プレミアム料金だけで回るなら、それは料金が高すぎる
――基本的には、何らかのサービスを追加することにからめて、収益を発生させていこうという戦略なのでしょうか。
夏野 あんまり強く結びつけると「金儲けのためにこういうサービスを入れたのか」みたいになってしまい、今のニコ動のユーザーさんからするとイヤな感じがしますよね。ユーザー生放送で、誰でも見られるけどアップするのはプレミアム会員だけというように、「お金がかかってもまぁしょうがないな」と納得してもらえるところに、無理のない範囲で課金をさせていただく。何でもかんでも追加サービスでお金を取っていくということにするつもりはないです。
ひろゆき iモードのときって、そのへんのバランス考えてました?
夏野 超考えてた。最初の1,000コンテンツくらいまでは全部僕も見てた。最初から月額300円よりも高くしたいというコンテンツプロバイダさんもあったけど、それはダメと。いくら権利代と言ったって、当時のそんな小さな画面で500円とか1,000円とかじゃユーザーは納得しない。だから2ちゃんねるで「夏野が全部牛耳ってやがる。あいつはベンチャーの敵だ」とか書かれたけど(笑)。
――プレミアム会員からの収入も増えていると思いますが、プレミアム会員が極端に――例えば全会員の30%とか50%とかがプレミアムというところまで――増えなくても、黒字化は可能ですか。
夏野 今1,000万の会員のうち2%くらいがプレミアム会員ですけど、これを5%くらいに……5%来ればいいなぁ、5%だと月に2億5,000万円ですか。あと広告も入りますから、プレミアム率5%だったら間違いなく黒字ですよ。いや、経営目標として5%を目指しているとかそういうわけではないんですけどね。
プレミアム会員の料金収入と、もうひとつは広告収入。これが車の両輪です。広告収入がないと、プレミアム会員以外のユーザーの方にサービスする原資がなくなってしまうので、バランスが重要です。プレミアムの料金だけですべてのサービスを運営するなんてことはやってはいけないと思ってます。できたとしたら、それは料金が高すぎるということですから。
米大統領選で政治家も注目、動画は本当の姿が伝わる
――著作権などの問題をはらみ、「危ない」サービスの代表格として見られることも多かったニコニコ動画ですが、今では携帯電話会社の公式サイトになったり、政治家が自ら動画を配信するような場になっています。この変わりようというのは、夏野さんが仕掛けた結果なのでしょうか。
夏野 今回チャンネルを開設するにあたって、たくさんのコンテンツ権利者の方々に賛同していただきました。環境が変わってきたというのもありますし、その変わった環境の上で仕掛けていったのは我々ということになります。ですから状況の変化と、戦略的にやっているということの両方だと思います。
ひろゆき 政治に関しては運が良かったというのもあって、アメリカでYouTubeが大統領選挙に使われてうんぬんという動きがあって。
夏野 オバマさんが思いっきりネットを使いこなしているのは、日本の政治家の方々も意識してましたね。そういう意味で2008年は、社会の中でこういうプラットフォームの位置づけが一段上がった年でした。
――YouTubeでも日本の政党の公式動画が掲載されていますが、それに加えてニコニコ動画も配信手段として選ばれている理由は何でしょう。
夏野 ひとつの理由は、当然ですがコメントがあるので、ユーザーとのインタラクティビティが高いということでしょう。もうひとつの理由は若者。10代~30代前半くらいの年齢層に対してニコニコ動画の影響力は大きいですが、今までは政治家の方がその層にアクセスする手段があまりなかったんじゃないでしょうか。最近は若い人はテレビもそんなに見ないですし。
ひろゆき YouTubeだとあんまり反応も返ってこないですからね。
夏野 テレビに出るとか新聞に載るとかは、あくまでもその人のひとつの断面を出しているに過ぎないんですけど、インターネットでは「直接会ったらこんな人なんだろうな」という面が出てしまう。特に動画って素顔が見えるんですよね。その人の雰囲気とか性格とかがわかる。本人と会うというのと同じなんですよ。政治家の方って、そもそもは握手しまくって、本人がいかにたくさんの有権者と会うかで勝負してたところのある人たちなので、みなさん動画には魅力を感じてるんですよ。