いろんな方に来ていただいていますが、基本的には技術や上手さよりも、声のイメージや人間性が役柄に近い人を選ぶ傾向にあるかもしれません。もちろん上手い方にやっていただくほうがいいのは当たり前で。……あの、声優さんというのは本当に上手いんですよ。ただ上手いがゆえに、オーディションでは人間性が判り辛くなるときがある。休憩の合間に会話をしたりすると、その方のいろいろな面が見えて面白いのですが、いざ本番となるとその人間的面白さがお芝居に隠されてしまうことが多かったりするので……難しいですね」

――今回のBlu-ray/DVD化にあたって、修正などは加えていらっしゃいますか?

細田監督「アニメなので、色間違いなどの修正はしていますし、劇場とテレビではフレームの感覚がちがうのでテレビ用に若干いじったりもしていますが、今までの作品と比べたらかなり少ないですね。『時をかける少女』や『サマーウォーズ』は、カットレベルでかなり大胆な修正を加えていますが、今回は元々の仕上がりが高かったので、そのあたりに手間をかけることなく、より色味やフレームなどをテレビ用に細かく調整できたのがよかったです。これまでと比べて家庭のテレビも解像度など大きく進歩するなど、視聴環境が格段に上がっているので、それに負けない画面作りというものを心掛けて修正しています」

――映画館ではわかりにくかったものが、テレビだとはっきり見えたりもしますよね

細田監督「映像もそうですが、音も大きく変わっています。本当に家庭での視聴環境がすごく良くなっている。そういう意味では、映画館でご覧になった方ももう一回Blu-rayやDVDで観ていただくと、映画館では気づかなかったところが新たに発見できたりすると思いますし、そのあたりを楽しみにしていただけたらいいなって思います」

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