御年71歳、Windows 7だってネタにする!

俺が夕焼けだった頃、弟は小焼けだった。お袋は霜焼けで、親父は胸やけだった。わかるかなぁ、わかんねぇだろうなぁ――この謎かけ問答ネタといえばご存じ、松鶴家千とせ師匠だ。アフロヘアにサングラスのソウルファッションに身を包み、ピースサインを流行らせたことでも知られる大ベテランの漫談家である。そんな師匠が自らブログ『タイポグラフィ』を開設しているのはご存じだろうか。御年71歳。その年齢を聞いただけでも頭が下がるところが、中身がこれまた凄い。最新のITニュースにまで言及する、やたらと濃い内容のブログなのである。漫談とITは一体どうつながっていったのか、師匠に語っていただいた。

松鶴家千とせ師匠にブログについて語っていただいた。師匠はIT通なんですか??

――失礼ながら師匠の歳でパソコンをバリバリ使っているのは驚きました。

松鶴家千とせ(以下:松鶴家) 最初のきっかけは『愛犬の友』という雑誌の仕事のためだったんですよ。25年くらいやってたのかな。そこで原稿を執筆するのにパソコンを使う必要があって始めたんです。目的があったから、一生懸命覚えたんですよ。それから自分のスケジュールとか、仕事の依頼とかもネットで出していくようになって……。その後、NTT関連でネット連載の依頼があって、コラムなんかを書いていたんです。

――それがブログへと続いていくわけですね。それにしても松鶴家さんのブログの内容って、一般的な芸能人ブログとはかなり趣が違いますよね?

松鶴家 芸能人のブログというと「なに食べた、飲みに行った」でしょ。以前は私もそういう感じでやってましたけど、それじゃあつまんなくなった。やっぱり(ブログに)来てくれた方に、なにかを残したい。余韻があればいいなって。面白くてわかりやすくてためになるもの。そうすると次にまた期待してくれる。

――検索エンジンの争いWindows 7のネタなどをブログで話題にしていたり、IT系のネタがかなり多いですよね?

ITネタも多くみられる師匠のブログ。ぜひご一読を!

松鶴家 ITへの興味は強いですよね、やっぱり。でも、ITに詳しいというわけじゃないんです。たとえば、いまWindows 7のネタだとすれば、「中国で格安の海賊版が売られてしまうほど人気のあるWindows 7ってなんだろう」という興味があるんです。そういう興味から雑誌で調べたりして書くという感じですね。何十年も漫談を書いているので、調べ物とかは慣れていますし。

――視聴者とつながっていくにはブログなどのITは欠かせませんか?

松鶴家 今はそういう時代じゃないですか。FMのラジオ番組(かつしかFM・松鶴家千とせ ひるやけラジオ)に出演しているんですが、その番組もインターネット(ポッドキャスト)で流しているんです。だから全国に届けることができる。日本全国から番組宛にFAXが来るんですよ。それが全世界になればもっといいんだけどね。

――英語版の「わかるかなぁ~」とか?

松鶴家 そうそうそう(笑)。今、芸人は使い捨ての時代。芸だけでやっていける時代じゃない。テレビで使われるには司会とか、やったりしなければならないでしょ。だから(それができない)我々はいかに長く芸を続けていけるかを考えなければいけない。そのためにはブログであったり、メールであったり、新しいアイテムも使っていかないとね。ブログを見て若い人が動いてくれたらいいですよね。ちょっと興味を持ってもらえて、寄席に「行ってみよう」じゃなくて「行ってみようかなぁ」でもいい。そういうのが増えてくれればうれしい。ネットでつながることもいいけど、生で相対するのが最高だからね。

――昔の芸人も変わっていかなければならないと考えているわけですね?

松鶴家 伝統は大事ですけど、新しいことにもチャレンジしていかないとダメですよ。ただ、失敗するときもあるけどね。

――というと?

松鶴家 最初は漫談を作ったり、ネタをネットで公開していたんですよ。そうしたらネタを盗まれちゃってね(笑)。ああ、こういうものはひけらかしちゃダメなんだって。けっこう、芸人は敏感。よく見ているんですよ。あと、スケジュールもあまり先のことは出さないようにしている。前に「今度、熊本のどこそこに仕事で行く予定なので、美味しい店を紹介してください」とか書いたら、急にその仕事がキャンセルになっちゃった。先方からは「誰々さんが来ることになりましたので」って。営業先を調べて売り込まれたのかな(苦笑)。仕事を取られちゃったんです。まぁ、それもまた今となってはお笑いであってね、さすがと感心はしてますよ(笑)

――確かに芸人さんだと、そこは難しい問題ですね。

松鶴家 だから自分も他人のブログは見ない。芸人の性というか……。悲しいかな、どうしてもコピーしちゃうから(笑)。それでほかのお笑い芸人も見ないようにしているんです。コピーしたくなるので(笑)。(コピーしても)負けちゃうんですよ。私、古いから(笑)

師匠愛用の自作PCと。実際に組み上げるのは息子さんとのこと

――ずばり、あたためているネタとかありますか?

松鶴家 ブログのネタはあんまりないんだけど、最近はクイズをよく考えてますね。短くて面白いやつ。オレが昔、コガネムシだった頃、弟はテントウムシだった。オヤジは信号無視で、お袋は茶碗蒸しだった。わかるかなぁ、わかんねえだろうなぁ。ここでクイズです。昔、オレが虫だった頃、すぐ会社を首になった――どうしてか、わかるかなぁ~。

――ええっ? いや、ちょっと高度すぎて……。

松鶴家 それは蚕(解雇)だったから。わかんねぇだろうなぁ(笑)

――ウマイ(笑)。ITネタで漫談とか、どうですか?

松鶴家 考えるけど難しいよね。ITはやっぱり堅いんですよ。ITはあ痛ぇー、くらいで。秋葉原で漫談? Windows 7を買うのに何時間も並んでいるお客さんに向けて、やってみれば良かったかな。いいね、それ。

――シニア世代にもアピールできそうです。

松鶴家 我々の年代は技術の進歩についていけないところもありますけど、(若い世代と)見ている目は同じですからね。使えるのか使えないのか、浅いのか深いのかは別にして、技術に対する興味は若い人たちと同じようにあるんですよ。それがブログを通じて、わかってもらえたらいいですね。

松鶴家千とせ

1938(昭和13)年生まれ、福島県出身。1953(昭和28)年、松鶴家千代若・千代菊へ入門し芸能界入り。漫才・司会等、幅広く活躍した後、1967(昭和42)年千とせ流家元三代目「松鶴家千とせ」を襲名。その後も多方面で活動し、「わかるかなぁ・わかんねぇだろうなぁ」などの流行語も生み出した。現在も寄席やテレビ、ラジオなどで活躍し、かつしかFMでは『松鶴家千とせ ひるやけラジオ』のパーソナリティを務める。ホームページ『松鶴家千とせのおいでなせぇ!!』、ブログ『タイポグラフィ』でも情報発信中。