この半導体ニュースのまとめ

・ロームが第2世代テラヘルツ波発振デバイスの狙いをシンポジウムで説明
・発振出力を第1世代比4倍に高め、評価キットのダイナミックレンジは約80dBへ向上
・安価な評価キットで用途探索を促し、日本発のテラヘルツエコシステム構築を目指す

ロームは8月7日、「テラヘルツ波・共鳴トンネルダイオード シンポジウム」を開催。8月4日に発表したばかりの第2世代テラヘルツ波発振デバイスについて、顧客やパートナーに向けて解説を行ったほか、こうしたイベントがどういった狙いの下、開催しているのか説明などを行った。

  • 左から、東京科学大学 総合研究院 未来産業技術研究所の鈴木左文 教授、ローム研究開発センターセンター長の中原健氏、ローム研究開発センターの中原健センター長,ローム 研究開発センター 融合技術研究開発部 テラヘルツグループグループリーダーの鶴田一魁氏A@ロームのテラヘルツ波研究チーム

    左から、東京科学大学 総合研究院 未来産業技術研究所の鈴木左文 教授、ローム研究開発センターセンター長の中原健氏、ローム研究開発センターの中原健センター長,ローム 研究開発センター 融合技術研究開発部 テラヘルツグループグループリーダーの鶴田一魁氏A@ロームのテラヘルツ波研究チーム

第2世代品は同一パッケージで発振出力を4倍に

同社の第2世代テラヘルツ波発振デバイスの概要については既報の通りだが、その最大の特徴は、2025年に登場した第1世代と同一パッケージサイズながら、発振出力を4倍に向上させた点。これに伴い、評価キットのダイナミックレンジも第1世代の約50dBから80dBへと向上しており、第1世代では計測できなかった厚めの材料や損失の大きな材料の測定が可能になったり、テラヘルツ波の送受信距離を伸ばすことなどが可能となった。

  • 評価キットの全景
  • 発振デバイス/検出デバイス部のアップ
  • 評価キットの全景と発振デバイス/検出デバイス部のアップ

テラヘルツ波は100GHz~10THzの電波と光の中間の周波数領域にある電磁波で、高い透過性と直進性などの特徴から、イメージングやセンシング、レーダー分野などでの活用が期待され、社会実装に向けた研究開発が進められ、一部メーカーからテラヘルツ分光・イメージング解析システムなどが上市されていたものの、そのシステムコストの高さや産業領域におけるキラーアプリケーションの不在などもあり、テラヘルツを社会で積極的に活用するところまでには至っていない。

  • テラヘルツ波は100GHzから10THzの周波数帯

    テラヘルツ波は100GHzから10THzの周波数帯。さまざまな分野で活用が期待されているが、社会実装には至っていない (提供:ローム)

社会実装の鍵を握るRTD方式、低コスト評価キットで用途探索を後押し

こうしたテラヘルツを取り巻く環境の中、素子そのものを小型化しやすく、出力次第では冷却機構が不要で、かつ低消費電力でテラヘルツ波を発振できる共鳴トンネルダイオード(RTD)を用いた発振・検出デバイスによる社会実装に期待を寄せるのがロームと東京科学大学 総合研究院 未来産業技術研究所の鈴木左文 教授である。両者は鈴木教授の恩師である浅田雅洋 教授(当時)の時代から協力関係にある間柄だが、近年の実際のRTD方式のテラヘルツ波発振デバイス製品化により、「社会実装の鍵になるデバイスがようやく登場してきた」(鈴木教授)という段階に入った。

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    パッケージサイズは4.0mm×4.3mm×3.25mmと小型で、従来方式のシステムと比べて取り回ししやすい点が特徴で、応用範囲を広げることが期待される (提供:ローム)

素子が小型化できたことによるインパクトについて、鈴木教授は「小さなセンサは身体の状態を図るのに向いており、生体情報を取得するスマートウォッチへの適用や、ラインセンサの構築など、利用できる幅が広がるため、社会的なインパクトが大きい」と説明する。

