TISIと大阪大学 量子情報・量子生命研究センター(QIQB)は、量子最適化アルゴリズム「パウリ相関エンコーディング(PCE)」を活用し、従来の量子計算では困難とされてきた大規模な組合せ最適化問題への適用可能性を実証したと7月30日に発表。1万件を超える電力リソースを対象とした電力需給最適化のユースケースで、商用最適化ソルバーと同等の精度が得られることを確認したという。

  • 量子コンピュータによる分散電力リソースの一括最適化イメージ

    量子コンピュータによる分散電力リソースの一括最適化イメージ

物流計画や金融ポートフォリオ、製造スケジューリング、エネルギー運用など、さまざまな社会課題では、より良い選択肢を導き出す手法として組合せ最適化が活用されている。一方、対象規模が大きくなるほど計算量が急激に増えるため、大規模な問題を高速かつ高精度に解くことが課題となっている。

再生可能エネルギーの導入拡大や需要家ニーズの多様化を背景に、電力事業者やリソースアグリゲーターには、需給バランスを安定的に保ちながら、調達コストや需給リスクを抑える高度な運用が求められている。電力需要は家庭や事業者ごとに特性が異なり、多数の電力リソースから最適な組み合わせを導くには膨大な計算量を要することから、両者は量子計算技術を用いた共同研究を進めてきた。

PCEは2025年に提案された量子最適化アルゴリズムで、多数の最適化変数を少ない量子ビット数で効率的に表現できる点が特徴とされる。今回の研究では、従来検証していた約20需要家規模から、10,000件を超える需要家ポートフォリオへと計算対象を拡張した。

検証の結果、量子計算で算出した電力リソースの組み合わせが、既存の商用最適化ソルバーによる最適解と高い精度で一致することを確認した。希望する調達電力量を満たしながら需要配分の標準偏差を抑え、需給の安定化と調達電力の変動抑制を両立できる可能性を示したという。また、利用者数が増えてモデルが複雑になった場合でも、必要な量子ビット数を効率的に抑えられることを確認したとしている。

  • 最小限の量子ビットで大規模計算に対応可能とするイメージ

    最小限の量子ビットで大規模計算に対応可能とするイメージ

  • 電力需要ポートフォリオ最適化結果の比較

    電力需要ポートフォリオ最適化結果の比較

両者は今回の成果について、企業が量子技術を活用した業務課題の解決や効率化を、具体的なユースケースで検証できる段階に近づくものと位置付けている。電力分野に加え、物流や金融、製造など、多様な業界の複雑な最適化問題への応用も期待されるという。

今後は量子最適化に加え、量子機械学習を含む新たな量子アルゴリズムの開発にも着手し、適用領域を広げる方針。TISIは実データを用いた実証や、量子ハードウェアの特性を踏まえた性能向上を進め、2026年度中に量子最適化アプリを試作する。あわせて、同社の脱炭素ソリューション「Carbony VPPプラットフォーム」との連携など、実運用への適用可能性を検証するとしている。

なお、今回の成果は2026年7月に国際学術誌「Physical Review Applied」へ投稿され、現在は査読中となっている。成果を発展させた研究内容は、国際会議「IEEE Quantum Week 2026(QCE26)」のTechnical Paperに採択されており、同年9月にカナダ・トロントで発表される予定とのことだ。