千葉・幕張にて開催された、トヨタ自動車の「86 Opening Gala Party」。同社代表取締役社長・豊田章男氏による「86」(ハチロク)のお披露目に続いて、86チーフエンジニアの多田哲哉氏、レーサーの飯田章氏、脇坂寿一氏、影山正彦氏、そしてレーシングドライバー"モリゾウ"氏(豊田氏)を交えて、4名のドライバーによる本音インプレッショントークセッションが行われた。

86 Opening Gala Party」トークセッション参加者。左からマーケティングディレクター木場氏、「86」開発チーフエンジニアの多田氏、モリゾウ(豊田)氏、影山氏、飯田氏、脇坂氏

モリゾウ氏「乗ってすぐ対話が始まる。いつまでも一緒に遊びたい」

最初の話題は、モリゾウ氏のドライビングについて。同氏の走行シーンのビデオが上映された。影山氏はモリゾウ氏のダート走行に同行したという。影山氏自身も「86」の初体験だったことを明かし、意外にも、「舗装路とダートを乗り比べてみたら、ダートでもロードと同じようなダイレクト感があった。ロードとまったく同じように動く。粘りのあるフリック感があって、扱いやすさに差がなかった」と語った。

「ニュルブルクリンクをクリアしたクルマを届けたい」モリゾウ氏

「86」の扱いやすさとはどんな感覚かという問いに対して、モリゾウ氏は「本当にすぐ乗りこなせる、素直なクルマ。乗ってすぐ対話が始まって、『じゃあまたね』で終われなくて、いつまでも一緒に遊んでいたい。楽しい車でした」

映像を観た脇坂氏は「社長の子供のような楽しい顔がいい。雪の上で社長が自らこんな走りをしたり、ダートに乗ったり……。開発された方々にとって、社長に乗ってもらうって緊張すると思うんですよ。レーシングドライバーとして、社長がどう感じるか、そういうテストをするって素晴らしいことです」と話した。これに対して、「社長じゃなくてモリゾウさんでしょ?(笑)」とMCからツッコミが入り、登壇者たちも和んだ雰囲気に。

脇坂氏自身の「86」に対する印象は、「普段レーシングカーでレースしていても、乗ってわかりにくいクルマも多い。でも、『86』を借りてちょっとだけ乗ってみたら、ハンドリングから伝わってくる路面との対話であるとか、ものすごく敏感にシビアに伝わってくる。我々レーシングドライバーでも心がワクワクドキドキするような乗り味だった」と評価。あらためて、モリゾウ氏(豊田氏)がドライビングしたことについて、「デザイナーのボスがクルマ好きで何が悪いと、好きこそ物の上手なれ、それに尽きると思いますよ」と。これには来場者から拍手が起き、モリゾウ氏も、「ありがとう(笑)」と応じていた。

そんなモリゾウ氏にまつわるエピソードを多田氏が披露した。開発の半ばにモリゾウ氏がクルマのチェックに来て、「なんだこれは、ぜんぜんコイツ(開発車)とは話ができん」と、機嫌を悪くして帰ってしまったという。多田氏は悩み、開発チームと話し合った結果、ドライバーの操作や路面の状況をすべてドライバーに返す、そんなクルマづくりに向かわせることにした。「いままで、いいクルマっていうのは、どんな人がどんな運転をしても、普通に走ってくれると思っていた。だけど、ユーザーの操作にクルマがちゃんと応えてくれる。そういうふうに考え方を転換してから、先へ進めました」

完成した「86」でダートを走行した後、モリゾウ氏が「ありがとう」と言ったそう。「クルマに言ったんですよ。クルマに(笑)」とモリゾウ氏。そんな同氏の執務室、つまり社長室には、歴代"ハチロク"のエンブレムが飾られているとか。「誰にもさし上げませんよ(笑)」と本人が牽制する場面もあった。

