2026年7月、AIチャット「Claude」で共有された会話の一部が、Google検索から誰でも読める状態になっていたという騒動が起きました。同じ形の事故は2025年にGrokやChatGPTでも発生しています。→過去の「柳谷智宣のAIトレンドインサイト」の回はこちらを参照。

Google検索の履歴が「調べた単語の一覧」だとすれば、生成AIの履歴は「相談内容の全文」です。健康やお金の悩み、仕事の機密、人間関係の愚痴、書きかけの原稿まで、そっくりそのまま残っています。人に見られたときのダメージは、もはや検索履歴の比ではありません。

今回は、実際の事故を振り返りながら、生成AIアカウントの乗っ取り防止、共有設定の見直し、履歴の削除、シークレットチャットの活用について解説します。

  • 柳谷智宣のAIトレンドインサイト 第33回

    生成AIにさぼりの口実を考えてもらったりしていたら、漏洩時のダメージは計り知れません

共有ボタンを押しただけの会話がGoogle検索に並んでいた一連の事故

2026年7月25日、Claudeの共有機能で作られた会話ページが、GoogleやBingの検索結果に表示されていることが海外の掲示板への書き込みで報告されました。リンク先のページには履歴書や社内文書、患者名の入った医療記録、APIキーや暗号資産ウォレットの情報まで含まれていたと報じられています。

対象になったのは利用者が自分で共有リンクを作った会話だけで、非公開のチャットが盗まれたわけではありません。ただ、リンクを送った相手だけが読むつもりの会話が、不特定多数に見つかる状態だったのは事実です。該当ページはその後、検索結果に出てこなくなりましたが、URLを知っている人はいまも読むことができます。

同じような事故は過去にも起きています。2025年8月には、xAIの「Grok」で共有ボタンから生成されたURLに検索エンジン向けの除外指定がなく、37万件を超える会話がGoogleなどに登録されました。医療や心理の相談、氏名や住所、パスワードとみられる文字列、アップロードされた画像や表計算ファイルまで、リンクをたどれば読める状態でした。

ChatGPTでも2025年夏、共有した会話を検索対象に含めるかどうかを利用者が自分で選ぶ試験機能を通じて、約4500件の会話がGoogleに載りました。OpenAIは短期間の実験だったと認め、機能そのものを取り下げています。

共有ボタンを押していなくても安心はできません。2023年3月にはChatGPTの不具合で、他人の会話履歴のタイトルが表示される事象が起きました。2025年1月には、中国のDeepSeekで認証なしに接続できるデータベースが見つかり、チャット履歴を含む大量のログが外から読める状態になっていました。

こうした事故で外に出るのは、断片的なキーワードではありません。質問の背景にある事情や固有名詞、添付した書類まで、文脈ごとそっくり読まれてしまいます。しかも、履歴が外に出る経路は共有リンクだけではありません。

  • 柳谷智宣のAIトレンドインサイト 第33回

    世界最大級のソーシャルニュースサイト「Reddit」の投稿で、共有リンクを検索できることが報告されました

乗っ取られると全履歴を読まれる生成AIアカウントの守り方

会話を共有しなければ安心なのかというと、そうとも限りません。一番怖いのがアカウントの乗っ取りです。SNSではよく聞く話ですが、生成AIでも起きています。実際に、海外のセキュリティ企業は2023年、情報窃取型マルウェアに盗まれたChatGPTのアカウント情報10万件以上がダークウェブで取引されていたと公表しました。

別の調査では、2021年からの3年間にOpenAI関連の認証情報約69万件がダークウェブで確認されています。パソコンに入り込んだマルウェアがブラウザーに保存したパスワードを抜き取る手口のほか、他サービスから流出したパスワードの使い回しを突かれるケースも定番です。

一度、生成AIのアカウントを乗っ取られると、過去の会話の全文はもちろん、メモリ機能に蓄積された自分の人物像、アップロードしたファイル、登録済みの支払い情報まで丸ごと相手の手に渡ってしまいます。

自衛策の基本は、パスワードを使い回さないことと、多要素認証を有効にすることの2点です。他のサービスと同じパスワードを使っていると、どこかひとつが漏れたときに芋づる式に侵入されてしまいます。万一パスワードが漏れても、多要素認証を設定しておけば、その先の不正アクセスを防ぎやすくなります。

ChatGPTは「設定」の「セキュリティ」で「多要素認証」をオンにし、Microsoft AuthenticatorやGoogle Authenticatorなどの認証アプリを登録します。GeminiはGoogleアカウントそのものが入り口なので、Googleアカウント側で2段階認証プロセスやパスキーを設定しておきます。

