デザイン会社「drawing and manual」は、デザインとリサイクルを融合した事業「D&DEPARTMENT PROJECT」、1960年代に生まれた日本の工業製品の原点商品を集めたブランド「60VISION」などを展開してきた。そして新たに立ち上げたのが「NIPPON VISION」だ。これは、昔からの工芸デザインを若手の作り手とともに若い世代に伝え、生活の中に取入れてもらおうと考えた企画。3月11日まで、D&DEPARTMENT PROJECT OSAKA(大阪市西区)で開かれている展覧会「NIPPON VISION」もその一環として実施されており、今後も定期的に開催するとしている。

美濃焼(岐阜県)の絵付けの実演と、発起人のナガオカケンメイさん(写真左)によるトークイベント。若い後継者である奥田将高さん(写真右)が同世代の若い来店者の前で、受け継いだ伝統工芸の素晴らしさをPRした

古くから受け継がれ、今も残る日本の伝統工芸品は本来、日常生活のために実用性を重視して作られたものだ。そうした日常生活に根付いた伝統工芸品の「売り場」を考えることで、伝統工芸品を次世代に受け継いでいく道筋が見えてくるという。

今回参加したのは、同展の関連イベントとして開かれた美濃焼(岐阜県)の絵付けの実演と、発起人のナガオカケンメイさんによるトークイベント。同展に際して「drawing and manual」社長で「NIPPON VISION」の発起人であるナガオカケンメイさんは「ジャパンブランドは、残念ながらブームとしての終焉を迎えつつあります」とDMに少し辛口なコメントを添えている。その背景には、「売り方のデザイン」がなされてこなかったことがある。「誰かが売ってくれるだろうではなく、売り場が売らないといけない。20代~30代の若いターゲットを意識することが重要だ」。47都道府県に1カ所づつ、「意志のある売り場」としてその土地に根を降ろし、リアルジャパンブランドを次の世代に伝えるスタイルとして店舗を展開していく有言実行のナガオカケンメイさんだからこそ、話に説得力がある。

美濃焼の絵付け実演

この日、数ある伝統工芸品の中で実演が行われたのは、日本の焼物の代表と言っても過言ではない「美濃焼」で有名な岐阜県土岐市に工場を置く「丸直(まるなお)製陶」の茶碗と小皿の絵付け。実演のため会場を訪れたのは、丸直製陶の6代目、奥田将高さん(39)さんと、銅版貼職人である将高さんの母、浩子さん(62)だ。関西圏をはじめ遠くは高知県や島根県などから足を運んだ20~30代の来店者が大勢集まる中、冒頭、ナガオカケンメイさんは、「同世代が伝統工芸を継いでいることは多いので、同世代の目線で見てみてください」とメッセージを送った。

丸直製陶(岐阜県)の茶碗。100年前からの絵柄とは思えない、心をくすぐられる可愛らしいデザイン

まず丸直製陶での工程について解説がなされた。石膏の型に粘土を入れて付着させ、コテを使って出来上がりの形状と重さに合わせて削るという。

石膏の型に粘土を付着させ、コテで形状を整える。工場には300~500個の型があり、数万個の注文に対して量産する

器の内側を削って形状と重さを整えるコテ。コテも擦り減ってくるので、時々削って調整しなくてはいけない

絵付けは、銅版に施された模様を版画の要領で印刷した和紙を、器の形状に合わせて切った型にし、石膏から外した器に刷毛を使って貼っていく。水を付け過ぎる絵柄がにじんでしまうし、湿り気が足りないと絵柄が浸透しないという微妙な作業だ。

版画の要領で和紙に銅版の模様を印刷する。それを器に合うように切り取って型を取る

絵柄が印刷された和紙を器へ貼り付けていく作業は、今では目を見張る器用さだが「嫁いで初めて教わった」という浩子さん

器へ貼り付けた和紙を剥がすと、きれいに絵柄がうつっている。この後、薬を塗って窯で焼かれて出来上がる