NTTとNTT東日本、大成建設の3社は2026年4月10日、次世代ネットワーク基盤「IOWN」のオールフォトニクスネットワーク(APN)とローカル5G、および60GHz帯の無線LANを活用して複数の重機を遠隔操作する実証実験に成功したと発表しました。建設機械が入る場所は有線ネットワークの敷設が難しいことも多く、環境整備やコスト面で大きな課題が生じる可能性がありますが、なぜ有線ネットワークをベースとしたAPNを用いる必要があったのでしょうか。→「ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革」の過去回はこちらを参照。

APNにWiGigとローカル5Gを組み合わせて実現

NTTはグループ全体で、すでにIOWNで商用サービスを開始しており、超低遅延の有線ネットワークを実現するAPNのユースケース開拓を進めています。そして2026年4月10日、新たなユースケース開拓に向けた取り組みとして打ち出されたのが、NTTグループと大成建設による、建設現場での活用を想定した重機の遠隔操作に関する実証実験です。

これは三重県桑名市の遠隔操作拠点と、同じ三重県の東員町にある実証現場の2つの拠点間をAPNで接続し、1台の操作卓から異なるメーカーの複数の重機を遠隔操作、あるいは自動制御するというもの。しかし、重機に有線のネットワークを用いることはできないので、実際に重機を動かす実証現場側には、何らかの無線のネットワークが必要となってきます。

  • ネットワーク進化論 - モバイルとブロードバンドでビジネス変革 第35回

    NTTグループと大成建設が三重県で実施した建設機械の遠隔・自動操作に関する実証のネットワーク構成。IONWのAPNで遠隔操作拠点と実証現場との2拠点間を結び、実証現場では用途に応じて2つの無線通信技術を用いている

そこで今回の実証実験で活用されたのが、1つに「WiGig」と呼ばれる、60GHz帯の電波を用いた無線LANです。

ミリ波に相当する60GHz帯を使用するWiGigは、より低い帯域を用いる一般的な無線LANと比べ帯域幅が広く高速通信が可能なことに加え、免許不要での利用が可能ながら利用が少ないこともあり、混信が少なく安定した通信がしやすいことから採用されたものと考えられます。

ただ、携帯電話向けのミリ波が不人気で活用が進まないことからも分かる通り、60GHzもの高い周波数帯は直進性が強く障害物にも弱いので、WiGigを建設機械のように移動する機器では利用しづらいことが課題となります。

そこで今回の実証実験では、NTTが開発した技術を活用して建設機械に2つの無線部を搭載し、同時に複数のアクセスポイントに接続することでアクセスポイントが切り替わっても通信を維持する仕組みを備え、移動中も安定した通信を実現しているとのことです。

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    建設機械の遠隔制御には、免許不要で大容量通信が可能なWiGigを採用。ただし周波数が高く移動する機器での利用には弱いことから、NTTの技術を用い移動中もネットワークが途切れない仕組みを導入している

WiGigの無線機は土を掘削する油圧ショベルと、その土を運ぶクローラーダンプの2台に搭載し、双方を遠隔制御するのに活用されているとのこと。その結果、APNとWiGigの組み合わせで、エンドツーエンドで遅延数msec程度、ジッタ数十μsec程度と、遅延を大幅に抑えることに成功したとしています。

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    APNとWiGigを用いて油圧ショベルとクローラーダンプを遠隔操作した結果、遅延は数msec程度に抑えられたという

そしてもう1つのローカル5Gはブルドーザーの自動制御に用いられ、実証現場への環境構築をNTT東日本が担ったとのこと。なぜWiGigだけでなく、ローカル5Gが必要とされたのかといいますと、ブルドーザーが300m程度の広い範囲を移動するためです。

