その道を極めた研究者ならば、きっと愛してやまないお気に入りのものがあるはず――。本連載ではさまざまな分野で活躍されている研究者の方々に、ご自身の研究にまつわる“好きなもの”を3つ、理由とともにあげていただいています。

今回は、人工衛星の観測データを用いて「白色矮星」などの研究を行う宇宙物理学者 湯浅孝行さんお気に入りの「天文衛星」をご紹介します。

研究者プロフィール

湯浅孝行 (Takayuki YUASA)
石川県出身。天の川銀河や、大部分の恒星の最終進化形態である「白色矮星」の性質を観測的に研究。人工衛星の観測データを用いた宇宙物理学と並行して、理化学研究所、京都大学、東京大学のメンバーとともに、雷雲における粒子加速とガンマ線放射の観測実験も進めている。2011年、東京大学理学系研究科博士課程修了。2011~2014年、JAXAにてASTRO-H衛星の搭載データ処理系やレーザー変位計の開発に従事。2014年から理研 基礎科学特別研究員。

1. Hubble Space Telescope (ハッブル宇宙望遠鏡)

あまりにも有名ですね。赤外線・可視光・紫外線の観測装置を搭載した宇宙望遠鏡です。多くの人がそうだったように、私も小学生の頃、ハッブルが撮影した美しい宇宙の写真をみて宇宙に興味を持ちました。1990年の打ち上げからスペースシャトルによる5回の軌道上修理・アップグレードをへて25年も稼働し、科学的にも芸術的にも人類の遺産というにふさわしいデータを撮り続けています。後継機のJames Webb Space Telescopeは2018年10月にヨーロッパ宇宙機関のアリアン5ロケットで打ち上げ予定です。

ハッブル宇宙望遠鏡 (出典:NASA)

2. X線天文衛星「すざく」

2005年に打ち上げられた「すざく」衛星は、2015年に運用終了するまでにブラックホールや中性子星、銀河などさまざまな天体からのX線放射を観測してきました。米国や欧州のX線天文衛星に比べて、0.1キロ電子ボルトから600キロ電子ボルトという広い波長帯域のスペクトルを一度に観測できることが特徴です。私が大学4年生のときに打ち上げられ、大学院入学から現在まで、さまざまな天体の観測データを解析させてもらった、思い入れのある衛星です。私の博士論文では「すざく」が取得した天の川銀河の中心領域の大量の観測データを使うことで、天の川銀河にそって広がる謎のX線背景放射の放射源が、多数の暗い白色矮星の集合体であることを示しました。

「すざく」衛星が撮影した天の川銀河の中心領域のX線画像

3. X線天文衛星「ASTRO-H」

「すざく」衛星の後継機です。高性能のX線分光装置SXSをはじめ、4種類のX線望遠鏡を搭載し、世界最高性能の分光性能(光子のエネルギーを見分ける能力)と広帯域の観測を実現します。銀河団を取り巻く高温ガスや、人類が到底創りだすことができない強い磁場をもつ中性子星から放出されるX線を観測し、高温かつエネルギーに満ちた宇宙における物理現象を詳細に調べます。私も大学院時代から現在まで、開発に深く関わらせてもらった計画で、とても思い入れがあります。2016年2月に打ち上げ予定で、世界中の研究者が観測データを待ち望んでいます。詳しくはX線天文衛星ASTRO-H 特設サイトをご覧ください。

X線天文衛星「ASTRO-H」の想像図 (C)JAXA/池下章裕