また、導入コストの面でも破格である。例えば、フェムト秒ファイバレーザーを用いたテラヘルツ分光システムでは、数百GHz~数THzの周波数レンジを選択できるという強みがあるものの、価格は1000万円を軽く超えてしまい、手軽に用途探索に使ってみよう、というレベルでの導入は難しい。用途が定まっている状態であれば、設備投資としてなら許される金額だと思われるが、テラヘルツ関連はどこにどう使うか、が完全に固まりきっていない領域であり、そこにそれだけのコストはかけられないというのが、これまでの社会実装に向けた障壁となっていたわけである。

  • 従来方式のテラヘルツ波デバイスはサイズも消費電力も価格も手軽に使おうと言えるものではなかった

    従来方式のテラヘルツ波デバイスはサイズも消費電力も価格も手軽に使おうと言えるレベルのものではなかった (提供:ローム)

それがロームのRTD方式の第2世代テラヘルツ波発振デバイスの場合、発振デバイスと検出デバイス、評価ボードと各デバイスを接続のための同軸ケーブル(MMCX)がセットになった評価キットの状態で35万円(税別)と、これまでを考えると破格の安さでの提供となる(実際にはデジレントのPC接続型多機能計測器「Analog Discovery 3」と専用ソフト「WaveForms」を表示するためのPCが別途必要がある)。

  • すべてが揃った評価キットとして提供される

    デバイス単体での提供ではなく、すべてが揃った評価キットとして提供される(ただし「Analog Discovery 3」とPCは別途用意する必要がある) (提供:ローム)

ちなみに検出デバイスは第1世代のまま、評価ボードについてはオペアンプを第1世代の時よりも性能の良いものに変更したとする。ロームによると、発振領域に電圧を印可することでテラヘルツ波が発振する周波数変調駆動方式を採用しており、駆動させるための周波数は1/fノイズを考慮し、ノイズレベルを低減できるほか、汎用的なオペアンプが使えるギリギリのラインということで1MHzを採用したと、システムとしての性能を最大限発揮することを考慮した形での改良を施したという。また、受信回路には、DC電圧をテラヘルツ素子に供給しながら交流信号を取り出すことができる「Bias Tee回路」を採用したとする。

300GHz帯から市場形成へ、第3世代では450GHz以上も視野

ロームのRTD方式のテラヘルツ波発振デバイスは第1世代、第2世代ともに発振周波数は320GHz(Typ)となっている。テラヘルツとして考えれば、もっと上の周波数を選択しても良いと思えるが、ローム 研究開発センター 融合技術研究開発部 テラヘルツグループのグループリーダーの鶴田一魁氏は、「300GHz帯はすでに国際的な合意が形成が進められており、市場の拡大が期待されている帯域であるため(活用が期待されているのは主に252GHz~325GHz付近の帯域)」であり、法規制などの進展とも歩調を合わせる形で製品化を進めてきたためだとする。

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    ロームのテラヘルツ波発振デバイスの仕様概要。発振周波数は第1世代、第2世代ともに320GHz(Typ)。第2世代の消費電力40mWというのは冷却機構が不要なギリギリのラインだという (提供:ローム)

技術的にはすでに大学の研究室レベルでは1THzを超えるデバイスが製造可能であることが報告されており、実際にロームにも第1世代品の発表以降、より高い周波数への対する問い合わせなどもあり、開発中の第3世代品では450GHz以上への高周波化が計画されている。

  • テラヘルツ波発振デバイスの製品開発ロードマップ

    ロームのテラヘルツ波発振デバイスの製品開発ロードマップ。高出力化と高周波化の両立は難しいことから、2つの方向性で製品の拡充を目指すとしている (提供:ローム)

評価キットを起点に用途開拓を目指す

ただし、デバイスができたからと言って、それがすぐに産業分野の各所で使われることがないことは、さまざまな理由があるにせよ、現在までに社会実装に至っていないという歴史が証明する課題として横たわっている。

