名古屋工業大学(名工大)は5月7日、独自開発した「活性水酸アパタイト」(HAp)と「多結晶白金ナノ粒子担持HAp」を固体触媒として用い、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のエポキシ樹脂のみを選択的に分解して炭素繊維にダメージを与えることなく高品質で回収する、新規の低温リサイクル技術を開発したと発表した。

  • 新規固体触媒を用いたCFRPリサイクル技術の概要図

    今回開発された新規固体触媒を用いたCFRPリサイクル技術の概要図。(出所:名工大プレスリリースPDF)

同成果は、名工大 生命・応用化学類の白井孝教授、同・辛韵子特任准教授、名工大 工学部生命・応用化学科の後藤舞氏(研究当時)らの研究チームによるもの。詳細は、英国王立化学会が刊行する、環境適合型化学を扱う学術誌「Green Chemistry」に掲載された。

低温・短時間での高品質炭素繊維回収を実現

自動車や航空機などの輸送機器において、軽量化は省エネルギーに直結する。そのため、高強度・高剛性でありながら軽量で、かつ耐食性や耐疲労性にも優れるCFRPの重要性が高まっている。しかし、炭素繊維を熱硬化性樹脂で固めた複合材料であることから、リサイクルが困難なことが長年の課題だった。特に、炭素繊維は高付加価値材料であるにもかかわらず、現状では使用済みCFRPの多くが埋め立て処分をされており、資源循環と環境負荷低減の観点から深刻な懸念が持たれている。

CFRPからの炭素繊維回収を困難にしている主因は、その複合材料にある。炭素繊維と樹脂は共に熱に弱く、樹脂のみを酸化分解などで除去しようとすると、炭素繊維の表面も同時に酸化され、機械的強度などの諸特性が低下してしまい、その結果として再利用が困難になるという致命的な欠点が存在した。

こうした背景から、炭素繊維の品質を維持しつつ、より低温・短時間かつ低環境負荷でリサイクル可能な技術が切望されてきた。そこで研究チームは今回、独自の固体触媒を活用し、CFRP中の樹脂成分のみを選択的に分解する新たなリサイクル手法の開発を目指したという。

今回の研究では、固体触媒として、独自開発の「活性水酸アパタイト」(HAp)および「多結晶白金ナノ粒子担持HAp」(pc-PtNPs@HAp)が用いられた。HApはアパタイト構造を持つリン酸カルシウムの総称であり、生体骨の主成分でもある安全かつ安価な材料だ。

  • 開発された固体触媒の形態

    開発された固体触媒の形態。(a)HApのSEM像。(b)pc-PtNPs@HApのHR-TEM像。(出所:名工大プレスリリースPDF)

研究チームはこれまで、HAp表面の熱誘起ラジカルおよび酸塩基特性を利用した、機能性酸化触媒としての有用性を実証してきた。また、今回用いられたpc-PtNPsは、独自開発の「マイクロ波急速加熱法」で合成されたもので、平均粒径約5nmの多結晶構造を有する。結晶界面に由来する優れた酸化能を有するため、従来の白金ナノ粒子と比較して、極めて少量の担持量で良好な触媒特性を発揮することが明らかにされた。

開発された回収プロセスは、アルゴン雰囲気下での一次分解と、酸素雰囲気下での二次分解という二段階の熱処理で構成される。一次分解では、触媒表面の酸塩基サイトを利用し、約300~400℃の低温条件で、CFRPの構成要素であるエポキシ樹脂を選択的に分解。揮発成分の生成と共に、炭化残渣(チャー/タール)を形成させる流れだ。

続く二次分解では、触媒表面で生成される活性酸素種により、炭化残渣が二酸化炭素や水へと効率的に酸化分解される。その結果、炭素繊維表面に付着した樹脂が完全に除去され、その構造を損なうことなく回収が可能となった。特に、PtNPs@HApはHAp単体よりも高い触媒活性を示し、400℃で20分以内という短時間での完全分解が達成された。

  • SEMにより観察された各試料の表面状態

    SEMにより観察された各試料の表面状態。(a)熱処理前のCFRP。(b)pc-PtNPs@HAp触媒を用いた回収炭素繊維。(c)HAp触媒を用いた回収炭素繊維。(d)比較のためのアルミナ粉体を用いた回収炭素繊維。(出所:名工大プレスリリースPDF)

回収された炭素繊維と下のCFRPの走査電子顕微鏡(SEM)で観察・比較したところ、pc-PtNPs@HAp触媒を用いた場合には炭素繊維表面に樹脂の残存は認められず、損傷のない独立した繊維が回収されたことが確認された。一方、HAp単体ではわずかな樹脂の残存が見られ、触媒能のないアルミナ粉体を用いた比較資料では、繊維間に樹脂が残り、単一繊維としてではなくシート状でしか回収できないことがわかった。

次に、CFRP作製時の炭素繊維およびpc-PtNPs@HAp触媒で回収された炭素繊維のラマン分光解析が実施された。その結果、回収後の炭素繊維は元の繊維と同等の構造を維持していることが判明。ラマン分光による構造解析の結果は、弾性率や引張強度などの機械特性と強く相関するため、回収された炭素繊維は本来の品質を保持していると結論づけられた。

  • CFRPに用いられた炭素繊維とpc-PtNPs@HAp触媒により回収された炭素繊維のラマンスペクトル

    CFRPに用いられた炭素繊維(a)と、pc-PtNPs@HAp触媒により回収された炭素繊維(b)のラマンスペクトル。各グラフの左上挿図は、炭素繊維の光学顕微鏡像。(出所:名工大プレスリリースPDF)

さらに、今回の触媒は反応過程において自己再生する特性を備えており、繰り返しの使用に耐える点も特徴とする。また、形状自由度の高い固体触媒であるため、長尺の炭素繊維をその形状を維持したまま回収できる点も、今回の手法の大きな利点とする。

この新規CFRPリサイクル技術が持つ特徴は、自動車や航空機産業などで求められる高性能CFRP材料の再利用において極めて重要であり、資源の有効利用と廃棄物削減の両立に大きく貢献する。加えて、有機溶媒を使用しない環境調和型プロセスであるため、二酸化排出削減や環境負荷低減にも寄与し、脱炭素および循環型社会の実現に向けた基盤技術となることが期待されるとした。

研究チームは今後、触媒の耐久性や再利用性のさらなる向上に加え、豊富に存在する元素を用いた触媒設計を進めることで、持続可能性および経済性の一層の強化を目指すという。さらに今回のプロセスは、他の複合材料や高分子材料のリサイクルにも展開可能であり、資源循環型社会の実現に向けた新たな材料プロセスの創出につながることが期待されるとしている。