7月に入り、最高気温が30℃以上の「真夏日」のみならず35℃を超す「猛暑日」が記録されている。仕事の後の1杯、休日のバーベキューのお供に……頭からビールが離れない日々をお過ごしのことだろう。それならば、ビール工場まで行ってみるのもお勧めだ。筆者も「ビール党」としてキリンビール神戸工場「キリンビアパーク神戸」(兵庫県神戸市北区)へ行ってきた。ビールが出来るまでを見学した後で試飲するビールの格別の美味しさ、さらに自宅でのビールの楽しみ方をレポートする。

数あるメーカーのビール工場の中でも、こちらを選んだのは送迎バスが「キリンラガー」の缶型だから-。そのユニークさに誘われ、大阪方面からJR福知山線に乗り、JR三田駅へ(もしくは神戸電鉄三田駅)。目の前を市営バスが通り過ぎて行く中、駅前で待っていると……「きたー!」。明らかに普通のバスとは一線を画す、缶ビールが横たわるような姿に、プルトップまで再現されていて期待通りだ。街で見かけた日には一日中、ビールのことで頭がいっぱいになってしまいそう。バスは三田市のニュータウンを横目に花がきれいな沿道を進んでいく。突然現れた工場には、今までのビールを改めて好きになるドラマティックな世界が待っていた。

最寄駅とキリンビアパーク神戸の間は、キリンラガー缶型の送迎バスがおすすめ。後部には缶ぶたのプルトップまで再現されていて、ユニークさが堪らない

キリンビアパーク神戸は、1997年5月竣工、敷地面積は甲子園球場の6倍とも言われる約24万7,000㎡。キリンビールには全国で12カ所のビール工場があり、横浜に次ぎ規模が大きい。昨年はリニューアルをして事前予約制となり来館者は年間15万人だったが、それまでは30万人、今年も20万人を見込むほどの人気だ。やはり夏は来館者が多いという。

敷地面積は甲子園球場の6倍とも言われる約24万7,000㎡。敷地内にはビオトープもあり、12万5,000本以上の木々など四季折々の自然に囲まれている

入り口からエスカレーターを上がると、自然光の下で黄金色に光る「糖化釜」が目に入ってくる。旧尼崎工場で1961年~1996年の35年間、ビールのもととなる麦汁を作るために働いていた輝きは現役

年間8億6,000万本の350ml缶?ビール党でも飲みきれない量にびっくり

第一印象は「テーマパークみたい」。自然光が注ぎ明るくきれいな工場で、ビール工場とはいえ、20歳未満お断りではなく子供も楽しめるように分かりやすく構成されている。工場内に入ると旧尼崎工場で1961年から35年間、ビールのもととなる麦汁を作るために働いていた「糖化釜」が真っ先に目に入る。黄金に輝く姿が美しい。そして勝るとも劣らない素敵な笑顔でツアーガイドの女性が出迎えてくれた。

早速、「ブルーワリーツアー(工場見学)」へ出発だ。ツアーガイドの女性がまず、見学ゾーン中央の吹き抜けにある大きな空撮パネルを指し、工場の概要を説明してくれる。「年間30万klを製造しています。350ml缶でいうと8億6,000万本です」。ビール党の筆者でも一生をいくら掛けても飲めない量だ。

ブルワリーツアー(工場見学)は、見学ゾーン中央の吹き抜けにある大きな空撮パネルを使っての工場の概要説明からスタート。ツアーガイドの女性が案内してくれる

続いて「原料展示コーナー」に案内される。ここでは、ビール・発泡酒に使われている二条大麦や、ビールの苦味や香りのもととなる「ホップ」など実際に手に取ることができ、間近に香りを感じられる。なお「大麦」「ホップ」「水」という主原料のほか、すっきり感を与える「コーンスターチ」やコクとまろやかさを生む「米」などの副産物でビールの味に違いを与えているとのこと。ビールの美味しさはここで生まれているという実感が沸いてくる。

「原料展示コーナー」では実際にビール・発泡酒に使われている大麦やホップを手にとって見ることができる

ビールの苦味や香りのもととなるホップを2つに割ってみると、"ビール欲"をそそるいい香りが鼻を覆う

そしてビールができるまでを映像で鑑賞する「キリンビールシアター」が待っている。製造工程は企業秘密でもあり直接見学することはできないため、ここで一連の製造工程を学ぶのだという。

実際の製造工程は"企業秘密"。麦芽や酵母など小さな生き物たちが熟成されて、立派なビールになっていくドラマティックな製造工程は「キリンビールシアター」で映像として見ることができる。映像終了後もスクリーンから目が離せないサプライズが?!