この解決もロームは挑もうとしている。ローム研究開発センターの中原健センター長は、「新規事業を作ると簡単にいうが、お金が回るためにはサプライチェーンができて、そこに参加する全員の利害が一致する必要がある。テラヘルツは現状、研究以外で使われることがほぼないため、そうしたサプライチェーンを作るモチベーションを生み出すのが難しい」と、その難しさを分析したうえで、「お金がサプライチェーン上に回るような、テラヘルツだからできるというものが生まれることが重要。そのためにまずは評価キットを配って、使ってもらって何ができるかを多くの人に理解してもらうことが種まきになる」と、価格を抑えて、すぐに使える評価キットまで用意している理由を強調する。

こうした取り組みは、すでに予想外の利用ニーズの掘り起こしにもつながっているという。「もともと一定数のニーズはあると思っていたが、そこは電子機器の世界が中心で、電機メーカーがメインになると思っていたが、植物の葉っぱの水分含有量を計測するとか、言われると、なるほど、と思えるが、実際にはそういったところにも使えるのかと(ロームとして)思っていなかった分野も出てきた」と、安価で提供できるからこそ、試してみて何が見えるのかを調べてみようというニーズの掘り起こしにもつながっているとする。「高周波化しないと見えないニーズがあった。製品化はさらに高出力化して、分解能を上げた後の方が良いのではないか、という話にもなりがちだが、実際にどういったことができるのかは、色々な人が試してみないとわからない。そのためロームとしては、完成度を高めきってから市場に出すのではなく、評価キットとして早い段階で市場に提供し、大学、研究機関、企業などさまざまな興味ある人たちに試してもらう方針を取った」とのことで、第1世代品の提供後には累計200件を超す問い合わせが、工学、農学、医学、ロボティクスなど想定を超える分野からあったという。

  • テラヘルツ波を活用した応用事例
  • テラヘルツ波を活用した応用事例
  • テラヘルツ波を活用した応用事例。物体の投下は良く言われてきたが、液体の有無の検知ができるため、水分量の把握も可能だという。このほか、樹脂(プラスチック)ごとに組成が異なるため、テラヘルツ波を照射することで、ポリエチレン(PE)なのかポリエチレン(PP)なのかといった樹脂の素材判別を行うことも可能なことも見えてきているという (提供:ローム)

「テラヘルツなら日本へ」、産官学でエコシステム形成を目指す

なお、中原氏はサプライチェーンの構築と市場開拓を進めていくことで、「テラヘルツなら日本へ行け」という流れを作って行ければと、これからの方向性を語る。また、鶴田氏も「テラヘルツのエコシステムを日本を中心に作っていきたい」と、日本中心でテラヘルツ業界を育てていきたいとしている。ロームとして、そうしたエコシステムの中にRTD方式の発振デバイスを手掛けるメーカーとしての柱を打ち立てることで、日本が中心的な役割を果たすための一助になるとみている。また、エコシステムの成長のためには、どういった分野でどういった使い方ができるのかを見極めていく必要もあることから「ぜひ、我々のテラヘルツ波発振デバイスを使ってみてもらって、さまざまな文句を言ってもらえればと思っている」と、ユーザーからの率直なフィードバックの重要性も強調している。

さらに、電波(電磁波)であることから法規制の問題も解決していく必要もあり、政府とも協力する形で、日本の産官学が連携して、テラヘルツ波の活用が進む社会の実現を目指していきたいとしている。

  • 市場そのものがまだ未成熟なテラヘルツ波領域を育てていくことは最終製品を手掛けていないローム単独では無理

    市場そのものがまだ未成熟なテラヘルツ波領域を育てていくことは最終製品を手掛けていないローム単独では無理であり、最終製品を手掛ける顧客企業をはじめ、システム構築のためのステークホルダーを含めたエコシステムそのものの構築が重要になってくる。また、テラヘルツ波は有限資源である電波であることから、法規制の対象となるため、政府や規格策定団体などとも協調して利用に向けた標準化や法律の整備なども進めていく必要がある (提供:ローム)