2023年、大都市部を中心に通信品質が著しく低下して以降、通信品質に厳しい声が寄せられているNTTドコモ。その後、多額のコストを費やして基地局を増強し、通信品質の改善を進めてきましたが、それでも通信品質に根強い不満の声があることも事実です。一体なぜなのでしょうか。→「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の過去回はこちらを参照。

5Gのネットワーク改善に3Gの終了が大きく寄与

かつて通信品質が高く評価されてきたNTTドコモですが、現在では通信品質の低さを批判する声が少なくありません。その理由は2023年、コロナ禍明けの需要回復タイミングを読み違えたことにより、大都市部を中心として通信品質が著しく低下したことにあります。

それだけにNTTドコモとしても、批判の声を受け通信品質改善に積極的に取り組んできました。同年には300億円を投じて基地局の増設などを実施する、集中対策をして急ピッチでの改善を図ったほか、代表取締役社長が現在の前田義晃氏に代わった2024年以降も通信品質改善に向けた取り組みを強化。

その結果として、一定の品質改善がなされてはいるのですが、それでもなお通信品質に不満を抱く声が止まず、信頼を大きく落としているのが実情です。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第38回

    2026年5月8日の決算説明会に登壇するNTTドコモの前田氏。前田氏の体制となって以降、大きく信頼を落とした通信品質対策には重点的に取り組んでいる

携帯電話会社にとって、通信品質は顧客基盤の維持拡大にも大きく影響してくるだけに、NTTドコモの親会社であるNTTは2026年2月5日、NTTドコモの顧客基盤強化のため2025年度通期の業績予想を下方修正。抜本的な改善を図るべく、多額のコストを費やして販売促進の強化、そして通信品質の改善を推し進めるとしています。

では、実際のところNTTドコモはどのような策をもって通信品質の改善を進めているのでしょうか。2026年5月8日に実施されたNTTの決算説明会でその概要が示されており、主な取り組みの1つとなるのが5G基地局の設置強化です。

通信量が非常に多い大都市圏の通信品質改善を図るには、大容量通信が可能な「サブ6」と呼ばれる6GHz以下の周波数帯、NTTドコモでいえば3.7GHz帯や4.5GHz帯の周波数帯のネットワーク整備が不可欠です。それだけにNTTドコモは2025年度、サブ6の基地局数を3万7300にまで増やしています。

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    NTTドコモは5Gの基地局を大幅に増強しており、そのうちサブ6の基地局数は3万7300にまで達している

これはサブ6の基地局数が最も多いとされるKDDIに次ぐ水準と見られ、実はNTTドコモのサブ6基地局数自体は決して少ない訳ではありません。むしろ同社の弱みとなっているのは、それより低い、4Gから転用した周波数帯の5G基地局設置です。

総務省の調査によると、4Gから5Gに転用した基地局の数は、2025年3月末時点でKDDIが5万、ソフトバンクが8万といった規模であるのに対し、NTTドコモは2026年3月末時点でも1万5000局にとどまっています。

低い周波数帯による5Gの面的カバーが進んでおらず、局所的には5Gによる大容量通信の恩恵が受けられるものの、エリアの端などでは不安定になりやすいことが、通信品質が高まらない主因と見ることができるのではないでしょうか。

それだけにNTTドコモも、4Gから5Gへの転用を強化しており、具体的には4Gに割り当てられていた700MHz帯の5G向け転用を加速する方針のようです。

ただ、700MHz帯は、いわゆる「プラチナバンド」と呼ばれる周波数帯で、障害物に強く広域をカバーしやすいことから、その700MHz帯を5Gに転用してしまうと、4Gの通信に影響が出てしまう可能性があります。

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    NTTドコモは4Gで使用していたプラチナバンドの1つ、700MHz帯の5G転用を積極化し、サブ6だけでは不安定になりやすい5Gの通信を安定化させようとしている

とりわけ現在の5Gは、4Gと5Gを一体で運用するノンスタンドアローン(NSA)運用が主流で、5Gに接続するにも一度4Gへの接続が必要となることから、4Gにかかる負担が非常に大きい状況にあります。