ビールは"生き物"--人間のように少しずつ味わい深く

ビールが出来るまでには、(1)製麦(2)仕込み(3)発酵(4)貯蔵(5)ろ過という工程がある。大麦を発芽させてビールの原料「麦芽」を作り、仕込み釜に麦芽とお湯を入れ煮込んで出来た甘い「もろみ」をろ過すると「麦汁」となる。次に麦汁にホップを加えても、まだ麦のジュースでしかない。さらに約600種のビール酵母の中から選んだ酵母を加えるとアルコールと炭酸ガスが生成され、1週間で「若ビール」が誕生する。その後、発酵・貯蔵タンクの中で1カ月~2カ月じっくりと寝かせられるうちに、次第に琥珀色になっていく。最後に酵母やにごりを取り除くと、ビールが完成する。なお、仕込みの際にろ過されて一番最初に出てくる「一番搾り麦汁」のみを使用したのがキリンビールで有名な「キリン一番搾り生ビール」だという。未熟な若ビールが、澄んだ立派な琥珀色のビールになっていく様子には感動すら覚えた。

またご存知の人も多いだろうが、ビールは酵母など目に見えないところで活発に生きているそうだ。「ビールは生き物」であることは、今まで筆者の頭の中に無かった。映像で見る工程の経過の中で、少しずつ味わい深くなり、成長していく姿は人間と重なった。

日本で産業としてビール醸造が発展したのにも歴史がある。鎖国をしていた江戸時代の1853年頃、現在の兵庫県三田市内である三田藩出身の蘭学者・川本幸民が日本人で初めてビールの醸造を開始。同神戸工場のすぐ近くで生まれた人物が、化学実験としてビール醸造を試みたことが日本のビールのさきがけとなったという縁も興味深い。

タンク1本飲み干すのに毎日1缶飲んでも3500年!一生かけても無理!

ビールの製造工程や歴史のドラマティックさにどっぷり浸かった後は、「発酵・貯蔵タンクコーナー」へ。先程映像で見たように高さ18.2m、直径8m、容量480klの発酵・貯蔵タンクの中に入り、自分もビールになったかのような体験を視覚的にできる。「タンク1本で350ml缶にすると130万本分。1人毎日1缶飲んでも3500年かかります。そんなタンクがここには86本あります」。またツアーガイドの女性の説明に驚かされた。

「発酵・貯蔵タンクコーナー」では高さ18.2m、直径8m、容量480klのタンクの中に入って、美味しいビールになっていく気分を体験できる?!

稼動休止の時にしか見られない特別映像も

ビールのドラマはまだ終わらない。「パッケージングエリア」では実際に1分間で2,000本の缶にビールを詰める缶詰めなど世界最高速レベルの機器を備えた製造ラインを目の当たりにすることができる。この日は残念ながら製造ラインが稼動していなかったため、モニターで見学となったが、「休止の際に流す映像でしか見られない工程があるんですよ」とツアーガイドの女性の嬉しい一言。映像で見ても缶詰めから、「キリン おさけ」と点字された缶ぶたの巻き締め、缶底への製造日などの印字検査、出荷まで、一連の流れは目にも止まらぬ速さだ。商品の顔であるラベルシールが瓶に貼られ、観覧車のような緑色の機械に乗ってケースに収まっていく様子は実際に見てみたかった。

1分間に2000本もの缶詰ができる、世界最高速レベルの機器を備えた製造ライン

製造ラインが休止している場合は、エスカレーターで運ばれる缶の行列や無人の搬送車が一生懸命に働く様子は映像で間近に見ることができる

製造工程以外にも、軽量リターナルビンなど環境への取り組みも初めて聞いた。ビールの大瓶は1993年に北海道から605gを475gにする130gの軽量化をスタートし、2003年には全て完了。資源が節約され軽くなることで輸送台数も減り、エネルギーの節約、CO2排出の抑制にもつながった。ビールを造る際の副産物や廃棄物の再資源化率も100%を達成しているという。

2003年には全てキリンビールの大瓶は、605gを475gにする130gの軽量化。資源が節約できる上に、輸送台数も減りエネルギーの節約、CO2排出の抑制にもつながった。従来の瓶と持ち比べてみると明らか!

ビールの歴史やキリンビールのラベルの変遷などが分かるコーナーも

お馴染みの麒麟のマークには、「キ」「リ」「ン」の文字がそれぞれ隠れているという。飲み会の席での話題に最適?!

