東京・大森に本社を置くディスコは、2025年度の売上高が4368億円に達する日本有数の半導体製造装置メーカーだ。同社のビジネステーマは「高度なKiru・Kezuru・Migaku技術」。1937年に広島・呉で砥石のメーカーとして立ち上がって以来、精密な切断へのこだわりから事業を拡大し、そして半導体製造装置メーカーとして強固な礎を築くこととなった同社は、現在5500名以上の従業員と共に成長を続けている。

そして自社のさらなる成長、ひいては半導体製造装置産業の拡大を見据えるディスコは、未来を支える次世代人材への挑戦の場を提供している。画面上のコードと向かい合うだけでなく、“装置を動かす”という重要なプロセスに本気で取り組む機会として、2026年には、技術開発の中核を成す東京・大森と装置製造を支える祖業の地・呉で、2つのコンテストを開催した。どちらも「装置を動かす大会」でありながら、まったく異なる戦いとなった2大会。今回は、初開催から10周年を迎えた歴史あるプログラミングコンテスト「DISCO Equipment Coding Contest(DECC)」についてレポートする。

  • プログラミングコンテスト「DECC」をレポート

    10周年を迎えたディスコのプログラミングコンテスト「DECC」をレポート

賞金は最大100万円! “装置を動かす”特殊な大会形式とは

DECCは、ディスコが主催するプログラミングコンテスト。その最大の特徴は「装置実装問題」だ。10周年を迎えた大会だが、実際に装置にコードを実装して動かす形式での開催は今回が7回目。当初はオンライン上のみで競技が行われていたというが、半導体製造装置メーカーとして“プログラミングで実際の装置を動かす”ことの面白さ・難しさを体感できる機会にする狙いもあり、最終課題として装置実装問題が設定された大会形式に移行された。

そして今年の大会では、大会の規模が大きく拡大。2024年は30人、2025年は60人がディスコ大森本社での本戦に出場できたのに対し、今回は98人が出場した。1日がかりの大会では、午前中に全選手共通のシミュレータ問題に挑戦。今年のテーマ問題である装置を再現したシミュレータでの獲得スコアを競う。ただし、自らのコーディングを実装して装置を動かせるのは、このシミュレータ問題で好成績を残した上位30名のみ。非常にハイレベルで厳しい関門が設定された。

  • 今大会では本戦に98人が出場

    今大会では本戦に98人が出場。過去最大規模の大会となった

なお本戦では、午前のシミュレータ問題と最終課題である装置実装問題のそれぞれで、上位3名には賞金が贈られる。シミュレータ問題では1位から順に20万円、10万円、5万円、装置実装問題では1位から順に30万円、20万円、10万円が贈られ、また両問題で1位を獲得した“完全優勝”の場合にはボーナスとしてさらに50万円が追加。最大で100万円が獲得できるのである。また副賞として、装置実装問題での成績次第ではディスコの就職面接パス券も授与。1~8位の選手は役員面接確約と、かなりの大型特典が与えられる。

  • 成績優秀者に贈られる賞金の概要

    シミュレータ問題・装置実装問題のそれぞれで成績優秀者には賞金が贈られる。両部門で優勝すると、賞金総額は100万円に!

これらの賞金や副賞、そしてプログラマーとしての名誉を懸けた戦いとなった今大会の課題は、昨年に引き続き“バウンド”がテーマ。高い位置から落下するボールを傾いた反射板に当て、バウンドした先で装置の盤上に設置された18個の穴にボールが入れば得点となる。前回大会で多くの参加者を悩ませた装置からさらに難易度は上がっており、時間を追うごとに高さが変わる反射板の角度調整や、ボールが入れば高得点を狙える穴の指定時間など、さまざまなパラメータを調整しなくてはならず、挑戦する選手たちは、穴の位置の対称性や時間制限などさまざまな側面に頭を悩ませた。

シミュレータでの1回戦を通過できるのは30名

大会当日、ディスコ大森本社には続々と選手が集結。中にはスーツケースを引きながら到着する姿もあった。そして選手たちは会場で配布されたTシャツに着替え、各々持ち込んだキーボードやタブレットなどのデバイスを準備。知り合いで集まり談笑する人もいれば、黙々と準備しながらその時を待つ背中も見られるなど、それぞれの形で開始に備えた。

そして9時30分、開会式を経ていよいよシミュレータ問題が開始された。この関門を突破して装置実装問題にたどり着けるのは、わずか30名。狭き門をくぐり抜けようとする選手たちの打鍵音やクリック音が静寂の中に響いた。

  • シミュレータ問題に取り組む選手たち

    シミュレータ問題に黙々と取り組む選手たち

最終課題の装置は会場の中心に設置されているが、パーテーションで区切られ、その姿を見ることはできない。とはいえシミュレータ問題の内容は装置実装問題と同じ仕様の装置で、まずはバーチャル上でのハイスコア獲得を目指して、与えられた情報から最適解を導き出すため、それぞれが試行錯誤を続ける。

110分のシミュレータ問題を終えると、つかの間の昼休憩。そして再び選手たちが座席に戻ると、同問題の順位が発表され、装置実装問題に進むことができる上位30名が発表された。上位に入った30名は、第2ステージとなる実機用問題に着手。一方で惜しくも敗退となった選手は、シミュレータ問題の延長戦に取り組んだ後、ディスコ本社の見学ツアーやトークセッション、クイズ大会などといった特別コンテンツに取り組むこととなった。

初めて見る装置の挙動に四苦八苦する決勝進出者たち

装置実装問題に進出し実機用問題に取り組む30名は、45分間でプログラムを組み上げて提出。休憩を挟み、提出したプログラムを装置に実装して、実機での挙動を確認できる実機トライアルが開始された。

実機トライアルでは、選手たちはパーテーションで囲まれた装置の元まで向かい、自ら設定した動きでどれだけのスコアが獲得できるのかを目の当たりにする。最初のトライアルでは上手くスコアが獲得できない選手が多く、首を傾げながら確認する姿も見られた。その背景には、ボールのバウンドにもたらされるわずかな摩擦や、穴の形状による跳ね返りの影響もあり、実際の装置を動かす難しさが表れていた。しかし中には、トライアル初回の段階から大半のボールを狙い通り穴まで届ける選手もおり、前回大会も観戦した筆者からしてもレベルの高さが感じられた。

  • 今大会の装置

    今大会のテーマとなった装置

実際の装置の動きを確認できるトライアルの機会は、各選手2回のみ。選手たちは装置の挙動を何度も何度も確認しながら、より良いスコアを獲得できるプログラムを模索する。85分×2回という時間が設けられているものの、さまざまな選手が後に“時間が足りなかった”とコメントしており、その試行錯誤には際限がなかった様子。それぞれ頭を悩ませながら、ついに決勝ラウンドで披露するプログラムが各選手から提出された。

  • 実機トライアルの様子

    実機トライアルの様子。実際に装置を動かし、その挙動からコードの改善点を探り出す