仏像を鑑賞したり、寺社巡りをしたりする人が増えている。 混迷する現代に、日本の文化、日本の心に触れることで拠り所としようとしているのかもしれない。そうした中で御朱印集めが静かなブームになっている。

御朱印とは、神社仏閣を訪れた際に参拝の印として頂けるもので、ただ単に印を押しただけではなく、寺社の神職や僧侶が寺社名や参拝日などを墨書きするものを含めて御朱印と呼ぶ。いわば神仏がアーティストなのが御朱印。その印と墨書きの美しさに御朱印を集めている人が増えているようだ。

有名な寺社の御朱印ばかり。左から京都嵐山の鈴虫寺。奈良の春日大社、その末社の夫婦大国社、そして東大寺

会場のGallery TORiは渋谷氷川神社の表参道、鳥居脇にある

この御朱印集めを積極的に行なっている嶋啓祐氏を中心に20名のメンバーで構成される「御朱印の会」が、おそらくは日本初と思われる御朱印ばかりの展覧会『御朱印展~神々からの贈りもの』が渋谷氷川神社の参道脇にオープンしたGallery TORiにおいて開催されている。会期は9月27日まで。

御朱印の会を主宰する嶋啓祐氏は都内でフレンチレストランなどを経営する実業家だ。御朱印との出会いは2008年と実は最近。それでもすでに120位を頂いているという

とても真面目な畏まった展覧会というイメージが先に立つが、まったくそんな感じはない。会長の嶋氏は御朱印集めを説明する際に"大人の真面目なスタンプラリー"と呼んでいるとか。「軽々しい言い方かもしれませんが、まったく知らない方にはもっとも伝わりやすいんです」と嶋氏は語る。

日本全国から集められた御朱印をおさめた色とりどりの御朱印帳と、とりわけ特徴的な御朱印を複製し額装したものなどで構成されている。小さなギャラリーでの展示ではあるが、ギャラリーに詰めている会員からそれぞれの御朱印にまつわるエピソードを聞けば、ギャラリーが御朱印の小宇宙となって、何倍も楽しめる。会員の中には150位の御朱印を集めた方もいて、1日で5、6社を回る強者もいるとか。

猫にまつわる逸話が多く、招き猫の発祥とされる浅草の今戸神社の御朱印帳

陰陽師・安倍晴明を祀る京都の声明神社の御朱印帳。陰陽道で魔除けの呪符とされる五芒星があしらわれている

嶋氏をはじめ、会員のみなさんにいくつか御朱印にまつわるエピソードをお話いただいた。「長崎県壱岐の月讀神社は字のごとく月の神、月読尊(つきよみのみこと)です。ここには普段は神職の方がいらっしゃらないところなんだそうですが、私が行った際にたまたまいらして、御朱印をいただくことができました」(嶋氏)。

「沖縄県那覇市にある波上宮(なみのうえぐう)はもともとは神社ではなく、ニライカナイ信仰が元になっているようで、古くは御嶽(うたき)だったらしいのです」(小澤氏)。

「東京都府中市にある武蔵国の総社の大国魂神社(おおくにたまじんじゃ)は5月のくらやみ祭りという、暗闇の中で行なわれる例大祭が知られています」(嶋氏)。

左から壱岐の月讀神社、沖縄の波上宮、府中の大国魂神社

御朱印の会の主要メンバー。右から理事長の土屋雅之氏、ギャラリーのオーナーで会員の小澤みゆき氏、神職の資格を持つと言う会員の五十嵐健氏

こうしたエピソードは実際に旅して神社仏閣を訪れ、参拝する中で神職や僧侶とのやり取りの中で聞いた話が多く、御朱印をいただく事が単なる御朱印集めではなく、神仏と向き合う事で得るものも多いようだ。

見やすいように御朱印帳を広げて展示している。ちょっとこんなやり方で展示していいのか、若干心配に………

4色の紋が印象的な新橋の烏森神社。こういうカラフルな御朱印もあるのだ

伊勢神宮の御朱印。左が外宮、右が内宮のもの。考えてみれば江戸の世には伊勢参りは庶民にとって最大のレジャーだったわけで、御朱印集めももっと気軽に考えていいのかもしれない

嶋氏がはじめて御朱印と出会ったのがこの千葉の検見川神社。「川がないのに検見川というのは、素戔嗚尊(すさのおのみこと)と他に2柱の神のあわせて3柱を祀ると言う事で「川」になったそうです」(嶋氏)