先日、開催情報をお伝えした環境フェスティバル「アースデイ東京2008」。メインテーマのひとつである「農」の舞台「EARTH DAY AGRI ACTIONエリア」では、関東近郊から集まった"こだわり派"の農家さんや農業系NGOが自慢の作物や商品を並べ、個性豊かな野菜や穀物が会場となるけやき並木を彩った。彼らの、「有機」や「手間ひまかけて」といった常套句では表現しきれない工夫や取り組みの数々を紹介する。
今回紹介するのは、14種類の雑穀と大豆を生産する群馬県藤岡市の浦部農園。雑穀と一口に言っても多くの種類がある中、同農園では、赤米2種類、黒米2種類、緑米1種類、低アミロース米2種類、コシヒカリ、ササニシキ、アワ、キビ、ヒエ、ハトムギ、大麦を、すべて無農薬有機農法※で生産している。うち赤米、黒米、緑米は古代米と呼ばれるもので、稲の原種である野生稲の特徴を受け継いでいる品種。元は荒地で自生していたことを考えると、生命力が強く育てやすそうな印象を受ける。ところが、干ばつ・冷水に強いかわりに背丈が高くなるため倒れやすい上、1本の稲から取れる収穫量は品種改良された”現代米”に比べて半分以下という稀少な米なのだ。
顧客との取引は、一部をポラン広場という有機農産物の流通ネットワークに提供している以外、ほとんどがWebサイトや電話を通した直販。通常の流通には乗せていないため、スーパーマーケットなどで目にすることはないにもかかわらず、毎年約1,000人が新たにファンとなって農園を支えているという。人気の秘密を探るべく、代表の浦部真弓さんに、栽培方法や有機農業にかける想いなどについて話を聞いた。
無農薬有機農法とは?
除草剤、殺虫剤などの農薬や、化学物質由来の肥料を使わずに農作物を育てる方法のこと。現在、有機JAS(日本農林)規格を満たした作物のみが、「有機」「オーガニック」として販売されている。同規格では生産基準として、「堆肥等による土作りを行い、播種・植付け前2年以上及び栽培中に(多年生作物の場合は収穫前3年以上)、原則として化学的肥料及び農薬は使用しないこと」「遺伝子組換え種苗は使用しないこと」のほか、「輸送」「選別」「洗浄」「貯蔵」「包装」などの収穫以後の工程に係る管理についても定められている。取得するには、生産・製造過程の記録や登録認定機関による検査と認証が必要で、年に1回の検査費用は農家が負担する。認証取得の手続きは、浦部さんによれば「元事務方の私がプロ意識をもって取り組んでも大変です。つまりは1人分の人件費が認証を得る事務作業に消えてしまうということ」というほど煩雑で、それを理由に取得していない有機農家も多いという。
おいしく食べているうちに、手放せなくなる
7,500人の顧客を抱える、浦部農園の人気の理由について、真弓さんは「おいしいと思って食べている内に、体調が整ってきて手放せなくなる、という方が多いです。そして、『炊いて食べるだけ』という手軽さと、家計の負担にならない価格も続けていただける理由のひとつかも」と語る。化学物質過敏症やアトピーを克服するための食事や、美容・健康食材として求められる商品としても人気が高いといい、そういったニーズに応えるためにも、同農園では、古代米のうち、一般的な改良品種に比べて原種の特長をよく残したものを栽培している。
品種選びは、生産者としての信念の表れだ。「7年ほど前から多様な品種が盛んに生産されるようになり、赤米・黒米もたくさんの改良品種が出回っています。改良品種は、作りやすく、色もよく、収穫量も安定していますが、人の手が加わることで、大切なものを失っているような気がします。私たちは、種の多様性こそが食の安全や豊かさを約束するものだという思いがありますので、あえて、栽培が難しい原種に近い種を選択して栽培しています」(浦部さん)。
改良品種を避けるのは、浦部さん自身が化学物質過敏症を発症し、「改良が進んだ品種ほど、症状が出やすい」という経験があるからだ。「生きるために、自分たちでつくり始めた」という就農のきっかけとは……