──ブログを続けていく中で、開設最初の頃とは変わってきたことはありますか?

阿比留氏 それはあります。最初は閲覧数が少なかったし、読者層も産経新聞の読者や論調に肯定的な人が読んでいた感じです。基本的にはほのぼのとした、サロン的な空間でしたね。ですが、閲覧数が増えてくるにつれて、直接コメント欄に意見を書き込むことはなくても、私のエントリーについて他のブログ上で批判する人も出てくるわけです。これもまた「気にしないように」と思ってはいるのですが、昔ほど気楽には書けなくなった部分はあります。(批判を気にしてしまって)こちらの手が縮こまると言いますか。

──確かに閲覧数も相当(約14,000PV/日)あります。コメントも多い。阿比留さん自身もかなりコメントを返していますが、大変な労力でしょう?

阿比留氏 (ブログを続けていくことが)苦しいときもあります。悪意のあるコメントや、裏読みしすぎた一方的な決めつけ、なにを言っても理解してもらえなかったり、嘲りだけを浴びせられたり。「会社からも読者からもお金貰っているわけではないのにどうして?」と思うこともありますよ。ブログを書くことに対してはなんのインセンティブもないんですよ。ですから正直、(ブログを)やめたいくらいの気持ちになったこともありましたが、それでも日々取材をしていると書きたいことも出てくるし、逆に読者が励ましてくれたり、よく理解してくれるコメントもあるわけなので。

──ブログのタイトルは「国を憂い、われとわが身を甘やかすの記」ですが、タイトルに掲げたほどには自分を甘やかしているわけではないぞ、と?

阿比留氏 あのタイトルは逃げを打っているんですけどね(笑)。始める前はブログ自体を知らない人間でした。当時、ブログってなんだ? と思って「新聞記者 ブログ」で検索するわけですけど、そうすると「炎上」という結果が出てきたんですよ。ブログってそんな恐ろしい世界なのか……って。そこで最初から「このブログは、きっちりしたものじゃないですよ」「書いているのは、いい加減な人間ですよ」ということをタイトルで表に出して、逃げを打っていたんです。それでも当然、許されないようなことは許されないんですが(苦笑)。

──阿比留さんのブログでの論調は保守ですが、そうはっきりさせているのは批判の対象になりやすいでしょう?

阿比留氏 ブログを始めたときに周囲の人から「政治系のネタをやると批判がくるから、身辺雑記にとどめておけば」とアドバイスを受けました。でも、中年男の身辺雑記なんてねえ、意味がないですし(笑)。記者ブログが新しい試みなのは間違いないので、気持ちのうえで自分が実験台になろうと思ったんです。とにかく私がどういうスタンスで、どういう考え方で、どういう思想傾向があるか、というのは赤裸々に出そうと考えていました。私は政治部所属なので主な取材対象は政治家になるわけですが、好きな政治家、嫌いな政治家もはっきりとブログに書いて隠すまい、と。それは一人の新聞記者としてはマイナスが多いですけどね。

──新聞記者としてはマイナス面もあるにも関わらず、ブログを書くわけですか?

阿比留氏 新聞記者は匿名性に隠れて、自分の主義主張を取材相手に伝えず、相手に合わせて情報を聞き出すほうが楽だったり、有利だったりすることは多々あると思います。また、それを良しとする傾向もある。公正中立という立場ですね。現実には(公正中立なんて)あるわけがないのに。あるわけがない建前を表向きは維持しなければいけない。そういう建前論が面倒くさくなったんですよね(笑)。

──マスコミは"マスゴミ"と呼ばれたり、そうした公平性が今のジャーナリズムでは揺らいでいるとネットでは盛んに言われています。

阿比留氏 言われていますね。ただ、私が思うんですけど、現在よりも昔のマスコミのほうが偏向していたんですよ。国民の多くが気付いていなかっただけで、昔はもっと"左寄り"でしたし、もっともっと偏向していた。

──ネットで内容を読み比べたり、チェックできるようになったから顕在化したということですか?

阿比留氏 それで国民が気が付いて怒っている。怒りは正当で当然なのですが、ずっとマスコミ内部で左寄りの人に囲まれながら細々と、辛い悔しい思いをしながらやってきた私としては「これでも(マスコミは)マシになったんだよ」と時には言いたくなりますね。マシになったからこれでいいのか、というと違いますが。

──新聞業界全体が左寄りなのですか?

阿比留氏 それはもう間違いなく。たとえば私の新人時代の話ですが、イベントやなんかの大会の取材に行くと、国歌斉唱がありますよね。その時に、立つのは私だけでした。立って歌っている私を見て、記者の仲間が指さして笑っていましたよ。それなのに反権力、反国家を気取るほどの信念もない。マスコミはそういうものだという思い込みというか、ポーズを取っている人がほとんど。

──しかし、ネットからマスゴミと批判されるようになって、変わっていくのではないでしょうか?

阿比留氏 まだ弱いですけどね。これは私の見解ですが、ネット空間の世論調査とリアルの世論調査は近づくのは、残念ながらまだまだ先の話でしょう。賞をもらっておいてなんですけど、総投票数が四千いくらというのは少ないと思うんですよね。ケチをつける気はないですが、やっぱりもっと桁が違ってこないと。