WiGigでもハンドオーバーによる移動中の通信が可能とはいえ、広い範囲で利用するには多数のアクセスポイントを設置する必要が出てきてしまいます。

ですが移動に強いセルラー技術をベースとした自営網であるローカル5Gならば、広いエリアのネットワークを無線でカバーしやすく、それでいて商用の5Gネットワークと違い、専用の固定ネットワークを用いるAPNの実力を生かしやすいといえるでしょう。

ただ今回の実証実験では、APNのネットワークをローカル5Gの基地局がある現場まで敷設するのは時間がかかることから、基地局までのネットワークを有線ではなく、WiGigによる無線ネットワークで代替。これによって従来、終日作業が必要だった無線環境の構築を、1時間程度に短縮できたとしています。

その場合、ローカル5Gのバックホールを無線にすることで性能が低下したり、通信が途切れたりすることが懸念されますが、今回の実証ではGNSS(全球測位衛星システム)信号にもとづく重機の位置情報を遠隔拠点に伝送しながら、遠隔操作で重機を長距離移動させることが十分できたとのこと。安定して高いネットワーク性能を実現できていた様子がうかがえます。

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    ローカル5Gは300m程度の広いエリアを走行するブルドーザーの自動制御に活用。整備時間短縮のためバックホールにWiGigを用いたが、十分な性能を発揮できたという

重要なのは遅延の安定、整備コストの課題克服は

ただ過去のさまざまな実証実験から、工事現場で建設機械を遠隔操作する際の遅延は、APNを使うほどシビアではないことが示されており、「Starlink」などの衛星通信で対応できるケースもあるほどです。

それにもかかわらず、なぜより大がかりなAPNをベースにしたネットワークを用いる必要があったのかといいますと、理由の1つは大容量通信にあるようです。

実際、今回の実証実験では3台の建設機械を同時に制御する必要がありますが、安全に操作するには建設機械からの映像で周囲を確認する必要があります。その実現には、1台の建設機械に対して4つのカメラからリアルタイムで映像を伝送する必要があることから、大容量通信に応えられるAPNやWiGigなどが必要となったようです。

そしてもう1つは、遅延の“ゆらぎ”です。常に安定して一定の遅延が生じるのであれば、運転側がその状況に合わせた操作をすることで対応できるでしょうが、その遅延が不安定で一時的に映像がカクついたり、止まってしまったりすると、遠隔操作する人間側の判断と操作に非常に大きな影響が出てしまいます。

それゆえAPNを用いたのには、遅延を小さくするよりむしろ、遅延を安定化させる狙いが大きかったといえるでしょう。

しかし、実際の工事現場でこの仕組みを導入するとなりますと、少なくとも現場の近くまで有線のAPNを敷設する必要があるため、場所によっては敷設に相当なコストがかかってしまいかねません。そのため大成建設では、今回の実証で得た成果をダムの堆砂除去工事に活用することを考えているようです。

そうした場所には何かしらのIT機器を活用するため、有線のネットワークを敷設することが多く、有線ネットワークを前提とした仕組みが構築しやすいとのことでした。

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    大成建設では今回の実証実験の成果を、2027年度にダムの堆砂除去工事に適用したいとしているが、そうした場所では事前に有線ネットワークを整備することが多く、APNを導入しやすいとのこと

それゆえ今回の実証の成果が、インフラが整備されているとは限らないすべての工事現場のシーンで活用できるとは考えにくいのですが、ある程度環境が整った場所であれば無線による遠隔・自動での工事も十分可能になってきたことを示していることも、また確かだといえます。

昨今、全国で大きな問題が生じているように、建設業界の人手不足は他の産業と比べても深刻なだけに、より多くの現場で新しい技術を活用しやすい仕組みの構築や整備が求められる所ではないでしょうか。

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https://news.mynavi.jp/techplus/article/20260410-4320930/

https://news.mynavi.jp/techplus/article/20260408-4312078/

https://news.mynavi.jp/techplus/article/20251117-3678636/

https://news.mynavi.jp/techplus/article/20240527-2953586/