米Space Exploration Technologies(スペースX)と提携し、衛星・スマートフォンの直接通信によるサービス「au Starlink Direct」を提供してきたKDDI。競合がスペースXと同種のサービスを相次いで開始し、独占が崩れる中においてKDDIはau Starlink Directの法人活用を打ち出すことで、追随する競合との差異化を図り優位性を打ち出そうとしているようです。→「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の過去回はこちらを参照。
個人向けには海外利用やSOS通信を強化
2023年にスペースXと提携し、同社の低軌道衛星群「Starlink」を活用した衛星通信サービスの提供に力を入れてきたKDDI。2025年4月には競合に先駆けて、Starlinkの衛星とスマートフォンを直接接続し、場所を選ぶことなく通信できるようにする「au Starlink Direct」の提供を開始し、大きな注目を集めました。
しかし衛星を保有するスペースXは、2026年に入り国内の競合他社とも同種のサービスを提供する方針を打ち出しています。
実際、ソフトバンクは2026年4月10日に、Starlinkとスマートフォンの直接接続サービス「SoftBank Starlink Direct」の開始を明らかにしていますし、NTTドコモも2026年4月27日に「docomo Starlink Direct」を開始しています。
これはすなわち、Starlinkとスマートフォンとの直接通信サービスが、KDDI独占ではなくなったことを意味します。しかもStarlinkはスペースXが保有するものですので、同じStarlinkを使ったサービスとなれば、au Starlink Directと競合2社のサービスに大きな違いは生じないでしょう。
それだけにKDDIに問われるのが、Starlinkを活用したサービスの独占が崩れた今後、どのような策をもって衛星通信サービスで優位性を維持するのかということ。そこでKDDIが2026年4月23日に打ち出したのが、1つにコンシューマ向けサービスの強化です。
具体的には、1つに衛星・スマートフォンの直接通信による海外ローミングに対応する国の拡大です。すでに対応している米国のほか、カナダ、フィリピン、ニュージーランドへと対応国を広げるとしています。
もう1つが24時間365日対応のSOSセンターを開設することです。山や海などでも利用できるau Starlink Directは、緊急時のSOSメッセージを送るのにも活用されていますが、現在のところ通話が利用できず、緊急通報もできないことから、警察や消防などの緊急通報受理機関への連絡は必ず第三者を介する必要がありました。
そこでKDDIはSOSセンターを新たに設け、特定のアプリからSOSボタンを押して自身の状況などをメッセージで送ることにより、SOSセンターがそれを受信して緊急通報受理機関へ連絡を入れる仕組みを構築。「auナビウォーク」や「ヤマレコ」などいくつかのアプリから対応を進め、今後その対象範囲も広げていく予定だとしています。
先行する経験を生かし、IoT向け通信や閉域接続を実現
ただ、KDDIがより大きな差異化要素として打ち出しているのが、au Starlink Directを法人向けに活用する取り組みで、その1つが「au Starlink Direct for IoT」になります。これは文字通り、au Starlink DirectをIoT向けに提供することで、モバイル通信のネットワークが整備されていない山間部などでIoT向けの通信を利用可能にするものです。
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法人向けのau Starlink Directとして新たに提供される「au Starlink Direct for IoT」。モバイル通信が整備されていない場所で、衛星を通じてIoT向け通信を提供するものとなる
日本では少子高齢化とそれに伴う労働人口の減少により、電気やガスの検診、そして物流などのインフラを地方の隅々まで維持することが難しくなっています。その一方で、最近では山火事河川の氾濫など自然災害が増えているだけでなく、最近では熊による獣害が相次いでいることもあって、人が訪れにくい場所でも定期的な確認業務などが求められるようになってきました。
こうした業務には、センサで取得した情報を無線通信で伝送する、IoTの技術が多く用いられています。ですが山間部のように住人が少ない、あるいはまったくいない場所ではモバイル通信のネットワークが整備されていないため、IoT向けの通信を活用するのが難しい状況にありました。
そのため、KDDIはau Starlink Directの仕組みをIoT向けにも提供することで、モバイル通信が圏外の場所でもIoTの技術を活用できるようにしている訳です。
すでに同社では、複数の企業と連携して、気象センサや水位、獣害対策用の捕獲わなの状況などの情報をau Starlink Direct for IoTで送信し、遠隔で確認できるようにする実証を実施。今後、その実績をもよに、企業や自治体などに向けたソリューションを提供し、社会課題解決につなげていきたいとしています。
しかし、衛星通信は空が見えないと通信ができないので、森や林の中では活用が難しいように思えます。KDDIの説明によると、木が生い茂っている場所でも以外と通信ができる場所が多いとのこと。それに加えてIoT向けの通信は常時接続が必ずしも必要な訳ではなく、通信が可能になったタイミングでデータを送信できればいいことも多いため、多少通信が不安定な場所でも問題はないとのことでした。
一報、KDDIは専用のアンテナを用いてStarlinkと通信する、従来型の衛星通信サービスを活用した「Starlink Business」に関しても新たな取り組みを打ち出しており、それはStarlinkでの閉域接続です。
KDDIの法人向けネットワークサービス「KDDI Wide Area Virtual Switch」(KDDI WVS)とStarlinkを活用することで実現しており、衛星通信でもインターネットを一切経由することなく、企業の閉域網へ接続できるようになります。
なぜ衛星通信で閉域接続が必要なのかと言いますと、それは2024年の能登半島地震における経験が影響しています。KDDIは能登半島地震の際、基地局の復旧に加え避難所などでの利用のため、多くのStarlink設備を現地に持ち込んで活用していました。
ですが医療機関や自治体からは、個人情報を扱うため、セキュアな通信ができる環境が必要との声が多く挙がったそうです。通常のStarlinkはインターネット接続が前提の設計になっているため、当時その要望に対応はできなかったといいますが、そうしたニーズがあることを受けてスペースX側と協議を進めた結果、今回の閉域接続を実現するに至ったとのことでした。
競合が追随しているとはいえ、KDDIには先行してStarlinkを活用し、実績と経験を積み上げてきた強みがあることは確かです。閉域接続のように、その経験を新たなサービス開発につなげられることがKDDIの強みといえ、その優位性をどこまで生かせるかが今後の勝負所になってくるでしょう。





