東北大学、日本原子力研究開発機構(JAEA)、J-PARCセンター、総合科学研究機構(CROSS)、京都大学(京大)の5者は5月13日、地球の鉄のコア(核)には水素が混入しているとの推測に基づき、その詳細な含有量を解明すべく、J-PARCの物質・生命科学実験施設の超高圧中性子回折装置「PLANET」を用いた中性子実験により、高温高圧下で液体鉄に溶け込む水素の量を世界で初めて直接決定することに成功したと共同で発表した。
同成果は、東北大大学院 理学研究科の高橋直生大学院生、同・坂巻竜也助教、京大 複合原子力科学研究所の有馬寛准教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」系のオンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。
地球外核に残された謎の多くを説明できる可能性も
地球の核は主に鉄で構成されているが、その密度は高温高圧下の純粋な鉄よりも低いことが明らかにされている。この密度不足(密度欠損)の原因として、鉄より軽い元素の混入が考えられており、水素はその有力候補の1つとされる。それは、水素が宇宙の全元素の約4分の3を占めるほど豊富に存在し、高圧下で鉄に溶け込みやすくなることが性質を持つことがその理由だ。
地球の核に含有される水素量を把握することは、地球の成り立ちを理解する上で重要だ。しかし、水素は高圧下でしか鉄に溶け込まないため、圧力を下げるとすぐに大気中へ放出されてしまい、常温常圧下で回収した試料からその量を計測することは不可能だった。そのため、液体の鉄に含まれる水素の量を直接測定することはこれまで実現できていなかったのである。そこで研究チームは今回、中性子イメージング手法を用い、水素が溶け込んだ液体鉄(FeHx)を高圧・高温条件下で観察することで、液体鉄に含まれる水素の量を直接計測したという。
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中性子イメージング実験の結果。(左)試料セルの中性子透過像。セル中央に鉄試料を配置し、水素源であるアンモニアボラン(NH3BH3)で挟んでいる。加熱に伴いアンモニアボランから放出された水素が鉄中に溶け込むことで、鉄の中性子透過度が減少する。(右)中性子透過度の温度変化。常圧で安定な体心立方構造の鉄が水素化して面心立方構造へ相転移すると、透過度は急激に減少する(緑→赤)。その後、水素化鉄が溶融すると、透過度はわずかに増加する傾向を示す(橙→紫)。(出所:東北大プレスリリースPDF)
地球は形成初期、微惑星や隕石の衝突エネルギーや温室効果により高温化し、地表が全球的に溶融した「マグマオーシャン」状態にあったと推定されている。この時、分離した鉄の液滴はマグマ内を沈降しながら周囲の物質と反応し、最終的に地球中心部へ集まって核を形成した。近年の研究では、原始地球が太陽系の水素に富んだガスを取り込み、マグマオーシャンに大量の水素が溶け込んでいた可能性が指摘されている。今回の結果は、そのような環境で液体鉄が大量の水素を取り込みながら中心へ沈み込んでいったとする核形成モデルを裏付けるものとなった。
次に、今回得られた水素の溶解量を基に、地球の核にどれだけの水素が含まれているのかが試算された。その結果、外核には現在の海洋中に含有される水素の70~85倍、内核には1.9~2.7倍が含まれ得ることが導出された。これは、水素が外核の密度不足の約6~7割を説明できる可能性があることを示すものである。
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地球の核形成モデルの概略図。原始地球は、形成時に衝突エネルギーなどによって全球的なマグマオーシャン状態にあった。そこで鉄と珪酸塩が分離し、鉄は密度が大きいことから中心へ沈降して核が形成された。こうした分化過程を経て、現在の地球には地殻から内核までの多層構造が確立されたと考えられている。今回推定された外核の水素量は、外核の密度不足の約6~7割を説明できることがわかった。(出所:東北大プレスリリースPDF)
地球の核がどのように形成され、どのような化学組成を持つのかは、地球科学における大きな未解決問題の1つだ。今回の研究は、液体鉄に溶け込む水素量を初めて直接的に決定したことで、核形成時に水素がどれだけ取り込まれたのかを定量的に推定することに成功した。これにより、純粋な鉄と比較して外核の密度が低い理由の主要因を説明し得る可能性が示され、地球の内部構造の理解を大きく前進させる結果となった。
また今回の成果は、地球内部の水素循環の解明や、他の惑星における核形成プロセスの理解など、幅広い分野へ影響を与えるものと考えられるという。今後は、より高圧条件下での測定や、水素以外の軽元素との共存効果が解明されることが期待されるとしている。