西武池袋線の旅は楽しい。西武池袋駅はドーム型の屋根の下に頭端式ホームを並べており、ヨーロッパのターミナル駅のようだ。ここから準急や急行に乗ると、電車はJRの線路をまたぎ、練馬からは広々とした複々線区間をかっ飛ばす。新宿線と合流する所沢駅の構内は、旧国鉄の幹線の駅のような歴史と威厳を感じる。さらに先へ進むと、スイッチバックスタイルの飯能駅があり、単線のローカル線となって秩父へ……と続くけれど、今日は所沢のふたつ先の小手指で降りる。目指すは西武鉄道最大の規模を誇る小手指車両基地だ。今日は「Valentine 小手指車両基地Day」という一般公開日である。
開門の20分前に到着したというのに、早くも長い行列ができていた。私が並んだ位置は小手指陸橋の少し先で、門までの距離は約400m。一番乗りしたければもっと早く来たほうがいいらしい。とはいえ、10時を過ぎると入場はスムーズに進行し、10分も待たずに門に到着した。女性職員からチョコレートをいただいて良い気分。「2月11日だから『建国記念 小手指車両基地の日』じゃないの? 」とも若干思ったけど、チョコレートをもらえたほうがいいからバレンタインで正解だ、きっと。
まずは「イベントコース」へ
場内に入ると、ふたつのルートに別れる。ひとつは直進してグッズ販売コーナー、イベントステージ、こども制服撮影会、飲食コーナー経由で運転台見学・撮影会へ、というルート。もうひとつは左折して列車非常通報装置体験、電車の床下見学コーナーを経由して運転台見学・撮影会へというルートだ。まずは前者、名づけて「イベントルート」を巡ろう。
イベントステージでは、「鉄道アイドル」(略して"鉄ドル")こと木村裕子さんのトークショーが行われた。木村さんはトレードマークの赤い制服で登場。「今日は池袋からレッドアローで来ましたっ。駅員さんに急行でも時間は一緒って言われたけど、やっぱり乗りたいよね」と鉄道好きをアピール。鉄道ファンは駅で列車の発車までの時間をどう過ごすか、などの楽しいトークを展開。後半は西武鉄道の職員さんとも濃いトークを繰り広げた。
その隣では、レッドアロー10000系を背にしたこども制服撮影会が大人気。西武鉄道は昨年、制服を一新したそうだ。そのときに、なんと撮影会イベント用に数種類のこどもサイズを作ったとのこと。敬礼してみせるこどもたちの誇らしげな表情がカワイイ。お父さんとこどもが並んで撮る時は「パパは私の制服をどうぞ」と職員さんが自分の制服を脱いでパパに貸してあげていた。これは鉄道ファンのパパも嬉しそう。なにしろそれ、「本物」ですから。
ピット(点検場)を出て先に進むと、高級マンションの入り口のようなモダンな建物がある。実はこれ、車輪の転削場だという。さらに進むと電気機関車E31形が3台並んでいた。これは4軸の小型直流電気機関車で、かつて西武鉄道が貨物輸送を行っていた時に活躍したとのこと。現在は電車の回送や保線車両を引いているそうだ。坂道を上って屋根周りまで撮影している熱心な少年に聞いたところ、今年度で廃止になるという噂があるという。「1台は保存されるかもしれないけれど、今日のような三重連は見納めだと思います」なるほど。それでは私もパチリ。
続いて見える電車は、ボックス型クロスシートの4000系、保線用車両。その隣に行列。この行列は運転台体験を待つ人々だ。運転台見学は実際の電車の運転台に座って記念撮影をしたり、レバー類を操作させてくれる。ライトをつけたり、警笛を鳴らしたり、ブレーキ弁を操作してプシューッとエア抜けの音を出してみたり。これは小さなお友達も大きなお友達も楽しそう。30000系「スマイルトレイン」の機器類はすべて液晶モニターになっていて、最新航空機さながらの「グラスコックピット」だった。その情報画面のタッチパネルも触っていいらしい。なお、運転台滞在時間は2分ほど。電車は30000系と101系の2本が用意されていたけれど、数千人の来場者のなかで運転台体験ができる人は数百人程度。運転台に座りたい人は、他のイベントに寄り道しないで、まずここに並んだほうがいい。