その道を極めた研究者ならば、きっと愛してやまないお気に入りのものやことがあるはず――。本連載ではさまざまな分野で活躍されている研究者の方々に、ご自身の研究にまつわる“好きなもの”を3つ、理由とともにあげていただきます。

第1回は、フィールドワークで得られた地質証拠から、生物進化に必要な環境条件の解明を目指しているという地質学者 佐藤友彦さんの「好きなカンブリア紀の化石」をご紹介します。カンブリア紀は5.4~4.8億年前とされる地質時代の年代区分で、約46億年という長い地球の歴史のなかで最も急激に生物が進化し、現在生きている生物のすべての先祖が出揃った時代であるといわれています。当時の生物のうち、佐藤さんのお気に入りの化石はいったいどんなものなのでしょうか。

研究者プロフィール

佐藤友彦 (Tomohiko SATO)
1984年生まれ。東京大学理学部在学時にグランドキャニオン巡検に参加し地質学に目覚める。2012年、同地球惑星科学専攻博士課程修了。現在は東京工業大学地球生命研究所に所属。専門は地球史。フィールドワークで得られた地質証拠から、生物進化に必要な環境条件の解明を目指している。主な研究テーマは、カンブリア紀の生物進化・環境変動の解明。主な調査地は中国雲南省。中国語を少し話せたおかげで、調査地の村長に気に入られ、家の鍵をプレゼントして貰う。好きな超大陸はロディニア。特技は酒の席で寝ること。

1. アノマロカリス (Anomalocaris)

カンブリア紀最大の捕食者にして「カンブリア爆発」の象徴的存在。凶暴な海の覇者というイメージがありますが、実は歯の強度が足りなくて三葉虫をかじることができなかった、という研究者もいます。僕自身は小学生のとき、NMKスペシャル「生命~40億年はるかな旅」で、ヒレをうねうねさせて泳ぐアノマロカリスの映像を見て以来のファン。最近、親友の息子(3歳)が「アノマロカリス」と言えるようになり、嬉しい限りです。

アノマロカリス (イラスト提供:佐藤友彦氏)

2. ハルキゲニア (Hallucigenia)

発見された当初は、トゲ状の足で海底に立ち背中の触手でエサを食べていたと考えられていましたが、実は上下反対だったことがわかり、さらに最近、尾だと思っていた部分がじつは頭だったことが判明した、まさに「幻覚(hallucination)」の名にふさわしい化石です。これだけ復元図が様変わりした古生物も珍しいのではないでしょうか。研究に「絶対」はない、ということを教えてくれます。強そうですが、5mm~3cm程度の可愛いヤツです。

ハルキゲニア (イラスト提供:佐藤友彦氏)

3. SSF (Small Shelly Fossils)

カンブリア紀の爆発的進化の先駆けとなった、1mmほどの小さな硬骨格化石の群集。二枚貝、巻貝、腕足類など、いろいろな分類群の化石が含まれます(アノマロカリスの欠片が混ざっているかもしれません)。なかでも一推しなのは、美しい縞模様を持つ巻貝のご先祖さま「Archaeospira」です。SSFがどんな場所でどんなタイミングで進化したかは、生物進化のメカニズムを解明する鍵となっています。僕は、中国雲南省での野外調査によって、この謎を解明しようと取り組んでいます。

SSF (イラスト提供:佐藤友彦氏)