その道を極めた研究者ならば、きっと愛してやまないお気に入りのものがあるはず――。本連載ではさまざまな分野で活躍されている研究者の方々に、ご自身の研究にまつわる“好きなもの”を3つ、理由とともにあげていただいています。
今回は、ゲノムサイエンス関連の研究を行っている生物化学者 白瀧千夏子さんにインタビューしました。大学院時代にはタンパク質の化学を研究していたという白瀧さんのお気に入りタンパク質をご紹介します。
研究者プロフィール
白瀧千夏子 (Chikako SHIRATAKI)
1985年生まれ。埼玉県立川越女子高等学校、信州大学理学部生物科学科を経て名古屋大学大学院理学研究科物質理学専攻(化学系)に入学、2014年9月に同博士後期課程を修了。大学院ではタンパク質の化学を研究し、現在は東京工業大学で研究員として微生物のゲノムサイエンスに挑戦中。さまざまな角度から生物や生体分子を見て、新しい発見をしていきたい。趣味は科学系の博物館めぐりとおいしいケーキ屋さん探し。ただし現在ダイエット中のためケーキの購入は控えめにしようと頑張っている。
1. HasA
とにかくまずカタチが可愛い! お魚のような形のタンパク質「HasA」です。HasAは、動物の体内に生息する細菌「緑膿菌」が持っている鉄獲得タンパク質です。緑膿菌は鉄分不足に陥るとHasAを分泌するのですが、分泌されたHasAは私たちのヘモグロビン由来のヘム鉄を掴んで緑膿菌へと渡します。ヘム鉄をつかむHasAの"ぱっくん"具合がたまらなく可愛いと感じるのは私だけでしょうか……! ミクロやナノのスケールで私たちの身体を見ると鉄分をめぐるこんな攻防が繰り広げられていたなんて、驚きです。博士号取得の際のメインの研究対象でもあり、苦楽をともにしてきたパートナーです。
2. GFP
ピカーッと光るタンパク質! 2008年のノーベル賞でお茶の間でもブレイクしたGFP(Green Fluorescent Protein)です。緑色の蛍光が本当に美しい。もともとは光るクラゲが持っているタンパク質だったのですが、今では研究の現場でなくてはならないタンパク質となっており、たとえば大腸菌やメダカなどの生物に作らせたりもしています。GFPの個人的な魅惑ポイントは「どうやって光るか?」というところ。なんとGFPが作られるとき、3次元の構造をとることで勝手にタンパク質の内側で化学反応が起こり、タンパク質の一部が光る構造に変化するのです。凄い……! なお、発光団形成メカニズムについては、こちらにわかりやすく書かれています。
3. ヘモグロビン
私たちの体の中でせっせと酸素を運んでくれているタンパク質「ヘモグロビン」。鮮やかな赤い色がとても綺麗なんです! 私たちの血が赤いのは、血に含まれているヘモグロビンが赤いから。赤さの秘密は、ヘモグロビンが抱え込んでいる「ヘム鉄」と呼ばれる分子にあります。こんなものをサクッと合成しているなんて、生物って本当にどうなっているのでしょうか……。健康診断で血液検査をするたび、ヘモグロビン値を見ては「今日も頑張って!」と密かに自分の体にエールを送っております。