それだけに、一部とはいえ4Gで使用する周波数帯が減少してしまうと、4Gの通信品質が低下しネットワーク全体に悪影響を与える可能性があるのです。

そこでNTTドコモが新たに打ち出したのが、もう1つのプラチナバンドである800MHz帯の拡張です。

これまでNTTドコモは800MHz帯の3分の2を4G、3分の1を3Gに用いていたのですが、2026年3月末をもって3Gのサービスが終了し、3Gに使用していた800MHz帯を4Gにフル活用できるようになったことで、5Gに移行した700MHz帯の分の容量をカバーできるようになった訳です。

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    3Gで使用していた800MHz帯の一部が、サービス終了により活用できるようになったことで、800MHz帯を全て4Gに活用し、5Gに転用した700MHz帯をカバーしようとしている

無論、800MHz帯や700MHz帯の影響が出てくるのはこれからでしょうが、これまでの取り組みによっても通信品質は着実に改善しているようで、同社の調査では2026年3月時点で主要都市中心部のうち96%でダウンロード100Mbps以上の通信速度を記録。

また、通信品質の低下が多く指摘されてきた東京都内のJR山手線においても、2025年には平均ダウンロード速度が、2023年度比で約77%向上したとしています。

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    通信品質向上の取り組みによって、通信品質低下が多く指摘された主要都市の中心部でも、96%の箇所でダウンロード時100Mbpsを記録するようになったという

品質対策より難しい信頼とイメージの回復

ただ、それだけの取り組みをしてもなお、SNSなどではNTTドコモの通信品質に対する不満の声が、今なお多く挙がっていることも事実です。

その理由の1つは5Gネットワーク整備戦略がKDDIやソフトバンクと大きく異なり、先にも触れたように4Gから転用した周波数帯の活用に長らく消極的だったことが影響していると考えられます。

2つ目は、4Gに依存しない5G専用のネットワークで利用できる、スタンドアローン(SA)運用の移行が競合よりも遅れていることです。今回の決算においてもNTTドコモは、5G SAのエリアは広がっているとする一方、具体的な整備の計画や数値目標については言及を控えていました。

その理由について前田氏は「5G初期に導入したものが、(5G SAに)対応していないものがある。その交換も含め対応を頑張ってやっている最中」だと話しています。エリア面では今年度に他社と同等の水準に拡大したいとしていますが、5G SAへの移行が進まないことも不満を高めている要因の1つといえるでしょう。

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    5G専用で4Gに負担がかからないSA運用の5Gネットワークに関して、対応エリアが広がっているとするものの、現在もなお人口カバー率など具体的な数値目標などの言及はない

そしてもう1つ、より大きな壁として長く立ちはだかることになりそうな要因が「NTTドコモは遅い、つながらない」というイメージが定着して顧客からの信頼が大きく落ちていることです。

そのことを示しているのが、ここ最近SNSなどで、オンライン専用プラン「ahamo」の通信速度が遅いのではないかという声が多く挙がったことです。

NTTドコモはKDDIの「au 5G Fast Lane」のように、料金に応じて通信品質を変えるサービスを提供していないので、ahamo利用者の通信速度が遅いということは、上位の料金プラン「ドコモMAX」の利用者が同じ場所・タイミングで通信しても遅いということになります。

しかし、それでもなお、顧客からこうした疑念が生じてしまうのは、それだけNTTドコモがネットワーク面での信頼を回復できていないからこそといえるでしょう。それだけに前田氏も、一度定着してしまったイメージを変えるためには、先を見越した顧客とのコミュニケーションを積極的に取る必要があると話しています。

すでに通信品質が改善した路線などでは積極的なアピールを進めているそうですが、今後さらに通信品質の改善を進めたタイミングで、顧客との積極的なコミュニケーションで理解を促進していくとしています。

これまでの携帯電話業界の歴史を振り返るに、通信品質は“水物”であり、どの携帯電話会社も通信品質を落としたり、改善させたりということを繰り返してきています。それだけに、NTTドコモの通信品質もいずれ改善に向かうと思われるのですが、一度定着したイメージを変えることは、通信品質の改善以上に困難なもの。NTTドコモには今後、通信品質改善と信頼回復、両軸での取り組みが問われることになりそうです。