現代の電子システムは、ほぼすべての産業で重要な役割を担うようになっている。自動車では、カメラなどの安全機能を制御し、データをリアルタイムで処理する。業務用の厨房では、熱、湿気、連続使用といった過酷な環境下でも機器の安定稼働を実現している。これらのアプリケーションに共通するのは、故障が許容されないという点である。コンポーネントには厳しい条件にも耐える高い信頼性が求められる。

こうしたシステムの根幹を成すのが、電力とデータを伝送するケーブルとコネクタである。ケーブルとコネクタがなければ、センサは機能せず、制御系は通信不能となり、システム全体が動作を停止してしまう。ケーブルやコネクタは小さいので軽視されがちだが、いざトラブルが起きてみるとその重要性がわかる。ケーブルとコネクタは安全性の確保と機械の正常動作を支える縁の下の力持ちなのだ。ケーブルとコネクタの正常で安定した性能を保証するためには、考え得る限り最も過酷な条件で試験する必要がある。

  • ケーブルとコネクタ

自動車に求められる要件は他の多くの環境にも共通しているため、自動車分野で得た知見は他の分野にも転用できる。こうした考え方をもとに生まれたのがMolexの「Beyond the Garage」シリーズだ。このシリーズは、自動車業界以外のエンジニア向けに設計されており、継続的に過酷な環境で運用するシステムを扱う分野を対象としている。

先日、Molexのディストリビューション事業開発マネージャーで業界に詳しいKirk Ulery氏にDigiKeyが手掛ける「Let's Talk Technical」のビデオに出演していただき、自動車分野のイノベーションが他産業へ展開されている現状について話を聞いた。

  • Let's Talk Technical

電子部品のディストリビュータであるDigiKeyは、さまざまな産業のエンジニアに向けて最適なソリューションを見つけて入手できる環境を提供しており、車載用コネクタから産業、農業、商業におけるニーズに対応するコンポーネントまで幅広く取り扱っている。これらのコンポーネントは、ほぼすべての電子システムの基盤となっている。

自動車分野は実証の場

自動車分野では、電子システムに対する要求水準が非常に高い。そのような背景から、新技術は自動車分野で検証されることが多い。自動車が走行するのは、実験室のように制御された環境ではない。気温が非常に高温または低温になることがあるし、湿度の影響を受けることも多い。走行時の振動はコンポーネントにとって、継続的なストレスとなる。

その一方で、車載電子システムは故障が許されない必須機能を支えている。「コンピュータ業界のエンジニアと自動車業界のエンジニアは昔からこういうジョークがあります。コンピュータ業界のエンジニアが技術発展の速さを自慢すると、時速80マイル(130km)でシステムがフリーズしたら命に関わるよ、と切り返されるのです」とUlery氏は言う。

  • Kirk Ulery

    Molexのディストリビューション事業開発マネージャーであるKirk Ulery氏

これらのシステムが極めて重要であることから、自動車業界は電子システムの設計と検証に最適な実証環境となっている。

ガレージ(自動車業界)を超えて広がる技術

業界ごとに想定すべき課題が異なる一方で、コンポーネントにかかるストレスや過酷環境への耐性は各業界で共通している。そのため、どの分野でもエンジニアはまず環境条件から検討を始める。耐熱、耐湿、耐振動のどれが求められるか、あるいはそのすべてが必要なのかを把握したうえで、そのアプリケーションに最適な製品を選ぶ。

そのような考え方の好例として、Ulery氏はMolexのMX150コネクタを挙げる。MX150はDigiKeyで取り扱っているMolexの製品ラインの中でも最も大規模に展開しているシリーズだ。内燃機関の燃料噴射モジュールやホイールに直接装着するABS(アンチロックブレーキシステム)など、中電流、中電圧の車載用アプリケーションで広く採用されている。これらのコンポーネントは、振動、極端な温度、湿気のほか、全体的な劣化などの厳しい環境に常時さらされている。

従来、MX150コネクタは自動車分野で用いられていた製品だが、あるメーカーが業務用食洗機の制御基板を密閉する用途で使用できないかとMolexに相談してきた。この業務用食洗機は高温、高湿の環境で毎日稼働している。回路基板が防水対策されていないので、漏水によって露出して修理や故障が発生し、高額な出費につながる懸念があった。そこで、過酷な環境に合わせて特別に設計されている密閉型コネクタを業務用食洗機に転用したところ、システムが漏水から守られるようになった。以前は、回路基板が水に濡れるとコンポーネントが焼損して故障し、修理に大きなコストがかかっていた。密閉型コネクタを採用した今では、濡れるのは基板の外側だけであり、大きな問題にはならない。食洗機メーカーにとって、大きな価値のある技術転用となった。

  • 業務用食洗器

現代の自動車は「走るデータセンター」

現在の自動車にはカメラやセンサ、安全機能がぎっしりと詰め込まれており、それらが一斉に連携して動作するようになっている。そのため、各要素同士を接続するコネクタや配線には大きなストレスがかかる。こうしたコネクタや配線にはさまざまなイノベーションがあり、それらが他分野にも転用されている。

  • 自動車のバックカメラ
  • 48Vシステム:現在の自動車の大半は12V電源が使われている。これを48Vに移行することで必要な電流が低減するため、配線の小型化やコンポーネントの軽量化、配線経路の簡素化、コスト削減につながる。電圧が高くなると電気安全に関する新たな設計要件が必要になるが、高電圧化によって得られる効果は大きいため、他業界でも高電圧への移行が検証されている。電動化が進むと、システム電圧が高くなる。業務用空調設備から産業機器に至るまで、どの分野においてもその原則は変わらない。
  • 同軸給電(PoC)とHFM:初期のアナログ車載カメラは、1台あたり5~6本のピンが必要だった。PoCの登場によって電源とデータを1本の同軸ケーブルでデジタルカメラへ伝送できるようになり、その制約が解消された。車両に全周囲カメラや高度な安全システムが搭載される現在では、この方式が一般的になっている。こうしたニーズに対応するため、MolexのHigh-Speed FAKRA-Mini(HFM)コネクタは、小型ながら高速伝送が可能な構成になっている。複数の高解像度データを1本のケーブルで効率的に伝送する用途であれば、どの分野でもこのソリューションを利用できる。
  • シングルペアEthernet(SPE):標準的なEthernetは2対の配線で構成されている。シングルペア方式は1対の配線で双方向通信を実現する。車載分野以外でも有用な理由は、その相互運用性の高さにある。片側に車載グレードのコネクタ、もう一方にSPEコネクタを接続することで継続的な通信が可能になる。そのため、産業システムと車載グレード機器を接続する実用的なインタフェースとして機能する。
  • ゾーナルアーキテクチャ:すべてのセンサを中央コントローラに集約する代わりに、システムを領域ごとに分けてそれぞれをローカルで処理してから、各領域を高速バックボーンでつなげる。その結果、配線の引き回しが短くなり、冗長性が確保され、システムの更新や拡張が容易になる。複雑なシステムに対する同様の発想は、集中制御型からの脱却が求められている他分野でも採用され始めている。

これらの技術を組み合わせることで、現代の自動車に欠かせない構成要素が成り立っている。また、同様の耐久基準が求められる産業機器や業務用製品にも、これらの技術の転用が進んでいる。自動車業界は、長期間にわたって確実に機能し続けるシステムの実現が可能であることを実証してきた。用途が変わっても、求められる性能水準は変わらない。それはどの業界でも共通している。

本記事はDigiKeyの動画コンテンツ「Let's Talk Technical: Rugged Connectors, 48V Systems & Data Centers on Wheel」の内容を翻訳・改変した読み物となります。