VLSIシンポジウム 2024における回路部門(以前のVLSI Circuits Symposium)には、例年は300件ほどの応募であるが、今回は異例ともいえる542件もの応募があった。採択件数は138件で、採択率は25%と例年の3割台よりもさらに狭き門となった。

主に中国および韓国からの応募が急増したためで、中国からは最多の135件の応募があり、そのうち26件(昨年は10件)が採択された(採択率は19%)。中国の採択率は、例年、平均を下まわっているものの、数も力なりで毎年、論文の質は向上し続けているという。日本からの応募件数は22件、採択は7件となっており、応募件数は日本の6倍、採択件数は4倍ほどというのは脅威と言っていいだろう。

中国に次いで応募件数が多かったのは韓国で117件、そのうち30件が採択され、採択率は26%となっている。以降、米国が106件の応募で32件の採択(採択率30%)、欧州が65件の応募で22件の採択(採択率34%)、台湾が49件の応募で16件の採択(採択率33%)、日本が22件の応募で7件の採択(採択率32%)、シンガポールが23件の応募で9件の採択(採択率39%)と続いている。ちなみに、VLSIシンポジウム委員会では、香港・マカオを中国とは別の地域として集計しており、こちらは13件の応募で2件が採択されている。

最多13件が採択された韓国KAIST

500件を超す応募のうち、82%が大学からとなり、産業界(独立研究組織含む)からの比率は18%ほどにとどまった。10年前には30%を超えていたが、年々比率が減少し、今回ついに初めて20%を切ることとなった。新しい半導体回路の発表は大学からという流れが世界的に定着しつつあるようだ。

発表機関別の採択件数は、韓国Korea Advanced Institute of Technology(KAIST)が13件で最多。以下、IntelとSamsung Electronicsがそれぞれ8件ずつ、台湾の国立陽明交通大学が7件、中国の清華大学が6件、スイスETH Zurich(チューリッヒ工科大)、imec、TSMCがそれぞれ5件ずつと続いている。

日本からの採択7件(実際には、集計後にLate Newsとして東京工業大学の1件が追加されたので8件)の内訳は、東京工業大学(東工大)から3件(すべて無線通信分野、Late Newsの1件含む)、東芝(パワーマネジメント分野)、キヤノン(センサ)、京都大学(センサ)、旭化成エレクトロニクス(デジタル回路)、TSMCジャパンデザインセンター(メモリ)が各1件ずつとなっている。

VLSIシンポジウム委員会では、今回採択された138件の論文の中から、各回路カテゴリ分野から各1件ずつ、合計11件の注目論文を事前公開している。その中に日本勢として東工大とキヤノンの発表も含まれていることもあるので、この2件の概要を以下に記す。

無線通信分野の注目論文

640Gb/sの無線通信速度を達成したDバンド(110-170GHz)帯4x4 MIMO CMOS無線機を東工大が発表

  • A 640-Gb/s 4×4-MIMO D-Band CMOS Transceiver Chipset(論文番号:C9-2)

5Gに続く通信規格である6Gにおいて、100GHz以上で動作する無線機の実現が期待されている。従来技術では、広帯域で高いSNRを確保することが難しく、通信速度を上げることができなかった。そこで東工大は、安価で大量生産が可能なCMOS集積回路を用いて、広帯域かつ高SNRな無線機を実現したことを報告する。

具体的には、6Gでの実用化が期待されるDバンド(110-170GHz)帯で動作するCMOS無線機を発表する。56GHzの信号帯域幅を有し、電波暗室での測定において、32QAM変調による200Gb/sでの通信に成功したという。また、16QAM変調による120Gb/sの通信では15mの通信距離を実現したという。これらの性能達成のために、8パス低Q電力合成による電力増幅器、2パス低Q電力合成による低雑音増幅器、広帯域インピーダンス変換ミキサ、コモンソース型のカスケード分布増幅器を提案し、広帯域かつ高SNRな特性を実現したとするほか、このDバンド無線機を送受信それぞれ4台用いたMIMO通信を行うことにより、640Gb/sの無線通信を実証したとしている。

  • MIMO通信の構成および無線機のブロック図

    MIMO通信の構成および無線機のブロック図 (出所:VLSIシンポジウム委員会。以下すべて同様)

センサ分野の注目論文

周囲隣接画素からの発火検出機構を備え複数用途センサの融合を実現する3次元積層型100万画素SPAD画素イメージセンサをキヤノンが発表

  • 3D-Stacked 1Megapixel Time-Gated SPAD Image Sensor with 2D Interactive Gating Network for Image Alignment-Free Sensor Fusion(論文番号:C6-1)

時間ゲート方式のSPADイメージセンサは2次元画像取得と3次元測距を両立できるが、高照度環境下での特性が課題だった。キヤノンは、5μm角、3次元積層裏面照射型、100万画素の時間ゲート方式のSPAD画素イメージセンサを開発したことを発表する。

このイメージセンサは各画素において周囲隣接画素からの発火情報を送受信する双方向ネットワーク構造を備え、画像アライメントが不要で複数用途センサの融合を実現したという。このSPADイメージセンサは1310fpsかつグローバルシャッターの2次元画像センサとして動作し、環境照度0.02lux下において0.76msの時間分解能を持つイベントベースビジョンセンサとしても動作する。また、ゲート箇所を調整することで、特定距離範囲の画像のみを撮像できることも示したとするほか、周囲隣接画素からの発火情報を用いる構造により背景光を抑制することで、50Kluxの高照度環境下においても3次元距離測定が可能だともしている。

  • センサのブロック図、クロックツリーの構成、画素制御のタイミング図

    (左)センサのブロック図、クロックツリーの構成、画素制御のタイミング図、(右)照度50Klux環境下で測定した3次元測距マップ(従来方式と提案方式)