「いいクルマとは何か、悩みました」多田氏

「ATとパドルシフトが楽しかった」脇坂氏

ニュルでシェイクダウン、サーキットで鍛え上げた「86」

話は「86」に戻り、影山氏のインプレッションの話題に。ここで驚きのエピソードが明かされる。影山氏が「86」のプロトタイプをドライブするという話は、ニュルブルクリンク(ドイツ)のサーキットに入ってから聞かされたという。しかも到着したクルマをチェックしたら、ブレーキローターなどに走りこんだ形跡がない。遠回しに、「このクルマのテストはいかがでしたか?」と聞いてみたところ、「富士の東外周路を1周してきました」と言われたという。「いきなりニュルでシェイクダウン(ならし運転)か、という驚きと同時に、本当にサーキットで『86』という車を鍛えるつもりだなと実感した」と景山氏は語った。

これに対してモリゾウ氏は「ニュルはサーキットなんですけど、普通の道、しかも厳しい道が凝縮されている。LFA(レクサスブランドのスポーツカー)のときも、ずっとテストコースで走って、走って、それでも不具合が出なかったクルマが、レースになったら30分ですぐ(不具合が)出るんですね。それほどニュルの環境は厳しい」という。ここで同氏は経営者の一面ものぞかせ、「こういうクルマはいろんなお客様が、いろんな使い方をされると思います。そういう意味で、どうしてもニュルブルクリンクで走らせて、課題をつぶしてからでないとお客様には出せないと思いました」と語った。

飯田氏が補足する。「ニュルはサーキットですけど、テストコースでもあるんですね。だからモリゾウさんがおっしゃるように、ニュルで鍛えあげたら、誰でもそこに太鼓判を押せる。だから世界中の車メーカーが持ってきて、『ウチの車いいだろ』とやってる。そこに和気あいあいとした雰囲気を感じるし、同時に勝負する場、車メーカー同士がしのぎを削る場でもあるんです」。多田氏によると、「86」にはLFAの開発者も関わったという。「86」はLFAの乗り味とトヨタの伝統を受け継いだクルマなのだ。

ちなみに飯田氏は、トヨタ販売員向けのサーキット研修会も担当しているそう。「いつも皆さんとサーキットでいろんなクルマに乗るんですけど、『86』のときは皆さんの笑顔や会話の弾み方がいままでにない感じでした。『早く乗りたい! 早く早く!』とクルマが人を呼びこむようなオーラがあって、研修会はものすごく盛り上がりました」

「『86』は自分好みに創り上げる楽しさがある」影山氏

「クルマ好きを寄せつけるオーラがある」と飯田氏

ドライバー脇坂氏「『86』の5年後、10年後に期待」

一方、脇坂氏はトヨタが開催する一般のユーザーを対象としたサーキット走行会イベントに協力している。サーキットを走るというとハードルが高いイメージだが、トヨタはそのハードルをぐっと下げる努力をしているとのこと。自分たちが持ってきたクルマ、軽自動車でもいいし、他社の車でもいい。ふだん自分たちが乗っている車を持ってきて、レーシングドライバーと楽しもうというイベントだ。

「こういうところにも、今後『86』が来るんだなと思うとうれしい。『86』の5年後、10年後に期待しています。どういうことかというと、僕らの走りを見てくれる子供たちがたくさんいる。彼らに対して、どれだけモータースポーツで夢を与え続けられるか。彼らが免許を取る年齢になって、この『86』が世の中に浸透して……。デビューの場でこういう話はどうかと思うけど、そのうち中古車業界にも流れて、そうすると彼らにも手の届く車になってると思う。そうなったときに、モータースポーツと彼らの橋渡しをしてくれる車が『86』じゃないか」と脇坂氏。

「『86』に乗る大人が、子供たちからヒーローやヒロインに見えますね」とMCに言われた脇坂氏は、「家族の食卓の話題に『86』やサーキットが出てきたらいいなあ。僕らが子供の頃ってそうだったんです。それがとても楽しかった。だからいまの子供達にも、そんな楽しさを与えたい」と語った。「その子供たちが中古の『86』を経験した延長に、トヨタがもっといいクルマを作って、彼らに次の夢を与える。つまり、『86』は現在と未来をつなぐ架け橋になる。そこに期待しています」

関連サイト
toyota.jp 86
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