Claudeは専用のパスワードを持たない設計で、「メールで続行」でログインリンクを受け取るか、「Googleで続行」でGoogleアカウントを使います。裏を返せば、そのメールやGoogleアカウントを破られると、そのまま侵入されてしまいます。連携先の2段階認証を固めることが実質的な防御になります。

  • 柳谷智宣のAIトレンドインサイト 第33回

    ChatGPTの「セキュリティ」で多要素認証をオンにできます

うっかり公開されたままの共有リンクを棚卸しして履歴を消す手順

共有リンクは、会話のコピーを載せた公開Webページを1枚作成しています。そのため、リンクを消さない限り、URLを知っている人はいつでも読めますし、今回のように検索エンジンに拾われる恐れも残ります。第三者に見られたくないなら、共有リンクを無効化しましょう。

ChatGPTは「設定」の「データコントロール」に「共有リンク」の項目があり、「管理」を開くと自分が作ったリンクが並びます。不要なものはゴミ箱アイコンで削除します。

  • 柳谷智宣のAIトレンドインサイト 第33回

    ChatGPTは「データコントロール」から確認します

Claudeは「設定」の「プライバシー」で「共有チャット」の「管理」を開くと一覧が表示され、共有を解除すればリンクが無効になります。

  • 柳谷智宣のAIトレンドインサイト 第33回

    Claudeは「プライバシー」から確認します

Geminiはパソコンで画面下部の「設定とヘルプ」から「公開リンク」を開いて削除します。

  • 柳谷智宣のAIトレンドインサイト 第33回

    Geminiは「公開リンク」から確認できます

共有リンクを片付けたら、履歴そのものも整理しておきましょう。3サービスとも、個別の削除はサイドバーの会話一覧から行います。会話名の横のメニューを開いて削除を選ぶだけです。

まとめて消したい場合、ChatGPTは「設定」の「データコントロール」にある「すべてのチャットを削除」を使います。Claudeはサイドバーの「チャットとタスク」を開き、一覧の上部にある選択ボタンで会話をまとめて選んで削除します。削除した会話は復元できないので、残したい内容は先にエクスポートしておきましょう。

Geminiだけは仕組みが少し違います。履歴はGoogleアカウントの「Geminiアプリ アクティビティ」として保存されており、「設定とヘルプ」の「アクティビティ」から期間を指定して削除します。自動削除までの期間は3カ月、18カ月、36カ月から選べ、既定は18カ月です。短い3カ月を選んでおけば、消し忘れた履歴も自動的に減っていきます。

なお、削除しても即サーバから消えるわけではありません。ChatGPTとClaudeでは、システム上からなくなるまでに30日ほどかかります。Geminiでは、人によるレビューに回ったデータが、アカウントとの紐付けを外したうえで最大3年間保持されます。消したつもりでも痕跡はしばらく残ると考えて、そもそも履歴に残さない使い方も覚えておきましょう。

  • 柳谷智宣のAIトレンドインサイト 第33回

    生成AIとの会話履歴は左側の一覧から削除できます。画面はGemini

見られたくない相談を履歴に残さないシークレットチャットの実力と限界

履歴に残したくない会話をするなら、シークレットチャット機能を利用しましょう。会話は履歴に保存されず、学習にも使われません。ChatGPTの場合は画面右上のアイコンから「一時チャット」に切り替えます。

Geminiは画面右上の破線のフキダシのアイコンから「一時チャット」を開始できます。Claudeはチャット画面の右上に出るゴーストのアイコンをクリックすると「シークレットモード」になります。

健康やお金の相談、転職の検討、他人の個人情報が絡む話、人に見せる前の下書きなど、読み返す必要のないやり取りは、シークレットチャットを使う癖を付けておくと、後から削除する手間を省けます。

ただし、こちらも完全に痕跡が残らないわけではありません。不正利用の監視といった目的で、事業者側には短期間データが残ります。ChatGPTとClaudeは最大30日、Geminiの一時チャットは最大72時間が目安です。個人情報やパスワード、機密情報など、漏れたら取り返しのつかない情報は、シークレットチャットかどうかを問わず入力しないのが原則です。

  • 柳谷智宣のAIトレンドインサイト 第33回

    履歴や記憶に残らないシークレットモードを活用しましょう

ここまで紹介した設定は、どれも数分あれば終わります。やることは、多要素認証を有効にする、共有リンクを棚卸しする、不要な履歴を消す、残したくない相談はシークレットチャットで行う、の4つだけです。

時々これらの設定を見直す習慣をつけておけば、履歴が思わぬ形で外に出る心配はぐっと小さくなります。生成AIは、付き合い方さえ間違えなければ頼りになる相談相手です。設定を整えて、安心して使い倒していきましょう。