『Fan+』ブースの3本の柱に記された、Fan+は、「ヒト、モノ、コト、ココロ」のファンに向けて。「ただの"デジタル化"ではない。」「狭くて、深い。」というキャッチフレーズが印象的

――では続いてお聞きします。現在、ネット上では企業がファンの交流などにTwitterなどのツールを導入したりと力を入れていますが、『Fan+』ではファン同士の交流といった部分では、どのようにお考えですか? たとえば個人の場合だと、気に入ったコンテンツを購入して満足する。それで一応、完結しますよね。それでは購入者の輪が広がらない。『Fan+』は、どのような戦略を持ってユーザー開拓することを考えているのでしょうか。

「そうですね。そこは本当に大事なポイントだと思っています。『Fan+』のコンセプトに合った仕組みを現在検討しています」

――現段階では、それはサービス開始後に徐々にといった感じになるのでしょうか。

「はい。しかし、なるべく早期に仕組みを打ち出したいと考えています」

――これまでのお話しを伺って『Fan+』の強みは、それぞれの分野についてメーカーや企業のオフィシャルコンテンツをユーザーに提供できることだと感じました。しかし、「アニメ」「漫画」「ゲーム」など、新しいものが次々に生産し続けられているものについては、どのようにお考えでしょうか」

「そうですね。それは、本当にいろいろな切り口があると思っています。たとえばアニメで言えば、そのキャラクターに的を絞ったり、声優という切り口でファンが集まるといったような……そういうのが、まずは王道かなと思っています。それぞれの切り口に合わせ、"チャレンジ"という意味も含めていろいろなパターンをやろうと考えているところです。そして、我々は角川グループということもありまして、その強みは活かしていきたいと。また、ゲームに関しては、攻略などを映像(動画)でお見せするといった手法も試してみたいと思っています」

――アニメやゲームで言えば、そのタイトルのオフィシャルサイトというのは現状、すごく充実していると思います。ゲームなら、そのサイトでプロモーションムービーも見られるし、音声&BGMも聴くことができる。そういった意味では、すでにある程度完結しているという感もあります。その中で『Fan+』は、どのように差別化を図ろうとお考えでしょうか。

「まず、『Fan+』のMy Boxにコンテンツを購入して入れておくことによって、これってどうだったかなと思ったときに、すぐにその情報を見ることができます。また借りているものではないので、返すといったこともない。また、そのオフィシャルサイトに"訪れる"のは一時的な行為ですが、それと自分の好きなものだけをMy Boxにどんどんためていけるのとでは、大きな違いがあるのではないかと思っています」

――つまり恒久的に、自分にとって価値の高い趣味の動画やデータをため込んでいけるということですか。

「そうです。たとえば、アニメに関して言うならば、どんなに流行っていたり注目を浴びている作品でも、それが全て恒久的に続くのかと言われたら、それはわからないですよね。もちろん、何十年も前に発表されたけれど、今も変わらない人気を誇っている作品もあります。でも、多くの場合は10年、20年というスパンで考えたときにどうなっているのかと……。ムーブメントが過ぎ去れば、それに即して情報も風化していきます。公式サイトもなくなっているかもしれない。しかし、『Fan+』のMy Boxにためておけば、自分の青春の1ページを保存し続けられる、というふうに捉えていただければと思っています」

――では、その購入したコンテンツというものをMy Boxに入れる・ためるということについてですが、それはユーザーの端末に保存されるのでしょうか。それとも、御社のサーバー上にということになるのでしょうか。

「My Boxは、サーバー上に保管されるということになりますね。会員になったら、ずっと自分だけのMy Boxが存在し続けます。そして、好きなときにアクセスすれば、いつでも"大好き"を見ることができるという仕組みです」

――では最後に、『Fan+』はどのようなプラットフォームを目指しているのかというところをお聞かせください。

「私はローカルなものといいますか、狭い分野ですね、それこそが"文化"だと思っています。ですので、ユーザーが自分の欲しいものを、どんどんためていく……そして、それをある時に眺めてみたら、それは自分の人生の一部であった……。自分はこのころに、これにすごく興味を持っていたんだ、というものを確認することができる場所を提供したいと考えています。また、出展していただく側に対しては、"数"ではなく"クオリティの高さ"を求めていきたいですね。ユーザーがためておきたい・残したいと思うようなコンテンツを提供していただきたいと思っています」

――ありがとうございました。

今回の「デジタル パブリッシング フェア2010」において『Fan+』のブースは『Google』ブースと隣り合う場所にあり、この並びは今後の出版業界において、避けては通れない課題が奇しくもならんだ形となって表されたとも言える。語弊があるかもしれないが、個人的にはこれからデジタル上で新メディアを創造していくサイトと、これまでのアナログデータをデジタル化=リサイクルを行うサイトという並びに見えたのである。

『Fan+』と『Google』、それぞれのブース

なお、『Fan+』には、月刊誌『歴史読本』を出版する新人物往来社や、『レイル・マガジン』を出版するネコ・パブリッシング、ゴルフ選手のマネジメントを行うフォロースルーなどからレコメンドメッセージが送られており、今回の「デジタル パブリッシング フェア2010」出展を契機に各企業からの注目度も俄然高くなったようだ。それはブースが大勢の企業関係者であふれかえっていた光景からも察することができた。

しかし、一概にコンテンツ製作・販売といってもアニメでいう製作委員会制度など、様々なメーカーや企業が参画して作品作りが行われている昨今は、権利関係をクリアするために様々な障害が待ち受けていると思われる。そんな時代にユーザーの「大好き」を満足させるために、次の一手を打ってくるであろう『Fan+』に期待と注目をしていきたい。