いよいよ試飲!自宅でのビールの楽しみ方もいただき!

知識で満たされても、ビールは別腹。お待ちかねの試飲ではキリンラガービールとキリン一番搾り生ビールのほか、来館した日によるがこの日は、生きた酵母とともにろ過前の味わいと香りを封じ込めた最高級プレミアム「ザ・プレミアム無濾過」の中から選ぶことができた。運転手や未成年、妊婦などにはキリンビバレッジの清涼飲料が用意されており安心だ。チケットを手渡すと、工場ができた当初からの注ぎ手が、目の前でグラスにビールを満たしてくれる。試飲コーナーは一面がガラスで、窓の向こうには緑豊かなビオトープも眺めることができる。ビールを飲みながら心地良い気分に浸った。

(写真上)工場ができた当初から活躍している注ぎ手にビールを注いでもらうのも貴重な体験

(写真左)生ビール1杯とおつまみを試飲コーナーで堪能できる。「おかわり券」もある。運転手や未成年、妊婦、授乳中の女性などのためにキリンビバレッジの清涼飲料も用意されているので安心

自宅でもできるビールの楽しみ方も伝授してもらった。その名もプロの技である「三度注ぎ」。1度目はグラスを立てて高さ20~30cmところからビールを勢いよく注ぐ。泡が1対1の割合になるまで5分ほど待ち、2度目はグラスの中心目掛けて注ぎ、泡が理想的な7対3か8対2の割合になるようにまた待つ。最後の3度目には、泡が縁から1.5cmほど盛り上がるように静かに注ぎ足す。特に女性が好みそうなクリーミーなビールが完成だ。

伝授してもらった「三度注ぎ」。1度目は20~30cmの高さから勢いよく注ぎ込む。泡が1対1の割合に落ち着くまで、早く飲みたい気持ちを抑えて待つ

2度目は、グラスの真ん中を狙って注ぎ、今度は7対3や8対2の理想的な泡の割合になるまで待つ

最後の3度目は泡が1.5cmほど盛り上がるように静かに注ぎ足していく。グラスを斜めにしても動かないきめ細やかなクリーミーな泡が出来上がる

「きれいなグラスに注ぐとより良いので、ほこりがつくのを避けて拭かずに自然乾燥するのがお勧め」(ツアーガイドの女性)だ。きりっとした清涼感が味わいたいなら普通に飲むので十分だが、グラスを冷やすだけでも泡立ちが良くなり一層おいしくなという。夏は6~8℃、冬は10~12℃という飲み頃の温度も覚えておきたい。「ショッピングコーナー」には、一般には工場でしか手に入らないキリンビールオリジナルのグラスや陶器も販売していたが、飲む場所の雰囲気や気分に合わせて器を変えるのも通だろう。ビールのルーツを探ったおかげで、今年の夏は特にビールが美味しくなりそうだ。

ビールをカクテルとして楽しむお勧めの方法

カクテル 作り方
パナシェ キリンラガーにキリンレモンを2、3割注ぐだけ。ビールが苦手でも甘みが加わって、夏にさわやかさを与えてくれるだろう。
クラッシュビア グレープフルーツジュースを凍らせて砕いた上に、すっきり感が特徴の一番搾りを注ぐ
レッドアイ キリンラガービールとトマトジュースを1対1で割って、ヘルシーに

お土産を購入できる「ショッピングコーナー」には、今では一般には工場でしか買えないキリンビールオリジナルのグラスや陶器がずらりと並ぶ。気分によって器を変えてビールを楽しみたい

ビール酵母を使ったお菓子や乾燥そばなどもある。一番搾り生ビールを使用したゼリーチョコレートも大人気

(写真上)ビール缶型のバスに乗った注ぎは、缶型のストラップがほしくなった?!

(写真左)正面入り口横で存在感を放つ「出逢い麒麟」。キリンビールのシンボルである麒麟は、慶事の前に現れる縁起の良い聖獣だという。石碑に刻まれている言葉は「皆様がこの地でたくさんの幸せに出逢えるように見守り続けます」

キリンビアパーク神戸

受付時間 9:30~15:40
ツアー出発時間 毎時00分、10分、30分、40分、14:30はビオトープ見学(3~11月)、さらに6~8月の土日祝は14:30のほか11:00がビオトープ見学
予約方法 要事前予約で、電話にて予約すると良い
休日 毎週月曜(祝日の場合は開館)と年末年始
所要時間 60分(見学40分と試飲20分)