漫画家、作家、そしてコメンテーターとして幅広く活躍するさかもと未明さんは、実は大の将棋ファンだ。初心者ながら島朗九段から指導を受け、その成長の過程は『フライデー』(講談社)の無料ポータルサイトに連載中の「島朗九段&さかもと未明のハイパー将棋講座」内の「島朗九段&さかもと未明 めざせ! 女流アマ名人戦1勝」)に余すところなく紹介されている。

島朗九段&さかもと未明 めざせ! 女流アマ名人戦1勝

移動時間や待ち時間、寝る前などには、詰め将棋をするなど、研究に余念がない。取材時に見せていただいた将棋の本には、何度も読み返した痕跡がしっかりと刻まれていた。

さかもとさんが「将棋」に出会ったのは今から2年前のこと。マンガの取材で東京・将棋会館を訪れたのがきっかけだった。棋士の姿に「浮世離れしすぎ? ガーンとしちゃいました」と新鮮な衝撃を受けたさかもとさん。その夜、日刊スポーツの忘年会で「観戦記を書きませんか」と持ちかけられ、その年明けには、女流王将戦の取材のため再度、将棋会館を訪れることになった。それまで「見たこともない、知らない」将棋の観戦記。それは、中倉彰子女流初段と岩根忍女流初段(当時)の対局だった。

まさに、"満身創痍"の状態だったと振り返る。「編集担当の方からは『初心者の新鮮な視線で書いてほしいんだよ』と言われて引き受けたんですけど、将棋のことは本当に何も知らなかったので、完全に女性記者だと思っていた中倉さんに『自分の写真を撮ってください~』と頼んだら『これから対局なので1枚か2枚でよろしいでしょうか』と対局室で言われて! 本当、凍っちゃって!(笑)」

ギャグマンガのような展開にショックを受けながらも、取材も無事終了。「両対局者が、気をガンガンに飛ばされていて、面白かったですね。将棋は本当に初心者だから、見ていても分からないので、朝何を食べたかとか、勝負下着やファッションポイントについて聞きました」。さかもとさんにとって、一種独特の将棋の世界は魅力的に映った。

その頃、出会ったのがその後指導を受けることになる島朗九段だ。将棋の取材で出会った時、さかもとさんは不治の難病を発症して1年が経とうとしていた。「冬で寒かったので手が真っ黒になってしまっていて、手を温めていたら、その姿を先生が見られていて『どうしたんですか』とおっしゃってくださったんです。それで、私が自分の病気のことを話したら、将棋でも習ったら気分が変わるかもしれないと、将棋の指導を申し出てくれたんです」。

当時さかもとさんは、失意のうちにいた。「病気が原因で続けていたお仕事も終わり、体力が落ちて外出もままならず、友人には中々病気のことが話せずに疎遠になってしまい、毎週病院に行って、手が動かなくなるかもしれないという恐怖感もあって落ち込んでいました。島先生の申し出を聞いた時は、孤独の底で拾ってもらったという気持ちでした。だから、こんなに言ってくれる人に応えないのは嘘だと思って」。そこから女流アマ名人戦1勝に向け、島先生から指導を受ける毎日が始まった。

始めてすぐ出場した国際将棋トーナメントでは、対局者に笑顔を見せたら「投了の合図」と勘違いされてしまったという苦い思い出も。でも、そういった経験のひとつひとつ、先生の教えからたくさんのことを学んだという。「たとえば、敗者への思いやり。島先生から、マナーを守って、相手に失礼ないように敬意を表す、勝ち負けよりもそうした品格や振る舞いを大事にしなければならない、と教わりました。それは、自分に一番足りなかったものだったので、黙って落ち着いてその場にいる、ということを覚えた気がします」。

島先生の教えや経験は少しずつ実を結んでいった。その後、女流アマ名人戦で一勝を果たしたさかもとさん。途中、うっかり反則になる手を指してしまったが、相手の小学生が「それはダメですよ」と指摘してくれたおかげで、勝利することができたという。「本当だったら反則負けのはずでしたが、一勝を譲ってもらいました。力及ばずでしたが、彼女のおかげで華を持たせてもらって、将棋がひとつの形になったのでそれは嬉しかったです」。

「将棋なら人と一緒に何かできるし、家でも勉強できる。ただ単に刺激を求めるわけじゃなく、今からプロになれるわけではないけれども、長い時間をかけて技術を獲得して、みんなで遊ぶというのはすごく楽しいこと」と将棋の魅力についてこう語る。

「アマ女流名人戦一勝」の目標を達成したため、現在はさらに高い目標「アマ初段への道」に改題。「島朗九段&さかもと未明のハイパー将棋講座 アマ初段への道」で、さらなる修練に励んでいる。女流棋戦の「マイナビ女子オープン」(毎日コミュニケーションズ、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会主催)には第1期の五番勝負から訪れている。昨年の第2期には、矢内理絵子女王のスポンサー(※)にもなった。「応援しあうって大事じゃないですか。女性が一生懸命戦っているのをちょっとでも支えたいし、私も勇気づけられます。ああいうことはどんどん広がっていくといいなと思うの」。今回の第3期マイナビ女子オープンも楽しみにしているというさかもとさんに、最後に両対局者へのメッセージをいただいた。

島朗九段&さかもと未明のハイパー将棋講座 アマ初段への道

※マイナビ女子オープンでは棋戦で唯一、個人が対局者のスポンサーとなれる制度が設けられている

矢内女王へ

何度も会って、銀座でお食事もしてお人柄に触れているので、失礼でなければ、友人として頑張って! 女王の座を守ってね。不動の強さを、"女羽生"になってほしいと思います。

甲斐女流二段へ

おしゃべりしたことはないんですけど、(第1期マイナビ女子オープンの五番勝負の時、対局場の) 陣屋でお目にかかったのを記憶しています。振る舞いとか、お洋服の雰囲気などが楚々としていて、すごくかわいいのに、対局室に入るとすごく激しいものも感じました。人間はライバルによって磨かれると思います。すごくいいライバルがいるとお互い刺激しあうことで、全体のレベルも上がってくると思いますので、矢内さんをコテンパンにするくらいの勢いで挑んで、ドキドキした対局にしてください!