ソフトバンクは2026年7月23日、“空飛ぶ基地局”こと「HAPS」(High Altitude Platform Station、高高度プラットフォーム)の試験サービスを、2026年8月中旬以降に開始することを発表しました。ついに、国内でHAPSによる通信の実現に大きく動き出すこととなるが、今後の本格展開に向け、どこまでのめどが立っているのでしょうか。→「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の過去回はこちらを参照。

LTA型HAPSでのサービス提供に向け準備

米Space Exploration Technologies(スペースX)の低軌道衛星群「Starlink」を用いた通信サービスが提供されて以降、NTN(Non-Terrestrial Network:非地上系ネットワーク)に対する関心が高まっています。しかし、国内で積極的な取り組みが進められているのは、衛星通信よりもHAPSでしょう。

この分野に力を入れるNTTドコモとソフトバンクは、ともにHAPSを用いた通信サービスの商用、あるいはプレ商用提供を2026年中に実施すると表明していますが、先に動きを見せたのがソフトバンクです。同社は2026年7月23日に記者説明会を実施し、2026年8月中旬以降にHAPSのプレ商用サービスを提供予定であることを明らかにしました。

ソフトバンクは2017年からHAPSの事業化に取り組んでおり、長らく大型の無人航空機を飛行させるHTA(Heavier Than Air)型のHAPS開発に取り組んできました。ですが、2025年に方針を大きく転換し、飛行船のようにヘリウムガスなどの浮力を活用して飛行する、LTA(Lighter Than Air)型のHAPSを開発している米Sceyeに出資。日本国内でのHAPSサービス展開の独占権を獲得し、LTA型によるプレ商用サービスを2026年中に開始するとしていました。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第44回

    ソフトバンクは2026年8月中旬以降、プレ商用サービスを提供予定であることを発表。2025年に提携したSceyeのLTA型HAPSを用いてのサービス提供となる(出所:ソフトバンク、以下同様)

それゆえ今回、プレ商用サービスに用いられるのはSceyeのLTA型HAPSです。HAPSは安定した通信を維持するため、一定の場所に滞空している必要があることから、同じ場所に滞空し続けることが重要となりますが、同社のHAPS機体は88時間以上の定点対空でも誤差1km以内と、高い定点保持技術を持つとのことです。

それに加えてこの機体は、日中のソーラー充電と夜間のバッテリー駆動で長期間飛行できる仕組みや、ヘリウムガスの膨張を抑制して高度を維持する仕組みが備わっています。それゆえ米国のニューメキシコ州からブラジル沖までを約12日間、1万km以上飛行するなど、長期間安定した飛行が可能なことを確認し、今回のプレ商用サービス提供への活用に至ったようです。

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    SceyeのHAPSは米国でのテストフライトで、12日間以上、約1万300km以上を飛行した実績がある

一方で衛星通信と同様に、HAPSで通信をするには、地上のコア設備と無線でやり取りするゲートウェイを用意する必要があります。そこでソフトバンクでは、高知県室戸氏に地上ゲートウェイを設置。このゲートウェイは自動でHAPSの位置を追尾し、HAPSと通信しやすいようアンテナの向きを正確に変える機能を具備しているとのことです。

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    高知県に設置されたHAPSの地上ゲートウェイ。自動でHAPSを追尾し、アンテナの向きを変える機能が備わっている

格納庫の用意や台風対策など、課題はまだ多い

では実際のところ、プレ商用サービスはどのような内容となっているのでしょうか。同社の説明によると、まずは災害発生時の利用を想定した試験が実施してるようです。HAPSはハンガー(格納庫)のある米国から打ち上げ、そこから日本へと移動し、高度20kmを飛行して仮想的に定められた被災エリアを飛行して通信を提供します。

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    プレ商用サービスの大まかな仕組み。米国から日本にHAPSを飛ばして仮想被災エリアに滞空、その間に国内での通信を実施しさまざまな検証をすることとなる

そのうえで日本の気象環境下でも音声やSMS、データ通信などを地上と同等の品質で実現できるか、そして地上基地局との電波干渉がないか、ハンドオーバーができるかなどを検証するとのことです。

具体的な実施場所はまだ決まっていませんが、南海トラフ地震や海溝型地震の発生を想定し、東北地方や近畿地方、九州地方など大規模災害が想定されるエリアでの実施が予定されています。

また、今回のサービス提供で得た知見を生かして、2027年以降には本格的なHAPSの商用サービスを開始するとしており、災害時の通信だけでなく定常時の通信も提供する方針のようです。

さらにHAPSの展開により、従来地上のみだった2次元のネットワークを3次元化し、ドローンなど空を飛ぶ機器などにネットワークの力を提供する取り組みにも力を入れていきたいとしています。

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    将来的にはHAPSや衛星通信などを活用し、現在は地上のみをカバーするネットワークを3次元化。ドローンや「空飛ぶクルマ」などへの対応を進めたい考えのようだ

ただ国内で本格的な商用サービスを展開するには、課題も多いのが実情です。1つは、HAPSのハンガーがまだ国内にないこと。今回のプレ商用サービスでも、HAPSは米国のハンガーから飛行する形が取られているが、日本に到着するには2週間程度の時間がかかるというだけに、サービスの本格化に向けては国内で完結する体制が求められるでしょう。

ソフトバンクの技術統括 プロダクトR&D本部 ユビキタスネットワーク企画統括部 統括部長の上村征幸氏は、国内のハンガー設置について「検討しており、さまざまな場所で交渉などをしているが、具体的にいつからというのは答えられない」としている。今回、用いられるHAPSは全長で65mと非常に大きいだけに、それだけの機体を格納する場所を確保するのにも課題があるようです。

加えて、HAPSは台風に弱いという弱点があることも課題です。台風はHAPSが飛行する成層圏より下に発生し、上に風を吹くため飛行に影響が出てしまいやすいそうで、今回のプレ商用サービスも安全性重視のため台風を避けて実施するとしています。

それゆえ大規模災害時であっても、台風の被害にHAPSはあまり活用できないことになります。上村氏は当面、台風以外での災害活用を想定しているとしながらも、今後の機体の進化で気象耐性を高め、将来的には台風の環境下でも稼働できるようにしたいと答えています。

そしてもう1つ、気になるのがソフトバンクが力を入れてきたHTA型の現状です。こちらについて上村氏は「早ければだが、最短で2029年ごろという状況。日本国内で飛行するにはもう少し時間がかかる」と答えており、まだ時間がかかるようです。

当面は、SceyeのLTA型HAPSでサービス展開を進めていくことになるようですが、HAPSによる通信サービスの提供自体、日本はおろか世界でも事例が見られないものでもあります。まずはプレ商用サービスの展開で、今後の確実な商用サービスにつなげる道筋を見せることが求められるでしょう。