定期機能ナシのPASMOが爆発的に売れた背景
PASMO協議会は11日、3月18日からサービスを開始した「PASMO」の発売を制限することを発表。理由は「想定以上のペースで発売が進んでおり、カードの在庫が僅少となることが避けられない状況であるため」(PASMO協議会)だった。記名・無記名「PASMO」の発売を12日始発から8月まで制限し、オートチャージ用カードの申し込みも13日受け付け分をもって一時中止する(再開は9月の予定)。発行元のパスモは2007年度末までの1年間で500万枚の発行を目指してICカードを発注していた。なお、「Suica」を発行するJR東日本は「1日約1万枚のペースで売れているが、ICカードは3ヶ月先まで確保してあるので、問題なく供給できる予定」とのことだ。
2001年11月にサービスを開始した「Suica」は100万枚突破までに19日を要したが、「PASMO」はサービス開始4日で100万枚、23日目の4月9日に300万枚を突破した。しかし、このペースで販売が続いた場合、追加納品のある8月前に在庫がなくなる可能性が出てきたことから、8月までの「記名・無記名PASMOの発売制限」を決定するに至った。ちなみに、3月18日の「PASMO」スタート時に用意されていたのは400万枚で、残りの100万枚が7月までに納品される予定。現在はさらに300万枚を追加発注しており、納品は8月頃から始まるという。
このような事態に陥ったのは「定期券機能がつかないタイプが想像以上に売れた」(パスモ総務部)のが原因。4月9日までに売れた300万枚の内訳は、定期券機能がついたものが160万枚、ついていないものが140万枚だった。ユーザーにとっては記名「PASMO」しか利用できない私鉄系クレジット会社との連携によるオートチャージ機能使用によるポイント付加はもちろん、電子マネーの利用加盟店が増えたことなどから利便性のよさが大きな魅力だったが、記名・無記名「PASMO」は機能面で「Suica」とほとんど変わりないことから「これほど数字が伸びるとは予想していなかった」(前出・総務部)ため、今回の結果となった。
4月13日なのに、無記名「PASMO」が買える!?
しかし、である。驚くべきことに、発売が中止された4月13日。なんと定期機能のない「PASMO」を購入することができたのだ。場所は東京メトロ南北線白金高輪駅。この駅には2つの「PASMO」専用の自動券売機がある。ひとつは定期が買えるピンクのタイプ、もうひとつは定期機能のない「PASMO」を購入、チャージ、記名できるブルーのタイプだ。
そのうち、ブルーの自動販売機では「PASMO」の新規購入はできないよう、その部分がグレーアウトしていた。既に「PASMO」を持っている人のチャージと記名のみが作業可能だ。しかし、ピンクの券売機ではなぜか「PASMOの新規購入」ができてしまう。隣には張り紙があり「継続定期券発売機ご利用のお客様へ只今、PASMO加盟各事業者においては、PASMO定期券のみを発売させていただいておりますので、記名・無記名PASMOの購入はご遠慮ください。」と書いてあるが、これでは「ピンクの券売機なら、記名・無記名PASMOが買える」と書いてあるのと一緒だ。実際に「PASMOの新規購入」を選ぶと、以前と変わりなく無記名「PASMO」が買えてしまった。
この事実に対して東京メトロ広報部は「券売機のシステムの都合上、やむをえない措置」とした。継続定期の自動販売機を稼動させるためには、記名・無記名「PASMO」の購入操作も可能な状態を維持する必要があるため、「継続定期券を購入するお客様の利便性を考えて、運用を続けることになった」(東京メトロ広報部)のだという。
一方、パスモからは「8月までは定期機能のついたものだけを販売、という姿勢は、私鉄各社で足並みを揃えている。券売機の仕様は私鉄各社によるので、そこまで把握できない」というコメントが返ってきた。ちなみに、定期券の販売機の仕様は各社異なるが、他私鉄では12日始発以降、記名・無記名「PASMO」の購入はできないよう、対応している。
PASMOショックはオークションにも、打開策は"Suica購入"
「発売制限」のニュースが流れた13日現在、ネットオークションで無記名PASMOの入札額が異常に高騰している。ざっと見ても、取引額は本来の価格の3倍以上。オイルショックの時代に「トイレットペーパーがなくなる」との風評に惑わされ、買い漁る人々が続出したのと同じ現象だろう。
しかし、忘れないで欲しい。記名式・無記名式PASMOを利用したいユーザーは交通、電子マネーなど機能のほとんどをSuicaで代用できる。唯一、インターネットを利用した履歴検索だけが記名式PASMOにできて記名式「MySuica」ではできないことだが、「モバイルSuica」ならそれも可能だ。私鉄しか乗らないユーザーでも、正規の価格で「Suica」を買えば用が足りるのだ。
東急電鉄系の警備会社・東急セキュリティ株式会社は「PASMO」を利用した児童見守りサービス「キッズセキュリティ」(児童関連施設に設置されたカードリーダに「PASMO」をタッチさせると、保護者の携帯電話や施設管理者に通過情報が配信される)をスタートしたが、その東急セキュリティでさえ「このサービスはシステム導入まで設備投資と時間がかかるので、今回のPASMO発売制限での支障はない」としている。今回の措置は、あくまでも定期機能つきPASMO販売のために、余裕をもって実施に至ったのであり、現在も私鉄各社は一定数の在庫を確保している。5月以降は定期券の新規販売も減るだろう。パニックを起こして高騰したPASMOに手を出す必要はないのだ。
PASMOとSuicaの主な違い
機能 | Suica | PASMO |
---|---|---|
電子マネー | ○ | ○ |
JR東日本グリーン車サービス | ○ | ○ |
ICOCAエリア相互利用 | ○ | × |